カシオのオシアナスは、最先端のエレクトロニクス技術を有しながら、それを感じさせないエレガントなスタイルが特徴です。この“上質を知る大人”のためのブランドから、誕生15周年の節目に“10mmの壁”を突破した新作が発売されました。筆者も新作展示会で思わず3度見してしまった新しいスリム・エレガンス・スポーツウオッチは、どのようにして誕生したのでしょうか? カシオ羽村技術センターで開発陣に話を聞いてきました。
薄型モジュールの開発から始まった誕生15周年目の驚異的進化
——2月の展示会でも見ましたけど、この新型、めちゃくちゃ薄いですよね!?
佐藤さん:それはもう、かなり頑張りましたから(笑)。15周年では OCEANUSの原点に戻って、フラッグシップラインのMANTAを飛躍的に薄くしたいと考えていたので、極限まで薄いモジュールを作って欲しいとモジュール企画へ相談したのがこの時計を開発するきっかけです。それが約4年前のことですね。
黒羽さん:4年という長い開発期間をかけて、厚みを構成するパーツを1つ1つ見直し刷新することで今回の薄型化を実現できました。その新しい薄型モジュールにオシアナスらしさを加えてくれたのは、デザイナーでした。
若山さん:現在、レディスでは9mmのOCW-S340がありますが、それにはクロノグラフはありません。新作のOCW-S5000では薄さとエレガントさに加え、多彩な機能表示をいれなければならないので、やりがいがありましたね。
スリムデザインを具現化する外装開発が最薄記録更新の決め手に
若山さん:完成したOCW-S5000の厚みは公表値で9.5mmとなっていますが、よりスリムさを追求するならサファイアクリスタル風防の表面をフラットなボックス型にすれば、さらに薄さを追い込めたと思います。ただオシアナスのサファイアクリスタルは、柔らかなカーブを描くドーム型がひとつのアイデンティティのひとつ。ケースからブレスレットにシームレスにつなげた流麗な形状がケースの薄さと相まって、抜群の腕馴染みの良さを実現しています。
鈴木さん:このブレスレットですが、ケースとの結合部はいままで一体設計だったのでバネ棒でスムーズに取り付けられるものでした。その基本構造が、最新型のシャープなケースデザインとはどうにも相性が悪くて。「ケースの薄さをエレガントに見せたい」というのはわかるけど、どうやったらこの形を作れるのかちょっとは考えて……。と、この話をすると、どうしてもグチっぽく(笑)。
で、結論としては、ミドルケースを設計から見直し、鏡面仕上げした中央のコマを単独で取り付ける構造としました。その中央のコマを挟み込む部分が実質的な従来のラグのような役割を果たしています。正直、加工も仕上げも組み立ても非常に神経を使う構造になるので、その大変さたるや……。と、なんだかまたグチみたいに(笑)。
若山さん:外装開発部には、本当に感謝しかないです(笑)。
——デザイナーさんとの関係がなんとなく伝わりますね。モジュール開発でも外装設計と関わることはあるのでしょうか?
黒羽さん:新しいモジュールを成立させるために頑張ってもらいましたね。ケースバックの内側を見ていただくとわかるのですが、一部を削っていますよね。これは、薄さと受信感度を両立するための工夫なんです。
鈴木さん:私は、OCW-S5000が出てくるまで最薄だったケース厚10.7mmのOCW-3400の外装も担当したのですが、裏蓋の内側を削るアイデアは、当時の開発で初採用したもの。こうやって過去に確立した新しい技術を発展させることで、9.5mmという薄さが実現できたわけです。
——なんだか、鈴木さん大変すぎません?
鈴木さん:前の時計を作った時の当時の大変な思いをもう一度やるのかと思うと正直気持ちは暗くなりましたね(苦笑)。でも、商品企画も、モジュール開発チームも、デザイナーも、すごい時計を作りたいという強い思いがありましたし、私たちもそれに応えたかった。はっきり言って、今回の新型はめちゃくちゃ大変でしたが、満足できるものができてホッとしています。
佐藤さん:デザイナーは基本的に実現不可能な理想を盛り込んできますからね(笑)。
完成度を高めるカシオ伝統のトライ&エラーの繰り返し
——そういえば、先ほど新しいBluetoothの装置を使うことが薄型モジュールのブレークスルーになったとは聞きましたが、具体的にどのようにして厚みを抑えていったんですか?
黒羽さん:このモジュールは、機能こそBluetooth搭載ソーラー電波で、いまやカシオの新定番となっていますが、OCW-S5000ではモジュールの片面に全てのパーツを集約した新しい高密度実装技術を取り入れています。社内規定を満たすレベルの受信感度を得ながら薄さと強度を保つために、従来は樹脂だったカバーを金属に変更するなど、様々な工夫を凝らしました。
——でも、金属を増やすと受信感度に影響が出てきませんか?
黒羽さん:だから、大変だったんですよ(笑)。感度を高めると強度が足りない。強度を高めると厚みが出る。モジュール開発は、常にいたちごっこのようなトライ&エラーの繰り返しですね。
——(G-SHOCKを開発した伊部さんからも同じ話を聞いたような・・・)。トライ&エラーを繰り返しながら時計を作り上げるのはカシオのモノ作りの伝統なんでしょうか?
若山さん:トライ&エラーを繰り返す開発ばかりです。文字盤の見切りのリングのカラーなども同様で、OCW-S5000はブルーからブラックへのグラデーションを用いフェイスの表情を豊かにしました。これらは繰り返し試作を行い、オシアナスマンタに相応しい色味、明るさ、輝きを何度も検討しました。そうやって徐々に候補の数を絞りながら最適解を導き出しました。
また、文字盤にも拘っていて、今回は2層構造のダイアルを採用しています。機能表示のサブダイアルを一段落とすことで、薄いモデルでありながらも立体的で存在感のあるデザインとなっています。
——二層ダイアルなのに最薄記録を更新とは、魔法のような設計ですね!
若山さん:風防の話にもありましたが、オシアナスですから薄さのなかにもスポーティさとエレガンスの表現が欲しい。そう考えるとどうしても文字盤の立体感は不可欠でした。さらにこれまでは都市名の表示を明快に出していましたが、それはもうスマートフォンを使えば簡単にできることなので、ベゼル上にあまり目立たせないように配置することにしました。あ、ちゃんと書いてはあるので、時計単独でも各都市の選択は従来通りできますよ。
9.5mmの薄さを実現したエレガントスポーツクロノグラフ。その次なる一手とは!?
鈴木さん:実はベゼルの取り付けにも従来と違うところがあって、これまではミドルケースにベゼルを合わせたら隠しツメのようなものを折って固定していたんですが、OCW-S5000では溶着にしました。
黒羽さん:モジュールでも、カレンダーディスクに紙のように薄いPETシートを使うことで、かなり厚みを抑えています。この厚みに歯車の歯を切り、確実に回転しながら強度も持たせるというのは、それだけでも大変な作業でした。
佐藤さん:ここまで追い込んでもらったのは、 OCEANUSの要素であるエレクトロニクス技術による先進機能は搭載したままで、厚さは10mmを切りたかったから。それも10mmジャストや9.9mmではなく、できる限りの薄型デザインをこの1本で突き詰めたかったんです。おかげで誕生15周年を飾るにふさわしい一本が出来ました。
——確かに腕時計は、10mm以下と以上で随分と印象が変わるものですよね。これまでのオシアナスも十分薄かったのですが、それは「いろいろな機能が搭載しているのに、これだけ薄い」という相対的な評価だったように思います。
それが新作のOCW-S5000では、一般的に薄型ウオッチと見なされる10mm以下になったので、「誰の目にも薄い」という絶対的なものになりました。こうした新しい技術が一度出来上がると、今度は次なる一手もとても気になるところですが……。
佐藤さん:もちろん考えていることは色々とありますけど、オシアナスの進化はいつも劇的でなければならないので、「この技術は次の新作に」なんて、出し惜しみをしている場合じゃないんです。だから今回の最薄記録更新によって、かなり次の新作のハードルが高くなったことは事実ですね。それぐらいすごいものができたという自信が、最新作のOCW-S5000にはあります。
筆者はインタビュー中、「オシアナスと同じ厚さ9.5mmのクロノグラフ+ワールドタイムの薄型時計を機械式時計で作ったら、きっと1千万円ぐらいするな〜」と思いながら話を聞いていました。これが20万円程度で手に入ってしまうなら、普段から様々な腕時計を見続けている筆者の基準としては十分に安いと考えます。カシオが誇る最先端のエレクトロニクスと、独自の高密度実装技術に加え、徹底的に見直された外装/モジュールなど、様々な人が関わって1本の時計を作り上げるのは、機械式でも電池式でも同じこと。薄さを極めた先進の多機能エレガント・スポーツウオッチに込められた熱い想いは、手にとってみればきっと伝わってくると思いますよ。
聞き手/WATCHNAVI編集部・水藤大輔 撮影・谷口岳史
オシアナス https://oceanus.casio.jp
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