9月17日から12月15日までの期間、東京・六本木にある国立新美術館の企画展として、ブルガリが過去に手がけた約350点もの希少な作品が鑑賞できる展覧会、「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧 BVLGARI KALEIDOS: COLORS, CULTURES AND CRAFTS」が開催されている。ブルガリにとって日本での最大規模を誇るこのエキシビションの開催を祝うべく来日した、ブルガリ ウォッチのクリエイションを統括するファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏に、本展の印象やブルガリのDNAについて、さらにジェムピースと時計デザインとの関わりなどについて話を聞いた。
「これまでにない規模と内容の展覧会でとても素晴らしい」
–今回のエキシビションをご覧になって、どのような印象を持ちましたか?
「2015年にローマにて史上最大規模の展覧会を行ったことがありますが、それ以降で振り返ると今回の『ブルガリ カレイドス』が一番大掛かりだと思います。この会場は私たちのルーツであるローマに遺る有名なカラカラ浴場のモチーフであり、東京のシンボルツリーでもあるイチョウを想起させるデザインが素晴らしいですし、それぞれの展示の仕方、演出もとても良い。10年ほど前は日本でも展覧会を行いました(※「アート オブ ブルガリ 130年にわたるイタリアの美の至宝」会場:東京国立博物館・表慶館のこと)が、当時と今とで変化した考え方までも上手く反映されていると思います」

–ギリシャ語に由来する「美しい(カロス)」「形態(エイドス)」を意味する今回の展覧会のタイトルは、カレイドスコープ(=万華鏡)を想起させます。これは「色石の魔術師」とも称されるブルガリの宝石の扱い方に由来するものと考えていますが、こうしたメゾンのDNAはあなたの時計デザインにどのような影響をもたらしていますか?
「それぞれの時代に応じたスタイルというものがあると思いますし、私がブルガリのすべてを語ることは難しいです。ただ、確かに一貫している部分は存在していて、そうした『ブランドのDNA』と言えるものは私のブルガリにおける20年ほどの経験の中で自然と身に付きました。たとえば大胆さであったり、色々な要素を合わせ込む折衷主義であったり。また、素材を組み合わせる遊び心もそうですね。時計のデザインでいえば、アルミニウムのような素材使いは好例と言えるでしょう」

–その「ブルガリ アルミニウム」やあなたの代表作「オクト」のようなマスキュリンな時計がある一方、今回の展覧会にもあるようなジュエリーピースをあなたが手がけることもあるかと思います。「セルペンティ」や「ディーヴァ ドリーム」、そしてハイエンドジュエリー「ポリクロマ」のウオッチなどをデザインするときは、どのような点に注意を払っているのでしょうか?
「『ポリクロマ』については、とにかく色彩で遊ぶことがテーマになっているので、あらゆる色彩を取り入れながら作品を作ることを念頭に置きました。色彩で遊ぶことは私たちのDNAでもありますが、『ポリクロマ』ではさらに踏み込んで普段から多用しているエメラルドやルビー、サファイアの3色だけでなくフルカラーを実現していこうと。一方で、やみくもに色を使えばいいわけではないので、理由づけも考えていきます。たとえば『ペンダントに太陽の光が放射状のように広がるコンセプトを持ってきたら様々な色が使えそうだ』とか、複数の色を組み合わせる理由を考えながらデザインするんです。このようなことをチームでも話しながらアイデアをまとめ、組み立てていったわけです。もちろん突然インスピレーションが湧くこともありますよ。そうした場合、若いデザイナーなら最初からPCやタブレットを使いますが、私は手描きのスケッチからスタートすることが多いです」
ブルガリのDNAを100%表現するのではなく余地を残すことが大切
「先ほどのブルガリのDNAという話についてもう少し説明をすると、私はつねに80%〜90%までデザインに反映するようにしています。100%の表現をすると似たような時計が出来上がってしまうでしょうから、遊びや意外性を表現する余地を残しておくのです。とくにジュエリーウオッチの場合はそのような自由さを重要視しています」
–9月初頭にジュネーブ・ウォッチ・デイズを取材し、ブルガリの新作のなかでも「ブルガリ ブロンゾ」がとても魅力的でした。あの時計のような異素材の融合も、ブルガリのDNAだったんですね。
「既存の『ブルガリ アルミニウム』は、約30年にわたりブラック&ホワイトのデザインを貫いてきたので、そろそろ温かみのある色を使ってみてはどうかと考えたんです。そこで、ボディにブロンズを取り入れることにしました。あのモデルは、ラバーとブロンズのほか、プッシュボタンやケースバックにチタンも使ったとてもテクニカルな時計です。クロノグラフには、『グランツーリスモ』(※2023年発表の限定モデル)とのコラボレーション以来となるタキメーターをダイアルに配置するなど、ブロンズの色彩に合わせたグラフィックを用いてバランスを図っています。今回の展覧会に現行のウオッチは並んでいないので、ぜひブティックにも足を運んでいただければ(笑)」

取材後記
筆者も「ブルガリ カレイドス」の展示を鑑賞したが、色彩をテーマにした空間演出に加え、現代アーティストによる作品や日本とブルガリの繋がりを印象付ける展示などもあり、とても見応えのある内容だった。とくにポスターのメインビジュアルにもなっている《コンバーチブル・ソートワール=ブレスレット》(1969年頃)の実物は、圧巻のひと言に尽きる。
インタビューに関していえば、ファブリツィオ・ボナマッサ氏には幾度となくインタビューを行ってきたが、今回は初めて受け答えの最中に彼のデザインインスピレーションが沸くというハプニング(?)が思い出に残る。彼の言う通り、展覧会「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧 BVLGARI KALEIDOS: COLORS, CULTURES AND CRAFTS」を鑑賞すれば、140年以上にわたり受け継がれる“ブルガリのDNA”が現代のタイムピースにも宿っていることが伝わるはずだ。

ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧
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Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI) Photo/Keita Takahashi (TRS)
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