25年の時を経て、リニューアルを果たした名作
文/竹石祐三
まだ学生だった当時、腕時計にはあまり興味がなかったが、このモデルのことはよく覚えている。ピアース・ブロスナンが5代目ジェームズ・ボンドとして初出演した1995年公開の映画『007 ゴールデンアイ』。劇中、ボンドは時計から照射されるレーザーで鉄道の床を焼き切って脱出したり、犯罪組織の基地に仕掛けた爆弾を時計で遠隔操作したりと、このモデルもまた、ボンドの装備品として印象的に使われていたからだ。
この時計──オメガ「シーマスター ダイバー 300M」は、映画の公開から2年前の1993年に発売。長年支持を得てきたモデルだが、誕生から25年の節目を迎えた2018年、「シーマスター ダイバー 300M マスター クロノメーター」としてリニューアルを果たした。
トピックは、1993年のファーストモデルでダイアルに用いられていたウェーブパターンが、レーザー加工によって復活したことだろう。そのウェーブパターンは、ポリッシュ仕上げのセラミック製ダイアルに施されており、ブルーの色味と波模様がぐっと鮮明なった印象を受ける。さらに、セラミック製ベゼルに配されたダイビングスケールにはホワイトエナメルを採用し、質感と耐久性が向上。デイト表示も3時から6時位置に変更したことで、全体的にすっきりとした表情に生まれ変わった。
「マスター クロノメーター」認定を受けた、傑作のひとつ
もちろん、こうしたデザイン面のブラッシュアップも素晴らしいのだが、特筆すべきはやはり、このモデルが「マスター クロノメーター」認定であることだ。
マスター クロノメーターとは、オメガとMETAS(スイス連邦計量・認定局)が共同制定した制度・品質の検定制度。8つの厳格な基準をクリアし、精度や耐久性、そして15000ガウスの磁場にも耐える性能を実現したモデルのみに与えられるものだ。「シーマスター ダイバー 300M マスター クロノメーター」はモデル名が示すとおりこの制度をクリア。マスター クロノメーター キャリバー8800が搭載されたこのモデルは、磁気に触れる機会が多い現代においても、安心して毎日使える1本といえるだろう。
ケース径は、ファーストモデルから1ミリ拡大して42ミリとなったが、これは日常使いには標準的なサイズ。むしろ、ブレスレットのデザインが見直されたことで装着感は良好だ。鮮やかなブルーダイアルとSSケース&ブレスレットのコントラストが美しいこのモデルはやはり、ビジネスシーンよりも、アクティブなシーンに連れ出してこそアピールするはず。
デザインをブラッシュアップするのみならず、マスター クロノメーター認定を取得することで性能面でも大きく向上した「シーマスター ダイバー 300M」。価格とクオリティのバランスに優れたモデルはけっして多くはない……というのは以前も書いたが、このモデルは間違いなく、そんな数少ない傑作のひとつに数えられるんじゃないかと思う。
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