2020年に創業して以来、日を追うごとにスイス時計界で存在感を増していたブランドがクロス・スタジオ(KROSS × STUDIO)だ。このブランドが、このほど改名し、創業者の名前をそのまま冠して「マルコ・テデスキ」となった。こうしたニュースが筆者の元に届いたさなか、なんと本人が来日するという一報を聞きつけ迷わず彼のいる場所へと足を運んだ。
学生時代に特許を取得したセンタートゥールビヨンの構想を自身のブランドで具現化
今回の来日はとあるコレクターへのユニークピースの納品が目的だったそうだが、それに合わせて日本の時計メディアにもブランドプレゼンテーションをしたいという要望を、コレクターの方がかなえたという経緯がある。というわけで、まずはマルコ・テデスキというブランドについてだが、創業は2020年とかなり若い(しかもコロナ禍)。創業者のマルコ・テデスキは、筆者の記憶が確かなら彼がロマン・ジェローム改めRJのCEOを務めていた際に対面したことがある。テデスキ氏の経歴は奮っていて、学生時代の2006年にセントラル・トゥールビヨンの機構を考案し、特許を取得。若くしてウブロに入社し、22歳にして執行委員会のメンバー入りを果たすとプロダクトマネージャーとしてキャリアを積み、中東とアフリカのリージョナルディレクターなどを担当。約11年にわたり同ブランドの発展に貢献してきた。その後、先述の通りRJのCEOを務め、2020年より自身のブランドKROSS×STUDIOを立ち上げる。そして現在は、「マルコ・テデスキ」「クロス・マニュファクチュール」「クロス・スタジオ」の3つを統合したハウス・オブ・オートオルロジュリーのトップとして指揮を執っているわけだ。
上記3つのタイトルの内訳は、「マルコ・テデスキ」が創業者であるテデスキ氏の考えるムーブメントを開発して製品化するプラットフォームであり、実質的な時計ブランド。以前はKROSS×STUDIOというロゴを時計に掲げていたが、2025年よりブランド名をマルコ・テデスキ(MARCO TEDESCHI)に一本化したとのこと。そして、「クロス・マニュファクチュール」は、他社への供給も行うサプライヤーとしての側面も併せ持つ、ムーブメントの製造拠点。そして「クロス・スタジオ」は、芸術や映画、ポップカルチャーと腕時計を結びつけるために存在しており、2020年から現在までにワーナー・ブラザースやルーカスフィルム、ハズブロなどとのコラボレーションウオッチを作り上げてきた。そして、2025年には新作としてハリーポッターとのコラボレーションを実現。その勢いは止まることを知らない。このように自社内で完結させず、パーツ製造や異業種間協業などにも取り組み別軸での収益を確保しながらその存在を拡張させていくアプローチこそが、ハウス・オブ・オートオルロジュリーが急成長を遂げている要因となっているようだ。実際、今年のウオッチズ&ワンダーズでオーデマ ピゲが発表した新プロジェクト「アトリエ デ エタブリスール」において、マルコ・テデスキはエボーシュ供給を担当。2026年初頭にはシャネルがクロス・マニュファクチュールの株式を30%取得したというニュースもあり、その実力はトップエンドのブランドも認めるところなのである。
さて、実機のレビューである。今回見せてもらったのは、もちろんセントラル・トゥールビヨンを搭載したモデル。マルコ・テデスキの発想は、そもそも従来のような中心軸を取り囲むような輪列設計では香箱のスペースが限られることを解消するためのものだった。そこで彼はムーブメントのど真ん中に香箱を配置するところから独自のレイアウトを考案。本来は中央に配置して分針をセットする2番車を外側に配置し、そこから中央に向けてギアをつなげながらボールベアリングで支持されたと思われる外周の遊星歯車にも動力を伝えて時刻を示すという、極めて独創的な構造を作り上げたのだ。なお、時針はカルーセル状の構造になっており、内部機構と合わせて12時間で1周する動きを見せる。分針はミステリーセッティングのようだが実際はディスクではなく、時針をかわせるように形を整えた長いアームで支持されている。ほぼ不可視の部分だが、公式サイトの説明を見ると実際は開口部とほぼ同径のリングにアームが設置されていた。当然、こうした構造ではムーブメントの高さが増すため、ムーブメントだけでも15.28mm、直径33mmある。これを収めるケースは直径45mm、厚さ20mmにおよぶ。数値だけ見るとかなりの大型だが、着用した印象ではさほどサイズ感によるストレスを覚えることはなかった。それはリューズレスデザインも、少なからず影響しているだろう。本機は、ケースバック側に設置されたD型のリングクラウンを起こして巻き上げる手法を採用しており、時刻調整は3時側のボタンを押すことで可能となる。ちなみにラグレス構造ながらインターチェンジャブルストラップシステムを組み込んでおり、ワンタッチでベルトの換装が行える点も極めて現代的。このあたりの設計の妙はさすがマルコ・テデスキといえるだろう。

そしてもう一本、2025年に披露した「MT1.1 トゥールビヨン 7デイズ」もまた、マルコ・テデスキの「Form Follows the Movement(=形態はムーブメントに従う)」というポリシーを具現化したモデルである。ケースや巻き上げの構造はセントラル・トゥールビヨンと共通にしながら、メインプレートを最下層に置き、そこから面積の半分以上を占める香箱をセット。その上部にパワーリザーブ表示に至る輪列を組み上げながら、最小面積にまで削ぎ落とした受け板を通じてフライングトゥールビヨンに至るギアの一つ一つまで文字盤側から目視できるメカニズムを構築している。これは視覚的なユニークさだけでなく、仕上げに対する絶対的な自身の現れでもある。オープンワークのムーブメントは見応えがある反面、組み立てるウオッチメーカーを極度の緊張状態に追い込む。というのも、性能面だけでなく美観においても理想的な状態を保つために、ごくわずかな傷さえもつけることが許されないのだ。本機ではフライングトゥールビヨンという複雑機構を有しながら、合計245点にまでパーツ点数を抑えているが、それでも組み上げるには熟練の技が必要であることは想像に難くない。

最後に見せてもらったのは、ハリー・ポッターとのコラボレーションモデルで、セントラルトゥールビヨンの動きを活用し、ほうきに乗った4人の魔法使いが空を飛んでいるように見せる仕掛けが施されている。極小のミニチュアはペイントまでアーティストによる手作業。そのリアルな造形は、物語に登場する架空のスポーツ「クィディッチ(ほうきに乗って空を飛びながらボールをゴールに入れ合うチーム競技)」のワンシーンを彷彿とさせる。

正直なところ、日本未上陸ブランドということもあって今回のプレゼンテーションを受けるまではノーマークだったが、実際はかなりの実力を持つブランドであることがわかった。新興ブランドは時計のクオリティ以上に経営状態に眼を向ける必要があるが、それについてもマルコ・テデスキは問題なさそうだ。あとは、どのような発展をブランドが遂げていくかという将来のヴィジョン。今後も彼らの動向に注視していきたい。

綺麗な製品写真はこちらから→https://marco-tedeschi.com/
Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI)
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