もはや毎年恒例となったオーデマ ピゲ独自の新作発表会「APソーシャルクラブ」が、2026年も2月初頭に行われた。今回はスイスのアンデルマットを舞台に行われ、数々の新作や新技術を来場者に披露したとのこと。以下、現地を取材した時計ライター・高木教雄氏による現地レポートをお届けする。
2026年のテーマは「CRAFTING TIME(時を紡ぐ)」

オーデマ ピゲは今年、「CRAFTING TIME(時を紡ぐ)」をブランドテーマとして掲げた。そして2月3日にスイス中央部の高原渓谷アンデルマットで開催された新作発表会「APソーシャルクラブ」では、そのテーマを体現するかのようにメゾンが150年に渡って継承・研鑽してきたさまざまな時計製作技術の実演を交え、それらにまつわるモデルがプレゼンテーションされた。例えば地板やブリッジの糸鋸による手作業のオープンワークや、その後の面取り・仕上げを実演する作業台では、スケルトンウオッチの新作が披露されるといった具合に。他にもジェムセッティングや、ふたつのパーツの間に融点が低い金属片(ロウ)を置き、それをバーナーであぶって溶かして接合するロウ付け、ヒゲゼンマイの外側終端カーブを手曲げして形作る様子などが招待客の眼前で実演された。

また本社に隣接する博物館「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」から運び出された、稀少な歴史的タイムピースの数々も展示。それらにはメゾンが受け継いできた、あるいは時計界で先駆けた多様な機構が搭載されている。
中でもオーデマ ピゲが創業時から得意としてきたのは、複数の複雑機構が備わるグランドコンプリカシオンである。1899年には、さらに複雑なウルトラコンプリケーション「ユニヴェルセル」を発表。その名は2023年、「RD#4」に冠された。そうした超複雑時計の伝統が今年の新作、「“150周年ヘリテージ” 懐中時計」に結実した。
話題作「“150周年ヘリテージ” 懐中時計」や「ネオ フレーム ジャンピングアワー」との対峙
「RD#4」のために開発されたCal.1000を懐中時計用に手巻き化するなどして改良した、新型Cal.1150を搭載。ソヌリやトゥールビヨン、スプリットセコンド・フライバッククロノグラフなど22もの複雑機構を1つに統合してみせた。さらに開閉式のケースバックには、メゾン初のユニバーサルカレンダーを装備する。これは裏蓋を開くとその背面に現れるディスク状の巨大なリューズで操作する、いわば万年カレンダーである。リューズを回してダイアル中央の西暦を設定すると、その年の暦と月齢周期に切り替わる仕組み。西暦は1900~2099年までプログラミングされ、正確な月齢周期と連携して太陽・太陰暦に基づくラマダンや春節の時期なども一目瞭然とする革新的なメカニズムが潜んでいる。Cal.1150に備わる複雑機構とも相まって、昨年迎えた創業150周年の集大成にして、さらに次なる150年も進化を続けるというメゾンの決意が込められた、まさに超大作である。

展示された歴史的タイムピースの中には、オーデマ ピゲが1924年に腕時計でいち早く実現したジャンピングアワー+ディスク式分表示が備わるバリエーションの1つがあった。その1929年製モデルをモチーフに、同機構が久しぶりにメゾンに帰還した。新作「ネオ フレーム ジャンピングアワー」は、オリジナルと同じくケース両サイドをアール・デコを象徴するゴドロン装飾で華やいだ流麗なフォルムが、実に美しい。ムーブメントは、「ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シン」に使われる極薄自動巻きCal.7121に新開発のジャンピングアワー・モジュールを組み合わせたCal.7122を搭載。同機構では異例のケース厚8.8mmという薄さを実現してみせた。さらに前面は、鉄仮面状だったオリジナルの姿を継承しながらサファイアクリスタル風防にブラックPVDを施すことで、精悍かつエレガントな金黒の外観を創出。モデル名に冠した“ネオ”は、これが1929年製モデルの単なる復刻ではなく、機構も外装もはるかに進化さているという自負の現れである。


新型クロノグラフキャリバー6401が完成
さらに今年のオーデマ ピゲは、既存モデルのブラッシュアップにも手抜かりはない。中でも「ロイヤル オーク クロノグラフ」は、会場で大きな関心が寄せられた1つだった。ケース径は、小ぶりな38mm。既存モデルにもあり、外観も大きな変化はないが、ついに完全自社製搭載となったのだ。これまで38mmのクロノグラフに使われてきたのは、スイス製で垂直クラッチを先駆けたフレデリック・ピゲ製の薄型自動巻きの傑作Cal.1185を自社で仕上げ直したCal.2385であった。それに代わる新型Cal.6401は、自動巻きで垂直クラッチ+コラムホイールであるのは同じ。しかし振動数は毎秒6振動から8振動にハイビート化れ耐衝撃性と携帯精度が向上し、パワーリザーブも約40時間から55時間へと大幅に延長されている。自社製搭載となったことでケースバックはトランパレント化され、またダイヤル左右の積算計の針位置のバランスがより良好に整え直された。裏蓋から見える雄姿は、ブリッジのコート・ド・ジュネーブが浅く、高級機らしい控えめな美観が好ましい。機械的にも見た目の魅力を増した新型クロノグラフは、市場からも大歓迎されるだろう。

アンデルマットの会場で披露されたのは、今年の新作だけではなかった。近い将来製品化されるであろうプロトタイプも複数プレゼンテーションされた。それらが特徴とするのが、マルチカラーのセラミックや18金、蓄光材を混ぜ込んだ発光するフォージドカーボンといった新素材である。PG・YG・ロジウムメッキを施さない無垢のWGを融合させた新18金は、「ロイヤル オーク」のケースとブレスレット、さらにダイヤルにも使われて、ゴールドの迷彩模様と呼べるような不思議な外観を表していた。光るフォージドカーボンはジェムセッティングと組み合わせ、ダイヤモンドが光を透過して煌めく華やかさをまとっている。ムーブメントも組み込まれた、これらプロトタイプは、真の意味でオーデマ ピゲの新たな150年の始まりを象徴する。



問い合わせ先:オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000 https://www.audemarspiguet.com/ja
Text & Photo/Norio Takagi
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