時代の変化や流行に流されず、一貫してクオリティを提供する時計ブランドには、創業から1世紀を超える存在も少なくない。とりわけ機械式時計に対するこだわりの強いブランドは、ユーザーが求める厳しい基準を満たして信頼や安心を獲得してきたからこそ、現在の地位を確立しているのだ。本連載では、1世紀以上の歴史を持つ10の名門をピックアップ。第5回の今回は、航海用の高精度ウオッチをルーツとする「ポルトギーゼ」を輩出した【IWCシャフハウゼン(IWC SCHAFFHAUSEN)】を解説する。
↑2人のポルトガル商人からの依頼を受けて1939年に誕生した大型の高精度ウオッチ「ポルトギーゼ」。写真は、1993年に復活を遂げたもので、以降の定番の礎に。
独自の機構と素材の開発で揺るぎない地位を確立
IWCは、アメリカ式の時計製造をスイスで行うべく海を渡ってやってきたフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズが1868年に創業。当時はインターナショナル・ウォッチ・カンパニーの名で親しまれ、現在も熱心な愛好家には「インター」と呼ばれることも多い。
ドイツ国境沿いの街シャフハウゼンを創業者が選んだ理由は、ライン川の豊富な水流を活用した水力発電を利用しながらスイスの優秀な時計職人とともに理想の時計作りを行うためだった。結果、創業者が帰国後も経営をシャフハウゼンの実業家が引き継ぐことで、この地に時計産業が根付いていく。1885年には時と分をデジタル表示する革新的なパルウェーバー・システムを搭載したポケットウオッチを出荷し、1899年には記録に残る最初の腕時計が登場したのだった。
↑創業者時代の傑作ポケットウオッチ用ムーブメント、通称“ジョーンズキャリバー”。鋭く伸びた緩急針は、1930年代から現代までIWCの98系キャリバーとして受け継がれる。
製造の主体が腕時計になってからは、1930年代に「スペシャル・パイロット・ウォッチ」と、「ポルトギーゼ」という、今も重要なコレクションの初代モデルが登場。さらに戦後にはブランドの技術責任者アルバート・ペラトンが設計した超高精度を誇る手巻きキャリバー89や、独創的な爪レバー式の自動巻き機構を搭載するキャリバー85などでその地位を揺るぎないものとした。
≪主要コレクション≫
高級時計の所有欲を満たすエレガンスと質実剛健さ
(左)IWCシャフハウゼン「ポルトギーゼ・オートマティック 42」 Ref.IW501702 196万3500円
ペラトン自動巻き機構と18Kゴールド製メダルを配したローターが組み込まれた自社製キャリバー52011搭載モデルの進化版。パワーリザーブ残量から赤色がなくなり、表と裏のサファイアクリスタルの形状も変更。シルバー文字盤は、15層も塗り重ねた透明ラッカーが立体感を演出している。
スペック:自動巻き(自社製Cal.52011)、毎時2万8800振動、168時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、アリゲーターストラップ。直径42.4mm、厚さ12.9mm。5気圧防水。
(右)IWCシャフハウゼン「ポルトギーゼ・クロノグラフ」 Ref.IW371624 123万7500円
夕暮れ時の沈みゆく太陽の黄金と眩い光をテーマとする、2024年からの新色「デューン」が配色された大定番クロノグラフ。自社製キャリバー69355のアイコニックな縦2つ目の文字盤配置に新たな雰囲気をプラス。さらに針とアプライドインデックスに施したゴールドメッキで華やかな印象に仕上げている。
スペック:自動巻き(自社製Cal.69355)、毎時2万8800振動、46時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、アリゲーターストラップ。直径41mm、厚さ13mm。3気圧防水。
IWCは、その後も「インヂュニア」「アクアタイマー」「ダ・ヴィンチ」と、今に続く名作を製造。1980年には世界初のチタン製クロノグラフを手掛け、その2年後には「オーシャン2000」で200気圧防水を実現すると、1986年にはセラミック、酸化ジルコニウムを早くもケース素材に使い始めた。この頃には今のブランドを象徴する人物である技術者クルト・クラウスが4桁の西暦表示の付いた革新的な永久カレンダーの開発に成功。1990年には腕時計サイズでの「グランド・コンプリケーション」も開発した。
↑IWCはチタンやセラミックの開発をはじめ、独自の素材や色の開発してきた。2024年も発光セラミック技術“セラルーメ”を用いた最新のコンセプトウオッチ(写真上)を披露した。
現在のIWCは、先述の5つに「ポートフィノ」を加えた6つのコレクションを柱に、様々なラインナップを展開。複雑機構や高機能素材の開発は枚挙にいとまがなく、話題は尽きない。2024年もコンセプトウオッチを披露し、ギネス記録の高精度ムーンフェイズを作り上げるなど話題は十分。こうした期待に応える製品作りが、ファンの心を捉えて離さない理由なのだ。
問い合わせ先:IWCシャフハウゼン TEL.0120-05-1868 https://www.iwc.com/jp/ja/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。
◎本記事は『ウオッチナビ 2024 Summer Vol.94』より抜粋・編集しています。
Text/WATCHNAVI編集部
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