四半世紀の歴史を持つ世界で唯一の“アートパトロン”国際文化表彰である「モンブラン国際文化章」の2016年度は、坂本龍一氏が受賞しました。自身が幅広く活躍するのみならず、若きアーティストの才能を伸ばすプロジェクトも数多く成し遂げてきた坂本氏の功績を、授賞式の模様と合わせて振り返ります。
「上の世代の責任として、下を育てなければいけない」
「モンブラン国際文化賞(Montblanc de la Culture – Montblanc Arts Patronage Award)」は、若い才能の擁護・育成などに尽力する芸術と文化の支援者“アートパトロン”として貢献している人を称える国際文化表彰です。
1992年に設立されてから毎年1回、世界各国で各芸術分野の中でパトロンとして活躍されている方々から、各国1名ずつが選ばれてきました。ちなみに、2016年度の対象国は、ドイツ、スイス、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、ロシア、ギリシャ、アメリカ、メキシコ、コロンビア、ブラジル、中国、韓国、香港、そして日本です。
日本における直近の歴代受賞者は、オノ・ヨーコ氏(2011年)、市川猿翁氏(2013)、小沢征爾氏(2014)、熊川哲也氏(2015年)など、錚々たる顔ぶれ。ここに、2016年度の受賞者として坂本龍一氏が加わります。
坂本龍一氏の受賞理由について、公式発表で以下のように綴られています。
坂本龍一氏は、日本の音楽家ですが、彼にとって才能がある若い人材を支援することは自らの活動の中心に位置付けられています。彼は、これまでに数多くのさまざまなプロジェクトを発表し、音楽や舞台芸術、絵画、その他多種多様な分野のアーティストを支援してきました。この点に関して、彼は若いミュージシャンたちとの数多くの作品を発表し、数え切れないほどのコンサートを主催し、彼らの才能を大勢の聴衆に紹介してきました。山口市文化振興財団でアーティスティック・ディレクターの職責を担う坂本龍一は、各種のワークショップで自らの才能を次世代へ受け渡す形で同地域に住む子供たちの芸術教育に貢献しています。彼は、ベルリン国際映画祭のタレント・キャンパスで世界中から集まった若い新鋭の音楽家に作曲を指導し、日本では音楽活動を通じて子供の成長を支援するなど、世界的な取り組みに携わっています。また、音楽の上演を通じて東日本大震災の被災者の心を元気付け、世界中で受け入れられる音楽家の育成とその活躍をサポートすることを目的として、東北ユースオーケストラの代表理事と監督も務めています。そのパフォーマンス活動への取り組みにより、彼は日本や世界中の人々に東日本大震災の教訓やその惨禍の記憶を伝えています。
授賞式当日は、モンブラン特別限定品「パトロンシリーズ」の贈呈に続き、ゲストオブオーナーとして35年以上の親交がある村上龍氏が登場。坂本氏のお母様とのエピソードや楽曲への賛辞など、村上氏ならではのコメントがトーク形式で寄せられました。
さらに、坂本氏が音楽監督を務める東日本大震災を体験した小学生から大学生までの混成オーケストラ「東北ユースオーケストラ」の有志2名と『Merry Christmas Mr.Lawrence』『美貌の青空』の2曲を披露。張り詰めた緊張感の中にも夢のような時間を楽しむ2名の演奏が、会場に大きな感動を呼びました。
今回の受賞に際し、坂本氏は次のように述べています。
「このようなプレスティージャス(名誉ある)な賞をいただいていいのだろうかという 気持ちでいっぱいです。歳を取ってくると上の世代の責任として、下を育てなければいけない。また一生懸命自分が色々やってきたことなど、経験を伝えるのも大切な役目だと感じています。過去受賞されているオノ・ヨーコさんや小澤征爾さん等と並んでしまうと僕なんかでいいのかという気持ちが強いですが、しっかり受け止めてこれからも精進して参ります」
いつの時代も、若きアーティストの育成には支援者の存在が欠かせないもの。その点において、若手を影で支え続けるパトロンにスポットライトを当て、その活動を広く世界に知らせる「モンブラン国際文化賞」は、非常に有意義な賞だといえます。
今回の受賞を機に坂本氏の活動が世界中に知れ渡り、同氏が支援する若き才能がより活躍しやすい土壌が築かれていくことを願ってやみません。
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