1世紀ブランドを徹底解説【IWCシャフハウゼン】超高精度カレンダーウオッチ「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」を開発

2025/1/21 21:15

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時代の変化や流行に流されず、一貫してクオリティを提供する時計ブランドには、創業から1世紀を超える存在も少なくない。とりわけ機械式時計に対するこだわりの強いブランドは、ユーザーが求める厳しい基準を満たして信頼や安心を獲得してきたからこそ、現在の地位を確立しているのだ。本連載では、1世紀以上の歴史を持つ10の名門をピックアップ。第5回にあたる【IWCシャフハウゼン（IWC SCHAFFHAUSEN）】において、傑出した技術で2024年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ（GPHG）にて「金の針賞」を受賞した「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」を掘り下げて解説する。

↑エターナル・カレンダーモジュール。22兆通り以上もの組み合わせを計算した後に導き出された減速輪列が鍵。3つの中間ホイールの動きが、一般的に約29.5日とされる月齢の周期を極限まで緻密に割り出した数値に基づき駆動。月を示すブルーの円を持つチタンのベースと、その上をガラスディスクが回る南北両半球のダブルムーンフェイズで4500万年精度を実現した。

まさに計算し尽くされた超高精度カレンダーモデル

IWCが手がけるパーペチュアル（永久）カレンダーを有名にしたのは、生ける伝説クルト・クラウスが1985年に開発したモデルだった。4桁の西暦表示を備えたほか、1日の誤差を生じるまでに122年かかる高精度ムーンフェイズ表示も有していた。その後、2003年には577.5年に1回の調整のみに記録を更新。他社が29.5日の周期でムーンフェイズを作り続ける中、IWCはもはや数世代に受け継がなければ誤差の確認ができない領域に突入していた。だが、2024年の新作は、パーペチュアルを遥かに凌駕するエターナルの領域に。そのムーンフェイズ精度は、圧巻の4500万年である。

↑世界で最も高精度な月齢表示としてIWCに送られたギネス記録の認定書。

このモデルは当然のごとくギネス世界記録に認められたが、実はそれ以前に独立時計師が4枚の歯車を追加して200万年で1日誤差の機構を実現。それまでの世界記録ホルダーだった。それを一気に4300万年も塗り替えたIWCのエターナルムーンフェイズは、構造自体は3枚の歯車を足しただけのシンプルな構造に見える。だが、技術部門トップのステファン・イーネンは公式発表で、「月の満ち欠けを正確に表示することは難しい」と語っている。実際、歯車の数と、それらの歯数、ギア比率の組み合わせは、コンピューター上で22兆通り以上もシミュレーションされたという。さらに実際に駆動する際のバックラッシュを防ぐために歯の形状も検討。結果、半導体産業で用いられるLIGAテクノロジーによって歯車を製造することにしたのだという。

↑技術部門アソシエイト・ディレクターのステファン・イーネン氏。2002年にIWCの開発者兼デザイナー就任。以来、技術部門の要職に就いて数々の名作を手がけてきた。今やブランドの時計開発に欠かせない“IWCの頭脳”である。

しかも、超絶高精度はムーンフェイズだけではない。永久カレンダーもまた、400年で1周する歯車を組み込むなど、最小の要素で最大の効果を得る設計を実現。400年に3度訪れる閏年のない年や、400年目に復活する閏年など、グレゴリオ歴の入り組んだルールに則ったメカニズムを構築した。ちなみに、少なくとも3999年となる理由は、西暦4000年を迎えたときのルールが定まっていないからである。

1980年代にクルト・クラウスが考案してから、IWCにとって永久カレンダーとムーンフェイズは象徴的な機構となってきた。最新作はそれまでの開発の集大成といっても過言ではないだろう。過去に敬意を払った進化の追求。その姿勢は、リューズ1本ですべてが調整できる実用性をエターナルカレンダーにも与えた点からも伝わってくる。

≪主要コレクション≫