WATCHNAVI本誌で連載している「目指せ未来の独立時計師」は、2月22日発売号にてシーズン1が完結した。本連載は、専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジのウオッチメーカーコース(3年間)を修了した生徒だけが挑戦できる、1年間の時計製作プログラム「時計製作研究生」の作業工程を追い続けるドキュメンタリー連載である。2019年度の主役は、関 法史(せき・のりふみ)さん。本誌では掲載できなかった彼の1年間の集大成を、卒業制作展で取材した。
「卒業展の搬入ギリギリまで作業してました(笑)」
2月27日〜29日の期間、青山SPIRALで行われている「専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ2019年度卒業制作展」。WN編集部は、初日の開場直後に関さんの展示作品へと向かった。もちろん、そこには彼の姿もあった。設計段階で完成像は見せてもらったし、外装を含むパーツ単体の状態は見せてもらってはいたものの、改めて時計として形になったのは初見である。
「ギリギリまでひげゼンマイをいじったり微調整をしていたので、ほとんど寝てません(笑)。でも、ちゃんと機能する時計として卒業制作展に間に合ったので、いまはホッとしています。時計の製作は図面で成立していても、いざ作り出すと無理が生じる部分が出てくるものなので、バラバラのままの出品にならなくて本当に良かったです」(関さん)
「球体月齢表示 懐中時計」という出品名が与えられたこの展示物は、その名の通り大型の球体ムーンフェイズが目を引く一本。これに加えて、時分秒と月(month)と日付(day)が、それぞれに独立表示されるフルレギュレーター仕様となっている。しかもカレンダーは水平回転するディスクではなく、4枚の垂直回転するドラム式。ここまでの特殊表示は、たとえ思いついても1年という短期間で作り上げるには相当な覚悟が必要だっただろう。
「学校の設備が使えないときはアルバイト先の江口時計店にも協力してもらって、作業を進めていました。とくに今年に入ってからは、ほぼ毎日、時計製作だけをしていたような気がします。その甲斐あって、菊野先生(※編集部注:研究生コースの講師は独立時計師の菊野昌宏氏)と懸念していたトルクの問題も球体をチタンにすることでクリアできましたし、パワーリザーブは大体2.5日程度。5気圧防水を持たせることもできました」
さすがにこの懐中時計はゼロからの設計ではなく、ETA社製の名機7750をベースにムーブメントを作り上げている。とはいえ、元のムーブメントは自動巻きクロノグラフ。その片鱗は、関さんの懐中時計を見る限りほぼわからなくなっている。
「構想段階でトルクの強いゼンマイを持つムーブメントが必要なことはわかっていたので、信頼性の高いクロノグラフムーブメントを使うことにしたんです。見る人が見たらきっと7750だとわかると思いますが、ほとんどのパーツがオリジナル。機能を成立させるだけでなく、外装にもこだわりたかったので、それが実現できたのもよかったですね」
テンプ受けに施されたエングレービングは、関さんの知人の彫金師に依頼したものだという。その知人は、卒業制作展のために約3日間かけてモノグラムのプレートまで作ってくれたそうだ。
外装まで意識した時計製作は、文字盤のギヨシェや青焼き針、リューズを囲むリングなど、細部にも及ぶ。見た目にも、機構にも、オリジナリティが詰まった一本は、研究生という枠を超え、高い意識を持って時計製作に挑んだ関さんのまさしく集大成。工業製品としてではなく、未来ある作家の品という観点でいえば興味を持つ人も多いに違いない。さて、そんな関さんの気になる今後について聞いてみた。
「卒業後は、アルバイト先の江口時計店に就職します。なので、これからも時計と触れ合う日々ですね(笑)」