「26歳のときに購入した『ロレックス エクスプローラーⅠ』には、編集者生命のすべてが詰まっている」石原正康(株式会社幻冬舎 取締役 兼 専務執行役員)――MY TIME〜私の時間術〜 Vol.27

時間は誰にでも平等。だからこそ1日24時間、その限られた時間をどう使うかが「人生を楽しむ」ための鍵となります。様々な業界で活躍する人物から「時間術」を聞く本連載。第27回は幻冬舎 取締役 石原正康さんにお話を聞きました。

文/赤坂匡介 撮影/高橋敬大

時間を守ることは、未来の成功を担保すること

幻冬舎の創立メンバーのひとりとして、これまでに数多くのベストセラーを世に送り出してきた石原さん。

現在は同社の取締役として、編集からコンテンツ制作に至るまで多岐に渡り活躍しています。出版界における“レジェンド”とも言える石原さんに、日々どんな時間の使い方をしているのか聞いてみると、そこには「お互いの時間を大切にする」という、石原流の時間哲学がありました。

――石原さんはこれまで、名だたる有名作家の作品を多く世に送り出してきました。時間の使い方で意識していることはありますか?

「返事はすぐに」というのを最近、特に心掛けています。それはメールについてでもです。これは熟考せずにメールを直感的な内容で返信するとも言えますから、驚かれる方もいるでしょう。

ただ、自分の気持ちに対して反応が早いことを悪く思う人間はいない。であれば、“お互いの時間を大切にする”という意味でも、届いたメールが新鮮なうちに返信することが相手のためにもなると考えています。

――時間雑誌の連載などには締め切りもありますし、編集者と聞くと、一般的に「時間に厳しい」イメージがある職業だと思います。

そうかもしれませんね。僕は遅刻がいちばん怖いです。

作家の山田詠美さんと社長の見城徹とでサイパンに行ったんです。出発の日、朝6時半に帝国ホテルのロビーで待ち合わせをしていたのですが、あろうことか僕が目を覚ましたのは集合時間でした。もう大パニックですよ(苦笑)。すぐに支度をして空港に向かい、何とか出発時間には間に合いましたが、その時のことが今でもトラウマになっています。

遅刻はたった一度でも、信頼を失う可能性があります。つまり時間を守ることは、未来の成功を担保することであると僕は思っているんです。

 

「ロレックス」の腕時計は、26歳のときに買った“思い出の1本”

――いくつか時計をお持ちいただきましたが、特に思い入れのあるものはどれですか?

この中では、やはり初めて購入した機械式時計「ロレックス」ですね。

当時26歳だった1988年の10月、作家の宮本輝さんと取材旅行に出ていました。

輝さんが着けていたのが「ロレックス エクスプローラーⅠ」でした。カジュアルにもフォーマルにも使えるデザインでしたし、輝さんから「水上勉さん、それに小林秀雄さんも使われていた」と聞き、「いつか自分もほしいな」と思っていました。

輝さんとの旅行で、リスボンを訪れた際に、時計店に寄ったんです。そこで「ロレックス エクスプローラーⅠ」を見つけ、迷う間もなく購入したのが、この時計です。

当時の僕からすれば、非常に高価でしたが、30年経った今も愛用していることを考えれば、安い買い物だったと感じます。ある意味で、編集者としての道を一緒に歩んできた時計ですから、相棒と言えます。

――今日お持ちいただいた時計には、パテック フィリップのワールドタイムもありますね。

はい。10年ほど前に銀座・和光で購入したものです。パテック フィリップといえば、アインシュタイン、ワーグナーも愛用していたことで知られています。僕にとって憧れの1本でした。

この時計は日本だけでなく、ニューヨーク、パリ、ロンドンの他、全24の都市の時刻も同時にわかるんです。日本にいても、海外で過ごしているような気持ちになれるのが楽しいですね。

――時計好きの石原さんが、時計を選ぶ際の“こだわり”は何ですか?

愛嬌のある顔をした時計が好きです。やはり安いものではないですから、長く使いたい。だから、いつも側に置いておきたくなるよな1本を選ぶようにしています。

――最後に、石原さんの夢を教えてください。

人生は、制限をした途端、つまらないものになると僕は考えています。だからある程度、自分をなるたけ許容してあげることが大事です。

出版業界は現在、日本国内中心のビジネスになりがちですが、制限を突破する気持ちで、もっとグローバルに展開するべきだと思っています。幻冬舎としても、今後は注力すべきところだと考えています。何物にも囚われず、絶え間なく新しい世界を見つけていきたいですね。

石原正康(いしはら・まさやす) 株式会社幻冬舎 取締役 兼 専務執行役員
1962年生まれ。新潟県出身。大学卒業後、角川書店に入社。1993年、幻冬舎設立に参加。編集者として、五木寛之、村上龍、山田詠美、吉本ばなな、天童荒太、といった日本を代表する作家の名作を数多く手掛ける編集者。

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