アイコンモデル「タグ・ホイヤー カレラ」が、1963年誕生から55周年を迎えたことを記念して、藤原ヒロシ氏とコラボレーション! その新作発表イベントのために来日したLVMHウォッチディヴィジョン会長ジャン-クロード・ビバー氏に、日本人カリスマデザイナーを起用した理由と、その奥に秘められた戦略を聞きました。
このサイズ感、このヴィンテージ感! 目指したのは自分で身に着けたい時計
「ホイヤー モナコ バンフォード」は、世界限定500本が即売切れとなり、2018年の時計界を代表するコラボレーションモデルとなりました。その勢いのままに、11月20日に発表された「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 by Fragment Hiroshi Fujiwara」は、すでに初回入荷分が予約で完売。ジャン-クロード・ビバー氏も「はじめて手直しの要望を出さなかったモデルです」と手放しで藤原ヒロシ氏に賛辞を贈りました。
「通常のコラボレーションモデルは、依頼する際に“こういう感じの時計”といった要望をお伝えします。でも、今回は相手が一流デザイナーでしたから、自由に取り組んでもらいました。我々は、ただ黙って待つのみ(笑)。
実は、今回のきっかけを作ってくれたのは、18歳になる私の息子、ピエールでした。息子は私に、こうアドバイスしてくれました。“ヒロシ・フジワラはストリートアート、ストリートファッションのボスだ。未来とつながりたいなら、このアーティストに依頼するべきだと思う。ぼくも東京へ行くから、いっしょに頼もう”と。そしてフラグメントの作品をいろいろと見せてくれました。“この人とつながらなければ、若い人につながることはできないよ”と。愛する息子が発案者になったという意味でも、この時計は私にとって特別なモデルになったのです」
エスパス タグ・ホイヤー 表参道で11月20日に開催された発表イベントには、藤原ヒロシ氏も登壇しました。
「最初にビバー会長からアプローチがありました。これまでデザインを頼まれるときは、クライアントが僕のことを知っていて、という場合が多いのですが、今回は僕のイメージ無しで、作品のみで評価されたのが、まずとてもうれしかったですね。
サイズの大きい最近の腕時計は、僕的にあまり欲しいと思うモデルがありませんでした。でも、今回のコラボレーションモデルについては、好きなことをやっていい、と言っていただきました。僕はヴィンテージウオッチが好きで、その源泉のひとつがカレラで、僕的にも憧れがありました。
目指したのは、自分で身に着けたいと思う時計です。タグ・ホイヤーの現行コレクションに人々が期待していないものを創ることができたと思います。このタイミングで、このサイズで、このヴィンテージ感で作れたのは、とても良かった。2種類のストラップが付属していますが、1960年代のクロノグラフに付いていたようなワイドバンドは、特に気に入っています」
藤原氏のコメントを聞いて、ビバー氏は「タグ・ホイヤーのためではなく、自分が着けたいものをデザインしてくれたことに、心から賛同し感謝します。だからこそ、オリジナリティが増し、オーセンティックなデザインとなり、この時計の価値が増しました。とてもユニークで革新的なモデルができたと思います。ただ、ひとつ残念なのは、藤原ヒロシさんにはまったく問題がないのですが、この時計の最初の生産分が、すでに売り切れてしまったことですね(笑)」。
タグ・ホイヤーは常に新しい時代、新しい世代に適合していく
新作発表イベントの後に、さっそくビバー氏への個別インタビュー!
──現在のタグ・ホイヤーにとって大切なのは、若い世代に語りかけていくこと。今春、ビバー会長はそうおっしゃいました。彼らがデジタルを言語としているなら、我々も同じ言語を使わなければいけない、もしテクノロジーが彼らの言語であるなら、私たちもテクノロジーを使って語りかけていかなければいけない、と。今回、18歳の息子さんのアドバイスを聞いて、藤原ヒロシ氏にアプローチしたのも、その一環でしょうか?
「その通りです。彼は息子であると同時に、未来の世代を代表する身近な存在です。若い人は、私よりも未来のことをよく知っているはず。だから、彼らから学ぶし、耳を傾ける」
──息子さんが推薦したデザイナーが、たまたま日本人だった?
「はい、そうです。日本人を前提に探したわけではありません。息子は日本のことがすごく好きで、何度も旅行しています。だから、藤原ヒロシ氏のことをよく知っていたのだと思います。最初にプロトタイプを見たとき、“Less is more”と直感しました。“より少ないことは、より豊かなこと”といった意味合いです。一番気に入ったのは、クラシックでありつつ、非常に強いデザイン性を持っていること。控えめなのに、とても強さを感じさせるデザインです。
──話は変わりますが、ビバー会長がビジネスの第一線から退くとのニュースが9月に配信されました。今後はアドバイザー的な役割になるのでしょうか?
「新しい役職は代表権のない会長で、これまでに存在しなかった役職です。正式な表記は“LVMHウォッチメイキング ディヴィジョン 会長”で、11月1日に正式に発令されています。今回も新しい役職で来日しているので、9月のニュース記事を読んでいないと、ほとんどの人は役職が変わったことにも気づかないと思いますね。ただ、時計作りに関する権限はありません。私ももう70歳になりましたからね」
──ご自身の関わり方は少し変わるわけですが、今後、タグ・ホイヤーはどう変わっていくと思いますか?
「タグ・ホイヤーは、変わるとも言えますし、変わらないとも言えます。常に新しい世代、新しい時代に適合していくと思います。それはカスタマーが変わるから。時計が変わるのではなく、カスタマーが変わるので、その時代ごと、その世代ごとに求められるものを提供できる、魅力のあるブランドであり続けたい。いま、語りかけなければならないのは、先ほどの話にも出てきましたが、ミレニアル世代です。20歳を中心としたこの世代も、やがて25歳になり、さらに上の年齢になっていきます。そのときどきで、時計が時代とともに変化していく、というか、適合していくことが、タグ・ホイヤーのあるべき姿だと思っています。そういった意味で新しい方向性を最初に示してくれたのが、藤原ヒロシさんの作品です」
──「ホイヤー モナコ バンフォード」があまりに好評で、もっと作っておけば良かったとビバー会長は冗談交じりにお話ししていましたが、「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 by Fragment Hiroshi Fujiwara」の世界限定500本も、すぐ売れ切れてしまいそうですね。
「いや、もう少し作っておけばよかった、と思うくらいがちょうどいいんです(笑)。今回のような一流デザイナーとのコラボレーションは、これからも予定しています。匠と呼ばれる方々との仕事は、本当に楽しみです。ぜひ、ご期待ください」