スウォッチ グループ、2019年バーゼルワールド出展中止…展示空間再構築の必要性【並木浩一の時計文化論】

スウォッチ グループがバーゼルワールドに出展しない、というニュースが、時計の世界を驚かせています。
来年に限ってか、永久離脱の方針なのかはわからないのですが、少なくとも2019年のバーゼルワールドは、
巨大コンテンツを失うことになります。

開催を危ぶむ声まで、一部のジャーナリズムにあるほどです。巨額の出展料が失われる問題でもありますが、それ以上にスウォッチ グループの"具体的で可視的な存在感"が失われることへの危惧です。

バーゼルワールドの会場の中での一等地は、1号館の1階です。メイン入口から一直線に続く広い通路があり、左右に並ぶのは名だたるブランドのブース。そしてその先の視線を、広大なスウォッチ グループのエリアが完全に遮る構造になっています。

実際はその裏側にも他ブランドのブースがあるのですが、オメガのロゴを掲げたブースの建物がそこだけ真正面の入口側を向いています。壮大な寺社が表参道の行き止まりに屹立している、そんな光景です。
仲見世を見ながら本堂に向かうようなストレートの動線が敷かれているわけで、突き当たりが一等地中の一等地。独立したブランドの共同体なのですが、バーゼルワールドのなかでスウォッチ グループは、一つのゾーンを形成しています。
1号館1階の、特権的な位置ともいえるでしょう。

バーゼルワールド会場の1号館1階。エントランスから一直線に続くメインストリートの奥に、オメガの赤いロゴが見える

もしそれが丸ごと不在になるとするのであれば、会場の中心に広大な空虚が生まれてしまうことになります。つまりはスウォッチ グループの不在は、バーゼルワールドの展示空間そのものを一から再検討し、再構築する必要に繋がっていかざるを得ないのです。

比較すると、ジュネーブのSIHHは、全く異なる空間構造のポリティクスを持っています。現在の会場は言って見れば数字の「9」のようなフィギュアを描く通路と、それに面したブースで構成されています。来場者は数字の下の方から入場し、上の回廊で一番奥にあるカルティエのスペースまでスムーズに導かれて一周し、一筆書きのようにすべてのブランドを見ることができる。

ブランド数が増加しても下の部分を伸ばせばまだ対応可能でしょうし、万が一減少しても調整が可能。
パリのパサージュを想わせる世界一魅力的なアーケード空間は、意外なほどの柔軟性を持っています。

一方、スウォッチ グループが抜けるバーゼルワールドは、新たな中心を設定することになるのでしょう。
パテック フィリップ、ロレックス、LVMHグループ、ショパールらがその中核を担っていくのでしょうが、ではどんな1号館1階になるのか。

バーゼルワールドは100年続いた時計の収穫祭であり、その「かたち」は重要な祝祭性の表象です。
空虚を埋めた後の、来年の姿に注目しています。

並木浩一
桐蔭横浜大学教授、博士(学術)、京都造形芸術大学大学院博士課程修了。
著書『男はなぜ腕時計にこだわるのか』(講談社)、『腕時計一生もの』(光文社)、近著に『腕時計のこだわり』(ソフトバンク新書)がある。
早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校・学習院さくらアカデミーでは、一般受講可能な時計の文化論講座を講義する。

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