2月某日、スイスのル・ブラッシュで行われたオーデマ ピゲの新作発表会「AP ソーシャルクラブ」を取材した、時計ライター高木教雄氏が現地の模様をレポート。当日のイベント会場の臨場感とともに創業150周年を迎える最高峰メゾンの最新作の特徴を解き明かす。
創業150周年のアニバーサリーイヤーの幕開けを告げる第1弾新作は永久カレンダーに注目
2年ぶりに訪れたジュウ渓谷の町ル・ブラッシュは、2月とは思えないほど暖かく、驚くことに雪すらなかった。渡航の理由は、オーデマ ピゲ独自の新作発表会「AP ソーシャルクラブ」に招かれたから。今年は、メゾンにとって創業150周年の大きな節目に当たる。どんな力作が登場するのか、期待で胸が膨らむ。
オーデマ ピゲが所有するホテル「オテル デ オルロジェ」にチェックインした各国のメディア・関係者約50名はまず、本社に隣接するミュージアム「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」に案内された。その入り口となる、1907年に創業者たちが建設したメゾン最初のアトリエの建物は、ちょっと愛らしい150周年記念の飾り付けで我々を出迎えてくれた。また館内では、メゾンがジュウ渓谷で150年間積み重ねてきた歴史の物語を伝える特別展「ハウス オブ ワンダーズ」が、来場者を楽しませる。1907年当時のアトリエをモチーフとした部屋では貴重なデザイン画や機構図が見られ、林立する白い木のオブジェの間をまるでジュウ渓谷の森の中にいるように通り抜けられたり、特設の7つのエリアはそれぞれに趣向を凝らしていた。




その翌日の「AP ソーシャルクラブ」本番の舞台は、ル・ブラッシュ駅近くに完成したばかりの新ファクトリー「アルク」の裏手にあるホールであった。この日のために制作されたメゾン150年の歴史を伝えるムービーの前では、さまざまなパフォーマンスが繰り広げられ、参加者から拍手喝さいが贈られた(残念ながら写真掲載はNG)。その後、エリアごとにチーム分けされ、いよいよ150周年の新作第1弾のプレゼンテーションがスタート。さすがはメモリアルイヤーである。例年以上に、多彩だ。その中で主役となったのは、完全自社製となった新開発の永久カレンダーCal.7138を搭載した3つのモデルだった。



2018年リリースの超極薄永久カレンダー「RD#2」から構造の一部を流用し、かつ時刻表示機構と統合した一体化とすることで薄型化を実現。また12時位置となった日付表示は、その送り車の歯の間隔を不均等とすることで、一桁と二桁の日付のいずれでも針がインデックスの中心を指すよう改良されている。さらに特筆すべきは、その操作性にあった。既存にあった各暦を調整するコレクターを無くし、リューズだけで個別調整を可能としたのだ。永久カレンダーの全暦を調整できる“オールインワン”リューズ機構は、他社にもある。しかしほぼすべてが全暦を一斉送りできるだけ。個別に調整できるリューズ機構は、世界初である。
「一斉送りは便利ですが、誤って進め過ぎると時計が止まって暦に追い付くまで待たなければならない。また調整時の負荷も、大きい。しかし個別調整なら、進めすぎてもその場で修正できますし、負荷も小さい」と、メゾンの研究開発ディレクター、ルカス・ラッジ氏は、新リューズ機構の出来に自信を覗かせる。
リューズを完全に押し込んだ巻き上げポジション「1」から一段引いたポジション「2」では、右回しで日付が、左回しで月が調整できる。続いてもう一段引くと針合わせのポジション「3」となり、再び一段戻すとポジション「2’」となり、右回りで曜日と週番号、左回りでムーンフェイズが修正できる仕組み。ユーザーフレンドリーな新“オールインワン”リューズ機構は、双方向巻き上げのローターのリバーサーに使われる揺動ピニオンやカムなどを組み合わせ、各ポジションと操作方向によって修正する暦を切り替えるきわめて大がかりな設計となっている。
「リューズを的確に各ポジションにセットできるよう、操作時の力加減をシミュレーションできる機械を導入しました」(ルカス氏)
なるほど、実際に操作すると、リューズを引きすぎたり押しすぎたりする誤操作はほとんど生じず、ストレスを感じない。

今後、メゾンの永久カレンダーはすべて新型Cal.7138に置き換わり、名作と称賛された既存のCal.5134は廃盤となる。その最後を飾る150周年記念モデルも登場。1990年代初頭に製作された「ロイヤル オーク オープンワーク パーペチュアルカレンダー ポケットウォッチ」に範を採り、スケルトナイズしたダイヤルから複雑な永久カレンダー機構を覗かせる様子は、息を飲むほどに美しい。

永久カレンダー以外では、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」は、シックなグレーの新色ダイヤルが目を引いた。また「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ」の新作はセラミックに注力。外装面でも老舗名門メゾンの実力が、いかんなく発揮された。


さらに翌日、帰国のために空港に向かう前、今秋に発表予定だという極秘モデルのプレゼンテーションをされたが、そのあまりの革新性に言葉を失った。150年の研鑽と独立系メゾンならではの創造性の賜物の正式発表を、大いに期待してお待ちいただきたい。
問い合わせ先:オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000 https://www.audemarspiguet.com/ja ※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text & Photo/Norio Takagi (C) Courtesy of Audemars Piguet
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