1983年に誕生した【G-SHOCK】は、記念すべき40周年に向けて絶賛加速中といった勢いを感じさせる。スクエア型メタルモデルの多彩なバリエーション展開、心拍計測機能が付いたG-SQUADの登場、好みに合わせて外装色をカスタマイズできるオーダーサービスの開始など、話題は尽きない。中でも“カーボン積層”なる新時代のカーボンパーツを採用した最新MT-Gに注目が集まっている。その魅力に加えて、時計界ではG-SHOCKが開拓してきたカーボンについて、カシオの開発におけるキーパーソン2名に話しをうかがった。
バラエティーに富むG-SHOCKのマテリアル。その中でもカーボンは最新にして最強
まずはカーボンファイバーの基本を知っておきたい。炭素繊維のことであり、大まかに言うとこのカーボンファイバーに樹脂を加えて加工することで、いわゆるカーボン製品になる。オリジナルモデルからケースやバンドに樹脂を使ってきたG-SHOCKにとって、カーボンは次世代のマテリアルとして選ばれた。長年商品企画に携わってきた外装素材のエキスパート、齊藤さんは次のように話す。
(齊藤さん)「カーボンは織り方や重ねるシートの枚数、そして加える樹脂の種類によっても性質が異なるものとなります。時計のどのディテールに強度を持たせたいかなど、カーボンは適材適所の使用がポイントになるわけです。長年にわたって樹脂を研究し、開発してきたカシオはそのノウハウを生かすことで、カーボンをスムーズに取り入れることができました。G-SHOCKが掲げるタフネスを進化させるうえでも、カーボンの選択は必然的でした」
―― G-SHOCKではかなり以前からカーボンを使っていたように記憶しています。
(齊藤さん)「1990年代にグラスファイバー強化樹脂をインナーケースに用いたG-SHOCKを開発し、2010年にはGW-S5600シリーズで初めてカーボンファイバーを使いました。これはカーボンファイバーをインサートした樹脂製バンドを搭載するモデルで、引張耐久力を高めることに成功しました。バンドの強度を上げた一方で、心地良いフィット感を実現するための柔軟性も持たせることが難しく、内部のカーボンファイバーと挟む側の樹脂の比率がポイントでした。プロトタイプのテストではカーボンファイバーと樹脂が剥離してしまったことも。研究を重ね、最終的にはカーボンファイバーの織りの方向を変えることで解決しました」
G-SHOCKは機能だけでなく、時代を見越した素材開発も同時に追求している。そのひとつの回答がカーボンだったわけだ。以降もG-STEEL GST-B100X-1AJF(2017年発売)ではMT-Gの最新作MTG-B2000XD-1AJFにも搭載されている積層カーボンのトップベゼルを実現し、フォージドカーボンで初めて作られたベゼルのマッドマスター GWG-2000-1A1JF(2021年発売)を完成させるなど、カーボン採用G-SHOCKが続々登場。これらの開発で得たノウハウこそ、もうひとつのMT-G最新作MTG-B2000YBD-1AJFの完成に役立ったと中塚さんは話す。
(中塚さん)「カーボンの採用は機能面のみならず、デザインでも先進性をアピールするために不可欠でした。独特なパターンが表出するカーボンは、スポーティでありスタイリッシュな印象を与えます。カーボン採用G-SHOCKの最新作であるMTG-B2000YBD-1AJFは、最大限にカーボンのメリットを生かすことができたと自負しています」
―― 正面からはいかにも屈強でクールですが、持ってみると意外や意外で軽さに驚きました。また、角度を変えて見てみるとケースサイドのブラック&レッドが際立っていますね。
(中塚さん)「このMT-Gには複数のカーボン技術を投入していますが、何と言ってもベゼルフレーム(カシオの表現で、ミドルケース部分を指す)に注目してもらいたいです。黒いレイヤーがカーボンから、赤いレイヤーがグラスファイバーからできており、これらのシートを方向を変えながら合計235枚も積層し、圧縮・焼成してブロックを作り、それを削り出すことで成型しています。この一連の製造工程に、カシオが持つカーボンの技術が結実していると言っていいでしょう」
―― どうしてカーボンとグラスファイバーの組み合わせなのですか?
(中塚さん)「カーボンだけのベゼルフレームも技術的には可能ですが、それではデザインに工夫がありません。透明なグラスファイバーシートを赤に着色し、カーボンと組み合わることによってこれまでにない個性的なデザインに仕上げました。当然ながら耐衝撃性、耐久性、防水性はG-SHOCKの基準を満たすもので、さらにステンレスの場合と比べて約77%も軽量化できました」
―― カーボン積層フレームのどの部位に、カシオの技術が集約されているのでしょうか?
(中塚さん)「リューズ部やプッシュボタン部の細かな削り出しや、エッジの立ち具合にクオリティの高さを感じていただけることでしょう。これだけ大型で厚みのあるベゼルフレームですから、削り出す前のブロックはとても大きく、実は無駄になってしまう量もかなりあります(笑) 緻密な設計に基づくカーボン積層フレームの実現のためには必要なことなのです。加えて、カーボンシートの積層面方向(シートを剥がそうとする方向)に対する強化のため、12時・3時・6時・9時の側面にカーボンクロス材(縦横に編み込んだカーボンシート)を巻き付けています。また、バンドと接続する足の部分には筒状にカーボンシートを巻いた芯を内部に入れて強化を図るなど、複雑な形状の要所にも個々のカーボンの特性を生かしたアイデアを採用しているのです」
これほどのこだわりのあるカーボンパーツと美しいメタルの合作であるG-SHOCKだけに、最上級であるMR-Gシリーズにラインナップされてもよいはず。しかしなぜMT-Gからなのかについては、カシオの腕時計を統括する齊藤さんが説明してくれた。
(齊藤さん)「MT-Gはハイテク素材とメタル素材の融合をコンセプトとし、洗練された外観のG-SHOCKを目指しています。そのため今回のカーボン採用モデルは、開発当初からMT-Gの一機種と決まっていました。晴れて発売開始となりましたが完成までに2年以上を費やすという、G-SHOCKとしては長い年月をかけて開発した渾身の逸品と言えますね」
―― 外装の担当者である中塚さんにとっても自信作であるわけですね。
(中塚さん)「ここまでカーボンを贅沢に使っているモデルは他にありません。スイスの一流ブランドのカーボンウオッチと比較しても、遜色のない外装だと思っています。もちろんこれに留まることなく、技術革新を継続することが次のG-SHOCKを生み出すことに繋がります。すでに新しいカーボン採用G-SHOCKとして、カーボンファイバーシートと色付けしたグラスファイバーシートを縦方向にランダムに重ねて、ふたつとして同じ模様がないカーボン強化樹脂製のベゼルを搭載したMTG-B2000XMG-1AJRも発売することができました」
モデルの詳細はコチラ>>>
―― 最後に、カーボン採用G-SHOCKの未来についてお聞かせください。
(齊藤さん)「MT-Gだけでなく、カーボンはG-SHOCKにとってキーになる素材であるのは明白です。ステンレスよりも軽く、強度もずっと高い。生活においてもカーボンはもっと身近な存在になるでしょう。宇宙開発や航空産業、有名なところではF1といった最先端技術が集められる分野で技術が磨かれるカーボンは、まだまだ発展が期待できます。G-SHOCKは時計分野におけるカーボンのトップランナーとして、これからも走り続けます」
近年ではシューズのインソールにカーボンが使われる例などがあり、その高機能によってアスリートが従来の記録を塗り替えることができたり、膝や腰の負担軽減の効果も得られるという。プロフェッショナルから一般のユーザーまで、カーボン由来の製品はあらゆる分野で重宝されつつある。
(中塚さん)「将来的にはモジュール以外フルカーボンのG-SHOCKを製品化したいですね。極細のボタンシャフトやネジまでもカーボン製。果たして幾らの設定になってしまうか?(笑) しかしながら現在のように技術が進み、普及していけば遠くない未来に実現可能だと思っています。齊藤の話しでも上がりましたが、カーボン繊維には様々な使い方があって得られる特性が異なるため、適材適所の利用が重要になります。そのあらゆるオプションも知見もカシオは持っているので、今後のカーボン採用G-SHOCKにもご期待ください」
G-SHOCKにおけるカーボンパーツ採用のメリット【衝撃・経年変化に対する耐性】 【軽量さと装着性の良さ】 【製造方法を生かしたデザイン】 新作MTG-B2000YBD-1AJF。カーボン積層フレームだけでなく、透明度の高いサファイアガラス風防や、カシオ山形工場の微細加工技術による繊細な彫刻を施したダイアルなど、時計としてのクオリティが高い。 |
カーボン積層フレーム搭載MT-G
モデルの詳細はコチラ>>>
カーボン積層トップベゼル搭載MT-G
モデルの詳細はコチラ>>>
MTG-B2000/スペック一覧
●トリプルGレジスト(耐衝撃構造・耐遠心重力性能・耐振動構造)
●デュアルコアガード構造
●ねじロック式リューズ
●タフソーラー
●マルチバンド6
●モバイルリンク機能
●針位置自動補正機能
●針退避機能
●デュアルタイム
●ストップウオッチ
●タイマー
●時刻アラーム
●パワーセービング機能
●日付・曜日表示
●フルオートカレンダー
●ホワイトLEDライト(スーパーイルミネーター、残照機能付き)
●ネオブライト
問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.03-5334-4869
Text/WATCHNAVI編集部 Photo/吉江正倫