自社キャリバー&GMT搭載のスペシャルな1本
文/渋谷ヤスヒト
今回レビューするのはタグ・ホイヤーのバリバリの新作。2018年3月のバーゼルフェアで発表されたばかりの新作クロノグラフだ。このモデルのいちばんのセールスポイントは、タグ・ホイヤーの最新の自社キャリバー(=ムーブメント)「ホイヤー02」を搭載し、さらに自社キャリバー搭載モデルでは初めてGMT機能(24時間で文字盤を1周する専用針)を搭載しているという点だ。
「自社キャリバー=高価」という「常識」
今の時計業界では、自社キャリバーを搭載する機械式腕時計は珍しくない。多くの時計ブランドが新作の特長に「自社キャリバー搭載」を誇らしげに掲げている。
だが今から20数年前の1990年代には、自社キャリバーを搭載する機械式腕時計は少なかった。なぜならスイス時計業界では、ごく一部の特別なブランドを除けば、ムーブメントは「ムーブメントの専門メーカーから買うもの」だったからだ。
筆者が機械式腕時計の取材を始めた1990年代半ばはちょうど、今風に言えば「意識の高い」一部の時計ブランドが、自社ムーブメントの開発製造に乗り出した時期だった。ではなぜその頃、時計ブランドは自社ムーブメントの開発製造、つまり時計作りの「マニュファクチュール化(自社一貫生産)」を目指したのか。理由は2つある。
大手時計ブランドが自社ムーブメント開発に乗り出した理由
ひとつめの理由は、他社製品との差別化。時計の「心臓」であるムーブメントを自社製にすることは「ライバルの製品より特別で、価値のあるもの」ということをアピールする手段として何よりも有効だ。それも、ムーブメント専門メーカーとは違う機能を搭載していれば、それは消費者にとって大きな魅力になる。
そしてもうひとつ大きな理由があった。それは世界的な時計ブームの結果、起きていた「ムーブメントの供給不足」に対する安全対策だ。1990年代当時、ムーブメントの専門メーカーが時計ブランドに販売するムーブメントの価格は、供給不足の結果、高騰する一方だった。しかも、その中で、世界最大の時計グループの傘下にあるムーブメント専門メーカーの最大手が「近い将来、社外へのムーブメント販売を止める」と表明。この方針はスイスの時計業界を震撼させた。
これまで搭載してきたムーブメントが手に入らなければ、腕時計は作れない。このままではマズイ。そこで財力のある大手時計ブランドは、こぞって自社ムーブメントの開発製造に乗り出したのである。
ただ、自社ムーブメントの開発製造にはお金がかかる。巨額の開発費や設備投資が必要だし、ムーブメントを優れた性能のものにするためには優れた人材を確保しなければならない。
その結果、発売される自社ムーブメント搭載モデルの価格は、同じくらいの性能、機能を持つムーブメント専門メーカーのムーブメントを搭載したものより何割も高くなってしまう。だから時計ブランドの多くは、自社ムーブメント搭載モデルに加えて、現在も価格的にずっとお手頃な「ムーブメント専門メーカーのムーブメントを搭載したモデル」も販売している。
自社キャリバー搭載とは思えない「超お買い得」モデル
製品レビューのはずが、自社キャリバー(=ムーブメント)の話ばかりになってしまい申し訳ない。だが、すべてはこのモデルの凄さや価値を説明するためだ。
この「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ GMT」は、そんなコストのかかる自社キャリバー、それも2016年に開発されたばかりの最新の「キャリバー ホイヤー 02」を搭載しているクロノグラフだ。しかも、最初に述べたように自社キャリバー搭載モデルとして初めてGMT機能も備えている。
通常の時計機能に加えてストップウォッチ機能を備えたクロノグラフのムーブメントは、普通のムーブメントよりも部品数が多く複雑で、製造や組立にはずっとコストがかかる。よって、自社キャリバーのクロノグラフモデルの価格はどうしても100万円近いものがほとんどだ。
しかしこの新作クロノグラフは、海外旅行やビジネスに便利なGMT機能を備え、メカニズムの構造や動作の様子が文字盤やケース裏から眺められるという凝った作り。ディテールの造り込みも価格以上。加えてブレスレットタイプで価格が70万2000円(税込)というのは、時計業界を震撼させる価格である。
だから、最新の機械式クロノグラフが欲しいという人、中でも海外旅行が好きだという人には、このモデルは文句なしにお薦めできる。これほど「価格をはるかに超えた価値のある」機械式クロノグラフはなかなかない。
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