伝説のセールス・傍島昭雄が語る「ゼニス」――それでも素晴らしきスイス時計

ゼニスはクロノグラフにおいて業界随一の開発力を持つメーカーです。確かにメンテナンスの観点では、割高感のあるクロノグラフですが、同社は正規品に対して真摯な対応を見せています。その裏には、自社の技術への絶対的な自信があると見えました。

 

機械式クロノグラフの最高峰

ゼニスを語るとき、それは「エル・プリメロ」に尽きます。

あるとき、ユーザーから超高級時計とそうでない高級時計の違いは何か、と問われたことがあります。

筆者は「超高級時計はゆったりとテンプを振動させ、それでいて、正確な時間を刻む。しかしそうでない高級時計は後先を考えないで我武者羅に振動数を上げ、正確な時刻を刻んでいる」と答えました。しかしこれは、決してエル・プリメロを揶揄したものではありません。

エル・プリメロの歴史は驚きの連続です。自動巻きで3万6000振動と活発なテンプの動きは、部品に多大な負担をかけます。エル・プリメロの関係者は極めて特殊な油をこの機種専用に作り、耐久性向上を図りました。ゼニス社はこのムーブメントを自社のみで使用するのではなく、ロレックスをはじめ他ブランドにも供給しました。しかもなんと、ロレックスの社外クロノグラフムーブメントの採用は、ゼニス社が唯一の例とのことです。ロレックスもマニュファクチュールであることは言うまでもありませんが、自社でクロノのムーブを開発する2000年頃までのデイトナは、エル・プリメロでありました。

 

元祖、マニュファクチュールとして

さて、ETA問題というのをご存じでしょうか。スイス最大の汎用ムーブメント製造会社であるスウォッチ グループ傘下のETA社が、グル―プ内の需要を満たすのが精一杯だとして、他のグループや独立系のブランドにはもうムーブは売らないという宣言を発したのです。しかしそれは建前であって、本音はETA社製のムーブを大幅に改造して、ファンクションを増やし、あたかも自社で開発したムーブであるかのようにマーケティングする多くのブランドへの提言でした。

「もしそれを続けたいなら、広告にETAムーブ搭載と書いたらどうだ」と故ハイエックシニアが挑発。「そこまで言うなら、自分で作るよ、もう結構」と、いままで供給を受けていたブランド側はマニュファクチュールへ生産のスタイルを変えようとしました。

ここに、そんな騒ぎとは無縁なブランドがあります。それがゼニスです。同社は、創業時の姿そのものがマニュファクチュールの形態だったのです。その精神が脈々と伝わり、1969年、超高性能なエル・プリメロが登場。しかし時はクオーツ攻勢に押されて崩壊寸前のスイス時計界、ゼニスはエル・プリメロも含めて機械式時計の生産を止め、部品や材料も設備ごと廃棄。クオーツの生産にシフトしてしまいました。

万事窮す。やがて復興し、スイス機械式時計に妙味を見出した諸国の需要が膨らみ、春が訪れました。一方ゼニスはというと、かつて捨ててしまったものはもう戻らないと思われましたが、奇跡が起きていました。エル・プリメロのすべての材料と設備が、ゼニスの未来を信じていた1人の時計師シャルル・ ベルモによって、密かに社屋の屋根裏に隠されていたのです。

 

メンテナンスについて

保証は3年。正規のゼニスショップで購入したうえで、ユーザー登録が必要になります。そして並行品、海外品の修理基本料金は50%割高になります。普通の機械式時計で、3〜5年毎にオーバーホール(OH)を勧めるとあります。ただしエル・プリメロは10振動なので、油の切れ具合から早めにOHが必要になる場合があるともいいます。筆者は保証の3年が終わる少し前に、点検に持ち込むことをお勧めします。

アンティークは一旦スイスに送って見積もり。折り合いがつかなくても、見積もり経費のユーザー負担はありません。ゼニスのサービスセンターは、江東区にあるLVMHグループのカスタマーサービスセンター内にあり、個人の受付、遠距離ユーザーへのパッキング発送サービスなどはありません。

修理を要望する場合はお買い上げの店、あるいは銀座か大阪のブティックへ。遠隔地のユーザーがサービスセンターを利用するならば、梱包材を申し込みによって手配する「ピックアップサービス」がお勧めです。これは各ショップにおいて、商談の時のセールストークとしても使えることでしょう。

本当の価値のある時計とは、ユーザーが欲する時に何時でも、極上のメンンテナンスが受けられることです。その点、元祖マニュファクチュール、ゼニスは大いに期待出来ると信じています。

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