10月某日、ブルガリ ウォッチ プロダクト クリエイション エグゼクティブ ディレクターのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏が来日したという一報を聞き、インタビューを要請。目的はジュネーブ ウォッチ デイズで直接聞くことのできなかった新作について。「サウンド オブ ブルガリ」をテーマに発表された各モデルのデザインの着想源、そしてフェンダーとのコラボレーションに至る経緯について話を聞いた。
フェンダーコラボはブルガリからのアプローチだった
2024年の8月末にジュネーブで行われた時計イベント「ジュネーブ ウォッチ デイズ(以下、GWD)」にて、ブルガリは「サウンド オブ ブルガリ」というテーマを掲げて新作を発表した。その象徴的なモデルのひとつが、フェンダーの「ストラトキャスター」誕生70周年を記念したコラボレーションウオッチだ。このモデルはどのようにして製作することになったのか。ファブリツィオ氏に聞いた。
「彼らにはブルガリチームからコンタクトを取りました。私たちのマーケティングディレクターのジュリアンはギターが好きですからね。最初にロサンゼルスのフェンダーオフィスに連絡を入れたとき、たくさんのギターが並ぶ部屋で、ハワイアンシャツを着た彼らは“スーパークールプロジェクト!”と言って盛り上がってくれました。 私の父もギターが好きだったのでこの楽器には幼い頃から思い入れがあります。ただ、私は楽器ではなく筆を選んだので楽器を弾くことはないのですが(笑)。デザインにあたっては以前のカタログで音楽スタジオにいる男性がブルガリ アルミニウムを着用していた写真のイメージが私の中にあったので、スムーズに取り掛かれましたね。『ギターと同じ木の素材を文字盤に使う』というアイデアも出ましたが、それは現実的ではなかったので金属文字盤をベースにギターのカラーに合わせたライトブラウンからダークブラウンへのシェードダイアルとしました。フェンダーも、カリフォルニア州コロナのフェンダーカスタムショップにて同じカラースキームによるコラボレーションギターを70台製作することになっています。
フェンダーストラトキャスターのコラボレーションモデルは、付属のボックスもギターケースを模したものになっている点も特徴だという。また、GMT搭載モデルにした理由については「テクニカルな要素を加えることを考えたとき、世界各地で演奏するようなギタリストに有用なのはGMT機能でしょう」とのこと。ワールドツアーに出るようなミュージシャンであれば、確かに実用的に違いない。
ロレンツォ・ヴィオッティ氏が監修したチャイミングウオッチの開発秘話
そして話題はチャイミングウオッチへ。2024年のGWD新作としてブルガリは「オクト ローマ グランソヌリ トゥールビヨン」と「オクト ローマ カリヨン トゥールビヨン」を新デザインで発表した。オーケストラ指揮者のロレンツォ・ヴィオッティ氏が監修した「トライトーン」を奏でる点でも話題を呼んだ新作だ。これらのチャイミングウオッチは、文字盤デザインも従来のカテドラルゴングを持つチャイミングウオッチから大幅な変更が加えられている。このドットが広がる特徴的なパターンについては、カーオディオのスピーカーに着想を得たものだと教えてくれた。
「メタルで作られたそれらのスピーカーはとてもクールでエレガント。音の鳴り方についても良い影響をもたらしてくれるだろうと考えました。またダイアル側から見られるムーブメントに施された、美しい仕上げを楽しんでもいただけます。このダイアルだけでもサイズや仕上げなどあらゆる点で検討を重ね、完成までにかなりの時間がかかりましたね」
ファブリツィオ氏は、この時計をブルガリの新しい礎となる1本だと位置付けている。
「ロレンツォとのコラボレーションは、ブルガリにとってとても新鮮な経験となりましたね。音楽のプロフェッショナルである彼は、音階だけでなく音の出るタイミングや響き方など、音の鳴り方についてかなり細かくウオッチメーカーに指示を出していました。とはいえ楽器ではなく時計ですから、単なる音符の再現とはならず、互いの感覚で音を作っていくことになります。ウォッチメーカーは、ゴングやハンマー、歯車の設計などあらゆる点を調整しながら音色を作っていくのですが、サウンドチェックを行うのが常に音楽と共に生きているロレンツォですから非常にストイック。彼の要求に応えたル・サンティエのマスターウォッチメーカーたちに心から敬意を表します」
取材後記
筆者はGWDの期間にル・サンティエのブルガリマニュファクチュールを取材し、マスターウォッチメーカーからも話を聞いた。彼らにロレンツォ・ヴィオッティ氏とのやりとりを振り返ってもらうと、苦笑いを浮かべながら「かなり大変だったよ」とコメントしてくれた。実際、ミニッツリピーターの鳴り方がロレンツォ氏のイメージするリズムやテンポと異なる場合、ウォッチメーカーはあらゆる可能性を考え、ハンマーがゴングを叩く力や速度を調整したり、「ラック」と呼ばれる特殊歯車の歯の位置を再検討する必要がある。その調整はパーツ設計段階までさかのぼる必要があるため、指摘を受けたからといってすぐ対応できるものではないのだ。しかもベースとなる時計自体が数千万円クラスである。トライアンドエラーを繰り返そうにも、イチから作り直すことも難しい。高度な技術を持つマスター ウォッチメーカーさえ苦笑いを浮かべる理由も納得である。
そもそも音によって現在時刻を報せる「ミニッツリピーター」は製造できる時計ブランドが限られているが、そのほとんどが高音と低音の2音のみ。対してブルガリは、3音、4音で時の調べを奏でる「カテドラルゴング」を作り出せる希少なマニュファクチュールである。それだけでも驚異的なうえ、さらに世界的なオーケストラ指揮者が音色を監修したとなれば、その価値は価格に換算できるものではない。まさに美術工芸品である。「ブルガリ アルミニウム GMT フェンダー® 限定モデル」と共に表現された「サウンド オブ ブルガリ」の世界。伝統に則りながらも進化を続けるブルガリのウオッチメイキングにこれからも注目していきたい。 問い合わせ先:ブルガリ・ジャパン TEL.0120-030-142 https://www.bulgari.com/ja-jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。 Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI)、Photo/Keita Takahashi(TableRock)
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