時代の変化や流行に流されず、一貫してクオリティを提供する時計ブランドには、創業から1世紀を超える存在も少なくない。とりわけ機械式時計に対するこだわりの強いブランドは、ユーザーが求める厳しい基準を満たして信頼や安心を獲得してきたからこそ、現在の地位を確立しているのだ。本連載では、1世紀以上の歴史を持つ10の名門をピックアップ。第7回として取り上げる【オリス(ORIS)】は、2024年に創業120周年を迎えてさらに発展を続ける。
↑初期の名作が「ビッグクラウン ポインターデイト」。日付を専用指針で指し示す視認性の高いデザインと、グローブ着用のままでも操作しやすい大型リューズがパイロットたちに評価された。
幾多の困難を乗り越えて独立時計ブランドに帰結
↑現在のオリスを象徴する自社製キャリバーの開発は、創業110周年に披露されたキャリバー110から開始。シングルバレルで10日間パワーリザーブを実現した独創設計は、業界の度肝を抜いた。
1904年、スイスのヘルシュタインで2人の創業者によってオリスは誕生した。ブランド名は時計工場の近くに流れる小川に由来。それから10年を経たずして、300人を超える従業員を抱える大企業へと成長する。当時から市民のための手頃な価格の時計製造を行っており、製品には費用対効果の高いピンレバー脱進機を主に用いていたという。そして、1914年までに100万個以上の時計を生産するほどとなり、やがて「3秒に1本の時計」が製造できることを誇示するに至ったのである。
その一方で、1934年に「スイス時計法」が制定されると、小規模なスイス時計製造業者がカルテルを構成。オリスのようなビッグブランドは排除され、その新法によって新技術の導入さえも難しくなってしまった。結果、オリスは性能面で勝るスイスレバー式の脱進機に移行できず、長らくピンレバー脱進機での製造を余儀なくされた。だが、こうした苦境もチャンスに変え、1938年には時計史に残る傑作パイロットウオッチ「ビッグクラウン ポインターデイト」を開発。1952年には初の自動巻きウオッチも手がけている。その後、1966年にスイスレバー脱進機の製造を国に認めさせると、その2年後にオリスはヌーシャテル天文台からフルクロノメーター証明書を受けたキャリバー652を開発することとなった。
↑キャリバー110から約6年を経て、待望の自動巻きの自社製ムーブメントとしてキャリバー400が登場。5日間パワーリザーブに高耐磁性能などの特徴を有し、推奨オーバーホール期間を10年ごととした。
1970年代のクオーツショック時代にはASUAGグループに入って難を凌ぐも、オリスは意にそぐわぬ時計製造を強いられる状況。これに反旗を翻したのが、当時マーケティングマネージャーだったウルリッヒ・ヘルツォーク(現会長)である。彼は1982年にオリスを買収し、独立ブランドとして再スタート。ベースムーブにモジュールを追加する手法で、陸、海、空のフィールドを見据えた数多くの名機を世に送り出した。
2014年には35年ぶりとなる完全自社開発のキャリバー110を披露し、オリスはマニュファクチュールとしても完全復活。2016年から経営体制が新しくなると、徐々にコレクションも再編されていった。そして、現在のオリスは、時計製造を通じてあらゆるメッセージを世界に向けて発信するブランドへと変化。製品としての優秀性だけではなく、人々に笑顔と楽しみを届ける時計作りを実践し、良い変化をもたらす活動を行う団体をサポートするなど、独立企業らしく自らの信念に基づく活動を続けている。
≪主要コレクション≫
時代を超えて共演するオリス流ダイバーズ
オリス「ダイバーズ 65 デイト」 Ref.01 733 7707 4057-07 8 20 18 41万8000円
創業以来の本拠地ヘルシュタインを取り囲むヴァルデンブルグ峡谷の森を表現した一本。ベースには、1965年に登場したオリス初のスポーツウオッチの精神を受け継ぐモデルを採用。絶妙なグラデーションダイアルは、まさしく木々が織りなす風景のよう。こなれた価格も魅力的だ。
スペック:自動巻き(Cal.733)、毎時2万8800振動、38時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース&ブレスレット、サファイアクリスタル風防(内面無反射加工)。直径40mm。10気圧防水。
オリス「アクイスデイト キャリバー400」 Ref.01 400 7790 4135-07 8 23 02PEB 62万7000円
高耐磁性能と5日間パワーリザーブ、10年間の動作保証などの特徴を有するキャリバー400を、進化した本格ダイバーズウオッチに搭載。より装着感を高めた設計に、文字盤と同色で揃えたカレンダーディスク、数字や文字の書体の変更など、基本デザインを踏襲しつつ細部が熟成された。
スペック:自動巻き(Cal.Oris 400)、毎時2万8800振動、120時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)&ブレスレット、サファイアクリスタル風防(内面無反射加工)。直径43.5mm、厚さ13.2mm。30気圧防水。
サスティナブルな活動はオリスの行動原理
人や環境に配慮した企業活動は、今のオリスを語るうえで欠かせない。では、その信念が時計作りにどのように反映されているのか。最新作を例に取り上げながら、現在のオリスの動向を詳しく見ていこう。
多くの人を巻き込みながら未来を作る時計作りに邁進
↑サンゴ礁を保護する活動を15年間継続しているオリス。写真はサンゴをツリー状に育てる作業をするダイバーの様子。彼らの目的はサンゴの数十億の幼虫を自然環境に移植すること。グレートバリアリーフでの大規模なサンゴの白化現象が問題となっている。
つねに未来を見据えて歴史を重ねてきたオリスは、長らく社会貢献活動に尽力してきた。華やかなアンバサダー起用ではなく、より良い未来をともに作るパートナーこそがオリスにとって重要なのだ。直近の限定モデル「グレートバリアリーフ リミテッドエディションⅣ」は、世界最大のサンゴ礁エリアをモチーフに開発された限定モデルの第4弾。この時計の売り上げの一部は、現在、深刻な大規模白化現象が続くグレートバリアリーフのサンゴ礁を復元すべく活動を続ける団体の活動資金に充てられる。こうした海洋保全活動を、オリスは15年前から継続してきたのである。また、近年では時計作りを通じて、世界最大の干潟ワッデン海を保護するべく活動しているCWSSや、ニューヨークハーバーに10億個のオイスターを再生させようとする非営利活動への支援も実施してきた。さらに、サスティナビリティに積極的なクリケットやサッカーのスポーツクラブともパートナー契約を交わしている。
オリスの時計作りのすべては、人々を笑顔にすることが目的
直接的に時計と関係するパートナーとしては、チェルボボランテとブレスネットがある。前者はスイスの自然を守るべく個体数調整のために法的措置が取られた鹿の革を廃棄せず、皮革製品として再生する団体。後者は代表的な海洋プラスチックごみである廃漁網をアップサイクルする団体である。いずれも、オリスのコレクションに使われているので、店頭で発見した際はぜひ注目していただきたい。
↑チェンジ・フォー・ザ・ベターの取り組みは、オリスが販売されている世界各地で実施。日本でもブティックのある銀座のクリーン活動を行っている。活動はユーザーでなくても参加可能だ。
オリスでは、こうした一連のサスティナビリティ活動をまとめたレポートを2022年より公開し始めた。こうした詳細なサスティナビリティレポートを行う時計ブランドは数社しかなく、オリスの誠実な企業姿勢が伝わってくる。というのも、そうしたレポートは製品ラインナップやパートナーシップなどで矛盾があっては成立しないから。穿った見方をすれば、2016年からの新体制がようやく理想的な形になったとも言えそうだ。オリスは、かつて大量生産の申し子のような存在だった。それが1世紀の時を超えた今は、「チェンジ・フォー・ザ・ベター・デイズ」のスローガンのもとに、より良い未来を作るための時計作りを実践している。その120年の歴史の中で変わらない製品哲学は、「人々を笑顔にするための美しい機械式時計を作ること」。その崇高なる目的を果たし続けるべく、オリスは終わることないチャレンジを続けている。
≪主要コレクション≫
世界最大の珊瑚礁の海中風景を限定ダイバーズウオッチで表現
オリス「グレートバリアリーフ リミテッドエディション IV」 Ref.01 400 7790 4185-Set 66万円
垂直方向に変化するブルーのグラデーションダイアルと12時側に中心点を持つ放射仕上げが印象的な、世界限定2000本の特別仕様。グレーのトップリングは超硬合金のタングステン製で耐傷性を高めた。本機の売上の一部はオーストラリアのサンゴ礁復元財団の活動支援に充てられる。
スペック:自動巻き(Cal.Oris 400)、毎時2万8800振動、120時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース&ブレスレット、両面ドーム型サファイアクリスタル風防(内面無反射加工)。直径43.5mm。30気圧防水。世界限定2000本。
問い合わせ先:オリスジャパン TEL.03-6260-6876 https://www.oris.ch/jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
◎本記事は『ウオッチナビ 2024 Autumn Vol.95』より抜粋・編集しています。
Text/WATCHNAVI編集部
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