先進素材で耐衝撃性能を実現した“カーボンG-SHOCK”爆誕!  開発陣に進化のポイントを直撃した!!

1983年に世界初の「落としても壊れない、丈夫な時計」として発売されてから、G-SHOCKは35年以上にわたって進化を続けてきました。誕生35周年を迎えた2018年には、原点モデル5000系のデザインをフルメタル化したGMW-B5000を発表。いまも品薄状態となっている大ヒット作に次ぐG-SHOCK「36年目の進化」は、なんとカーボンモノコックケースという耐衝撃構造でした。では、なぜカーボンだったのか。その開発経緯などを仕掛け人に聞いてきました!

 

カーボンでモノコックケースを実現した全く新しいG-SHOCK

今回インタビューしたフルカーボン「グラビティマスター」の開発プロジェクトチームメンバー。右から商品企画部の牛山和人さん、外装開発部の櫃本信さん、デザイン企画部の橋本威一郎さん

牛山さん:G-SHOCKというのは、常に進化が宿命づけられたブランドです。モジュール、構造、デザイン、そして素材など、広範囲に及ぶ「進化」を考えたとき、私たちが着目したのがカーボンの可能性でした。この素材は、軽量かつ堅牢で、錆びることもない。腕時計にとっては理想的なマテリアルといえるでしょう。一方で、加工が非常に難しいという技術的な問題があります。ただ、これをクリアしてこそ、新しいG-SHOCKができると思ったんです。

3月より発売となるマスター オブ Gの新作「グラビティマスター GWR-B1000-1A1JF」9万7200円。縦50.1×横46.4mm/厚さ16.9mm。72g。カーボンファイバーインサートバンド。モバイルリンク機能を備えた電波ソーラーモデル。裏蓋のないモノコックケースをカーボンファイバー強化樹脂で作り上げ、ボタンなどの金属部品にはチタンを採用するなど、新次元の強さと軽さが追求された

牛山さんは商品開発のマネージャーとして、36年目のG-SHOCKの目玉として新構造を考えていたそう。ただ、自身も理解していた通り、G-SHOCKの進化の方向性を決めるためには並々ならぬ苦労があったようです。

 

橋本さん:現在のG-SHOCKにはカーボンファイバーをインサートしたバンドを使っていたり、G-STEELの上位機種のベゼルに使ったり、カーボンについての知見は私たちにもあります。ただ、それをケース全体にとなると、やはり初めてのことなのでデザインが決まるまでは悩みましたね。なにしろ新しい耐衝撃構造から考える必要があったわけですから。

牛山さん:このG-SHOCKは、絶対に誰も見たことがない新しいG-SHOCKにしたかったんです。だから、外装はG-SHOCKで初めて裏蓋のないモノコックケースになっています。また、モノコックケースで耐衝撃を実現するために技術者は数十種類の樹脂とカーボンファイバーを組み合わせて最適な配合を評価しました。

新作GWR-B1000の裏側。裏蓋がなく、モジュールを包み込むようなボウル型に成形されている

樹脂の成型は、カシオの得意とする技術のひとつではあるものの、新しい素材を使用するには様々な技術課題があります。しかも外装部品であるとなれば、とてもリスクが大きいように思いますが?

 

櫃本さん:航空業界などで使われるようなカーボンファイバー強化樹脂は、ステンレスの1/4の軽さで10倍の比強度を誇ると言われています。この高機能素材の取り扱いは、かなり試行錯誤しましたね。デザインチームからの出されたモノコックのケースデザインを実現するため、数十種類の材料でケースを試作し、衝撃試験を繰り返すことで最適な材料を選定しました。その一方で、ベゼルは何十層も積層したカーボンファイバーのシートを、熱をかけながらプレスして立体感のある形状にしています。立体形状で瞬間的な衝撃を吸収するのが狙いです。

グラビティマスターとしての実用性も追求

橋本さん:外装開発チームには、とても頑張ってもらいました。例えば、このカーボンG-SHOCKは「グラビティマスター」なので、パイロットがグローブを着けたままでもボタンを押しやすいようにしたかったんですね。それで、ベゼルやボタンのサイズや凸量を変えたデザインを3Dプリンタで何度も作って検証を重ねました。その結果、導き出したのが操作性を損なわずG-SHOCKとしての適正なサイズでした。

ボタンやベゼルサイズを検討するために作られたモックアップ。どれほど技術が成熟しようと、人の感覚が大切にされる。このボタンは刻みの入れ方も従来と変えるなど、「グラビティマスター」シリーズとしての実用性も追求された

櫃本さん:当たり前のことですが、時間、コスト、難易度など、あらゆることを考えると加工する部分は少ないほど良いんです。ただ、カーボンモノコックケースという「全く新しいG-SHOCK」にかける意気込みは商品企画もデザイナーも、もちろん私も同じ。難易度は劇的に上がりますが、ボタンを少しだけかわすような絶妙なカーブをカーボンベゼルに加工するなど、随所にこだわりがあります。

ベゼルへのこだわりを語る櫃本さん

牛山さん:ベゼルには、「G-SHOCK」やその他の機能表示の部分に色を乗せるのも特殊な手法となっています。カーボンに乗せる塗料ひとつとっても、従来とは違った工夫があるんですよ。

ところで、このG-SHOCKをひと通り見ていただいて、モノコックケースと並ぶG-SHOCK初のデザインがあるのですが、それが何かわかりますか?

 

残念ながら筆者は、違和感というか目新しさを感じながらもカーボンボディに気を取られてしまい答えられず(皆さんはわかりました?)。果たして、36年目のG-SHOCKに起こったもうひとつの外装の進化とは?

素材の進化がデザインも変えた!G-SHOCKの革新

牛山さん:この時計は、G-SHOCKで初めてボタンガードをなくしたんです。改めて見ていただくと、とてもシンプルだと思いませんか?

左が従来のBluetooth×GPS×電波ソーラーの3-way対応モデル。右がBluetooth×電波ソーラー搭載の最新作。一回り小ぶりになったほか、文字盤もすっきりした印象に。ボタンガードがなくなったことで、ベゼルの円のフォルムが際立っている

確かに、言われてみれば、とても“腕時計”的に見えますね。王道のスポーツ・クロノグラフのような。

 

牛山さん:これもカーボンケースによって生まれた進化です。カーボンというケースの強度があるので従来のボタンガードなしでボタンを設置することができました。ちなみに、このパイプやボタンはチタン製。ガラスを支えているパーツもチタンです。この時計は、外気に触れるすべての金属をカーボンとチタンで構成しています。ステンレススチールを使うと重くなったり、錆びてしまったりしてしまいますからね。

カーボンケースにチタン製のパイプを入れ、その内部に緩衝材も加えてボタンのシャフトの強度を確保。ボタンのシャフトと内部で接するモジュールの接点にも工夫があり、ボタンにかかった瞬間的な強い衝撃には作動せず、しっかり押し込むことで作動する仕組みが取り入れられている

櫃本さん:ベゼルに使っているネジまでチタンですね。実は、このネジの頭にまたこだわりがあって……。

橋本さん:このネジの頭は、私のこだわりです(笑)。気密部分への容易なアクセスを防ぐために特殊な形状にしたんです。こうすると、それ専用の工具から必要になってしまうんですが、それをわかったうえででも、フルカーボンの「グラビティマスター」は特別なものにしたかったので、それを細部でも表現しました。ちなみに、このネジはサファイアガラスを支えるチタンパーツとカーボンベゼルを繋いでいます。このチタンパーツは同時に、モノコックケースとも結合しています。この2段階結合方式により、万が一ベゼルが外れても20気圧防水を保つことができるのです。これ自体は新しい構造ではないのですが、カーボンで実現したことには大きな意味があると思います。

橋本さんは、ネジ1本に至るまでGWR-B1000の特別性をデザインに落とし込んでいったそう

牛山さん:工具から開発したという点では、モジュールも専用工具が必要になりました。モジュールをケースに収めるには、巻き真を外す必要があるのですが、モノコックケースだと文字盤側からしかモジュールにアクセスできない。そうなると従来設計では無理なんです。だから巻き真を取り外すためのレバーの配置を変更し、そのレバーを文字盤側からでも操作できる専用工具を作りました。もちろん3月には発売する商品なので、ネジを止めるドライバーも、巻き真を外す工具も、すでにサービス拠点に配布しています。

初の素材と構造で驚異の「クアッドレジスト」を実現

カーボン尽くしの構成パーツ(右下は試作)。カーボンなので樹脂の弱点だった加水分解が生じることもなく、20気圧防水とトリプルGレジスト、Bluetooth×電波ソーラーなど、多くの実用機能を軽快かつタフに、末永く使うことができる

櫃本さん:タフソーラーも新しくなっていて、文字盤にある2か所インダイアル部分だけで十分なエネルギーをまかなえるようになりました。文字盤の広範囲を黒くできるので、これまでよりもさらに見やすくなっていると思います。

橋本さん:あと「グラビティマスター」なので、耐衝撃、耐振動、耐遠心重力の「トリプルGレジスト」構造となっています。

牛山さん:ラストレジスト、いわゆる防錆仕様ということを加えれば、「クワッドレジスト」とも言えますね。ちなみに針もカーボン製。本当にカーボン尽くしです。
G-SHOCKに求められる進化には、「構造」「デザイン」「素材」という3つのポイントがあります。そのすべてで進化を果たした新型グラビティマスターにより、「全く新しいG-SHOCKを作る」という目的を達成できたと思います。

モノコックのフルカーボンG-SHOCKをデザインチームと外装開発チームとともに三位一体となって作り上げた牛山さん。しかし、その目はすでに次なる「革新」の目標を探し続けていた

 

新しいネジから、それを締める工具まで開発するということは、当然、組み立てに人の手作業が必要になってきます。人件費がかかればそれだけコストもかさむものですが、そうした手間を惜しむことなくG-SHOCKの進化を優先し、カーボンモノコックケース、ボタンガードレスデザイン、進化型タフソーラーなど、多角的な進化さえ遂げた新型グラビティマスター。

これだけの新規開発コストをかけてなお9万円という本体価格に抑えた点こそが、この時計にかけるクレイジーなほどの意気込みの表れと言えるかもしれませんね。

 

最後に、なぜ文字盤までカーボンで徹底しなかったのか聞いてみましたが、「その理由は3月のバーゼルワールドで改めて(笑)」(牛山さん)とのことでした!

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