WN視点で見たアジア最大の時計祭典 ──「香港ウォッチ&クロック・フェア2025/Salon de TIME」アフターレポート

9月2日から6日までの5日間、香港コンベンション&エキシビションセンターにて第44回「香港ウォッチ&クロック・フェア」と第13回「Salon de TIME」が開催された。「Our Time Our Moments」をテーマに掲げた今年は、15の国と地域から650社以上が出展。フェアには95の国と地域から約1万6000人の業界バイヤーが参加した。ウオッチナビ編集部はアジアにおける時計のトレンドを掴むべく現地に入り、独自の視点から取材を実施。ここにレポートする。

アジアの潮流を映し出す時計の祭典

「香港ウォッチ&クロック・フェア」「Salon de TIME」は、アジア最大規模を誇る時計見本市で、香港が国際的な時計ビジネスの交流拠点として進化を続ける象徴的なイベントとなっている。香港外からのバイヤーは主に中国本土から日本、台湾、インド、ASEAN諸国(インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイなど)、アメリカから集まっており、未だに香港がウオッチ&クロックの重要な拠点かつ、販売の中心であることを改めて認識させた。 


↑開幕式には各国の代表者や業界関係者が集い、華やかにスタート。世界15の国・地域から650社以上が参加し、会場は熱気に包まれた。

フォーラムとコンペティションが示す未来

本イベント会期中は、業界の未来を議論する場として「香港国際時計フォーラム」や「アジアウォッチカンファレンス」が開かれ、各国の協会代表や市場アナリストが集い最新の取引データや市場動向を共有。世界の時計産業を取り巻くサプライチェーンの課題と戦略について議論が交わされたほか、独立系時計師やマイクロブランドに見られる芸術的アプローチについても深く掘り下げられた。 

 

Salon de TIMEに集結した140以上のブランド

一方、センターの3階で開催された「Salon de TIME」にはコロナ以降では最多となる140を超えるブランドが集結。個性を競い合うように6つのテーマゾーンに分けられ、出展していた。一般にも無料公開され、同時開催されたファッション見本市「CENTRESTAGE」と併せて1万9000人以上の来場者があったとのことだ。


↑伝統と格式を誇る名門ブランドから新進気鋭の独創的ブランドまで、多彩な顔ぶれが一堂に会した「World Brand Piazza」。香港ならではのダイナミズムを感じさせるエリア

香港の有名ショップが提供する特設コーナーも存在

存在感を放っていた「World Brand Piazza」は、香港の正規店「プリンス・ジュエリー&ウォッチ」が提供する特別展示エリア。香港でも人気の「ユリス・ナルダン」「ボーム&メルシエ」「コルム」「モンブラン」といった日本の時計好きにも馴染み深い9つのブランドが並び、ここで披露された限定モデルにはコレクターたちの熱い視線が注がれていた。

さらに同エリアでは、知る人ぞ知る個性派ブランドにも出会うことができた。ナポレオンの末裔が創業したことで知られる「 DE WITT(ドゥ・ヴィット)」を筆頭に、世界最大級のトゥールビヨンを搭載する「Kerbedanz(カバンダンス)」、宝飾的なアプローチで知られる「SARCAR(サーカー)」 などをディスプレイ。今後、日本でも注目度が高まる可能性がある。


↑「World Brand Piazza」エリア。「プリンス・ジュエリー&ウォッチ」が協賛し、9ブランドが集結した特別展示。

 

中国時計産業の原点を示す「海鷗」と「上海」の70年

中国で最も古い時計ブランドとされる「海鷗(SEA-GULL)」は、1955年3月に「天津手表厂」(天津時計工場)が製造した「五星」からスタートを切った。今回、会場にはその中国初の腕時計である「五星」を復刻した限定モデルが披露され、オリジナルのデザインを忠実に再現しつつ現代技術でブラッシュアップされた一本として注目を集めていた。なお海鷗は、現在も中国最大規模のムーブメントメーカーでもあり、手巻きから自動巻き、さらには複雑機構まで自社開発できる技術を有し、多彩なコレクションを展開している。

また、同じく1955年の9月に誕生した「上海(SHANGHAI)」も会場で存在感を示していた。現在は海鷗と同グループとなる「漢辰表业集団」に属するブランドであり、会場には往年のヴィンテージモデルや資料を展示し、70年の歩みを解説していた。そんな上海は、古くから“日常使いできる信頼性の高い時計”として親しまれ、クラシックな意匠に重きを置き、近年はモダンなデザインを取り入れ、ギフトにも適するコレクションを揃えている。 

 

スイスの多彩さを感じるスイスパビリオン

香港ウォッチ&クロック・フェアでは、スイス時計の多様性と存在感を示すスイスパビリオンも注目のエリアとなった。出展ブランドの顔ぶれは実に多彩で、「マーヴィン」はクラシカルなスタイルで、「マセ・ティソ」は伝統を受け継ぐモダンな機構で、「Pilo & Co SA」はクリエイティブな造形でなど、ブランド各々で存在感を放っていた。

さらに1931年創業の「アドリアティカ」はクラシックなドレスウォッチを軸に、手頃な価格帯で本格的なスイスメイドの信頼を広げる存在として紹介された。また、2009年にジュネーブで創業した「デビッド・ヴァン・ハイム」は、エルゴノミックなフォルムやトゥールビヨンによって個性を打ち出していた。

 

フランスパビリオンと「エルブラン」 

フランスのパビリオンも設置されており、こちらはデザインや美学を前面に打ち出すエリアとなっていた。ひときわ存在感を放っていたブランドが、日本でも人気の「エルブラン」。現在、創業家三代目が経営を担う同ブランドが出展した狙いは、日本、中国、韓国、インドネシア、フィリピン、インドといったアジア市場でのシェア拡大を見据えた戦略的な動きとのこと。ミヨタ製ムーブメントを搭載する300本限定モデルを披露。新作の数々もフランスらしい洗練のデザインに実用性を兼ね備えた良作ばかりで、将来性を感じさせる充実の内容だった。日本国内でのリリースに期待することとしよう。

 

日本からはウオッチメーカーの「サン・フレイム」が出展

1984年に創業した「サン・フレイム」は、ファッションウオッチのOEM供給を軸に成長し、低価格帯の腕時計で大きなシェアを持つ日本の時計関連企業である。「MADE IN JAPAN」「MADE IN TOKYO」を掲げ、2015年には浅草に組み立て工房を設立し、ファクトリーを強化。さらに2020年には国内大手メーカーで海外事業を担当していた人材を招聘し、海外事業部を立ち上げるなど、グローバル展開に向けた準備を整えてきた。

コロナ禍では試練を経験したものの、2023年の香港フェアに初出展を果たし、今年は自社ブランドとなる「サン・フレイム」からオリジナルコレクションを発表。シンプルかつ上質なデザインにこだわり、耐久性と実用性を重視した3針からクロノグラフまで揃える。いずれもケースや文字盤は国内で仕上げられ、価格はミドルレンジまでを上限としている。

OEMで培った製造力を背景に、初めて自社ブランドで挑んだ今回。上々の評価を得たとのことで、日本国内から世界に羽ばたくきっかけとなったに違いない。

ウオッチナビ編集部はそのほかに、サプライヤー関連ブースにも注目した。ケースやストラップ、ムーブメントを製造する数々のサプライヤーも出展しており、日本からは「ミヨタ(MIYOTA)」が参加。シチズン傘下の同社は、世界最大級の機械式/クオーツムーブメントの供給元として知られており、エントリーからミドルレンジの多くのブランドが同社製を採用。その精度や耐久性、保守性からその信頼は揺るぎないもので、安定した供給力も国際市場で高く評価されている。今回のイベントで出会った数多くの腕時計がミヨタ製キャリバーを搭載していた。

現地での取材を通し、香港が引き続き時計市場の一大拠点であることを再確認すると同時に、アジアの最新トレンドから時計産業全体の未来を形作る基盤まで垣間見ることができた。世界にはまだまだ知られていないブランドや、驚くような技術を持つメーカーが存在しているのだ。WATCHNAVI Salonではこれからも、そうした卓越した存在を取り上げていきたい。

Text/WATCHNAVI編集部 協力/香港貿易発展局

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