2016年のバーゼルワールドで最も注目を集めた新作といえば、タグ・ホイヤーの02Tをおいて他にはないでしょう。しかし、実際はコンプリケーションの低価格化が時計界全体でも進んでいるのです。今後の時計界を揺るがしかねない新潮流は、今後も継続するかどうか。代表作とともに予想していきます。
スイス製のフライングトゥールビヨン+クロノグラフウオッチが200万円を切った!
トゥールビヨンは、1801年にアブラハム・ルイ=ブレゲが特許を取得後、幾多の時計師が挑んでは挫折を繰り返した複雑機構の代名詞。
具体的には、脱進・調速機をキャリッジと呼ばれるカゴ状パーツ内で組み上げ、そのキャリッジを自転させることでヒゲゼンマイなどのパーツにかかる重力の負荷を分散。パーツの歪みなどを低減し、長期にわたって安定した高精度を維持するためのメカニズムです。
現代で最初に腕時計に搭載したのはオーデマ ピゲで、これより時計界はコンプリケーションウオッチ開発競争へと突入。コンピューター設計が主流になった2000年代には、複数軸を持ち、立体回転を行うモデルが開発されるほどにトゥールビヨンは進化を遂げます。
こうした技術的進化は、多軸構造のほか複数搭載、高速回転など、様々な派生型を生み出す一方、高次元にたどり着いたトゥールビヨンの開発競争の終焉へと繋がっていきます。
開発競争が終焉を迎えたのは、価格面にも理由があるでしょう。ここまでに触れてきたトゥールビヨンの多くは、1000万円を下らない高額モデルばかり。とても一般ユーザーが手の届くものではありませんでした。
そこへ、2016年にタグ・ホイヤーが200万円を切るトゥールビヨンを出してきたため、時計界は騒然となったのです。
それでは、タグ・ホイヤーがどのようなモデルを出したのか見ていきましょう。
これが200万円アンダーのトゥールビヨンの全貌だ!
2014年発表のCal.CH-80を再設計して作られた、自社製の第二弾キャリバー ホイヤー 02Tを搭載。フライングトゥールビヨンに加え、クロノグラフも搭載し、さらにCOSC認定クロノメーターまで取得していながら驚きのプライスを実現しました。
破格の秘密
プレートの仕上げの統一やキャリッジにも見られる直線加工の多様が衝撃価格の鍵。軽量なカーボンやチタンでキャリッジの抵抗を減らし、高精度を確保しています。
ほかにもまだある衝撃価格のトゥールビヨン
ここから先は、タグ・ホイヤーほどではないものの、かなり現実味を帯びたプライスでトゥールビヨンを作り上げたブランドを取り上げます。
ラ・ジュー・ペレが手がけたCal.A-300を搭載。徹底したスケルトン化とチタンケースの採用により、驚くほど軽く堅牢性に優れたトゥールビヨンに仕上げています。ネジ留めラグのシャープで美しい造形も特徴です。
破格の秘密
輪列を支持する2枚のプレートを同様の形に成型。モダンなスケルトン設計で、耐久性も高めながらパーツ点数を抑えて、大幅なコストカットを実現しています。
エル・プリメロにトゥールビヨンを載せたCal.4035Bを新しいデザインで表現。ブランド名などが浮き彫りにされた地板を文字盤の代わりとし、直接インダイアルをセット。操作系統までブラックで統一することで精悍なフェイスに仕上げています。
破格の秘密
文字盤だけでなく、従来のCal.4035にあった特許取得のトゥールビヨン同軸デイト表示を不採用に。より複雑機構の内部に迫ることのできる顔つきは、メカフェチにはたまらないはず!
7日間巻きのスケルトントゥールビヨンCal.UN-170の派生型となるCal.UN-171を搭載。透かし彫りされたインデックスがプレートの役割も果たすユニークな構造で、動力伝達の仕組みを細部まで鑑賞し尽くせます。
破格の秘密
2013年に完全自社製トゥールビヨンとして登場したCal.UN-170は、多彩な仕上げが特徴でした。これをCal.UN-171ではシンプルな仕上げとすることで価格を抑えたと考えられます。
キャリッジの外側(エグゾ)にテンプを備えた独自設計のトゥールビヨンを、マイクロローターの搭載とともにスリム化。構造上のメリットを生かした秒針停止機能の状況は、3時位置のディスプレイで表示します。日本価格は未定ですが、約500万円と予想されます。
破格の秘密
テンプが外側にあるため調整はしやすくなりますが、これが直接の要因とも思えません。しかもケースはゴールド製。この価格帯で作り上げたモンブランの企業努力には舌をまくばかりです。
近い将来、戦略価格のトゥールビヨン開発競争が巻き起こる!
トゥールビヨンをより現実的な価格で作り上げるためには、パーツ成型から組み上げまで徹底した合理化を行う必要があります。加えて、シンプルでありながら見栄えのよい仕上げを施すなど、職人の手作業の時間を短縮していくことが求められます。
現代の技術力を持ってすれば、自社でムーブメントを製造できるマニュファクチュールであれば、上記のような条件は比較的容易に満たせるかもしれません。あとは、戦略的トゥールビヨンの需要がどこまであるか。それが、新たなコンプリケーション開発競争が盛り上がるかどうかを占う鍵になると思われます。