ブランパンは現存する時計ブランドとしては、最古の時計ブランドであり、一度もその歴史が途絶えたことのない名門。 今回は、筆者である、伝説のセールス・傍島昭雄自身が日本のトップを務めたこともある同ブランドの魅力を改めて回顧します。
誇りと情熱
ブランパンはスイスで最も古い時計ブランドです。また、創業以来一度もクオーツを手がけた事のない稀有なブランドです。
筆者は1984年にバーゼルへ、バセロン・コンスタンチン (古い言い方で失礼=以下バセロン)のセールス担当として初めてかのブースに行き、おろおろしながら新製品の買い付けを終えほっと一息。場内を見学したところ、そこで見たブランパンの「世界で一番古い時計ブランド」という信じがたい言葉に愕然としました。何故なら私たちはバセロンこそが世界一古いと自社のセールスポイントの筆頭に挙げていたからです。
それをどう言い代えるか帰国して困り果てました。しかしながら、その時に見たブランパンブースのウインドウに飾られた、女性用ムーンフェイズ付自動巻き時計に描かれた人の横顔。その表情にグッと引き寄せられました。縁あって1987年ブランパンは筆者も所属したシイベルヘグナーが代理店になりました。その後、 スウォッチグループが買収、日本国内でも1993年に移籍しました。
ブランパンには初期のアンティーク懐中時計はあまりありません。その代り、腕時計の時代になって、ブランパンは、数々のヒットを放っています。新しいアイデアの自動巻き機構を持つ「ロールス」、 世界最小の自動巻き機構を搭載した「レディバード」、そして 「フィフティ ファゾムス」(以下 F・ファゾムス)と快進撃は続きました。
特にこのF・ファゾムス は現在に繋がる名品です。開発秘話をひとつ。第二次大戦後、地中海で潜水訓練を行っていたフランス海軍の潜水部隊は酸素の供給量を越えて潜水を続け、母船に帰還出来ない事が度々ありました。水中でのダイバーズウオッチの役割は潜水経過時間と、ボンベ内の酸素がなくなる時刻を知らせること。部隊の統括だったボブ・マルビエ大尉はブランパンに本格的な回転ベゼルを載せたダイバーズウオッチの開発を持ちかけ、1953 年F・ファゾムスは生まれました。
ファゾムスとは西洋人の大人が 両手を大きく広げたときの長さをいいます。余談ですが、このマルビエ大尉、戦時中はシャルル・ド ・ゴールに従ってフランスから英国へ避難したが、連合国の要請を受け、何度も大陸に飛びレジスタントたちのサポートの任についており、かの007のモデルともいわれています。
確実なメンテナンス
さて、メンテナンスの体制で あるが、何といってもスウォッ チグループでブレゲと並ぶトップブランド。高いグレードのサ ービスが受けられる。お勧めはコンプリートメンテナンス。有償で受けると2年間の保証がつきます。防水性能も部品の問題等があった場合に限って保証の対象になるといいます。ちなみに最近では、有償にはなるが、磁気を帯びない新素材のシリコンのひげゼンマイに交換が可能なモデルもあります。その対象かどうかは、まずは問い合わせてみることをおすすめします。アンティークについては、いったん預かって、修理の可否は見積もりをしてから回答があるとのことです。
伝統に培われた革新
ブランパンは多岐に渡るコレクションを持ちます。すべてに自社ムーブを搭載し、そのムーブは 1人のウオッチメーカー(時計職人)によって細部まで手仕上げされ、組み込まれます。
筆者は考えます。これらは超高級時計の世界では普遍的なことであり、ブランパンには何処にも真似が出来ない哲学があります。それは、〝ノークオーツ〞であることです。さらに、シックス・マスターピースと呼称する、6つの傑作を有していることです。
ウル トラスリム、ムーンフェイズ、 永久カレンダー、スプリットセコンド クロノグラフ、トゥ―ルビヨン、ミニッツリピーター。 時計好きには超お薦めのこの6 本、すべてをそろえているブランドというのは実は珍しい。マニュファクチュールの真髄を味わえる点でも魅力的です。この6本はかつて、停滞していたスイス機械式時計を再起させるきっかけだったといって過言ではありません。つまりブランパンは、機械式時計が初めて掌に乗った「ニュルンベルグの卵」以来、機械式時計500年の傑作をすべて網羅しているブランドなのです。