100年近い歴史を持つチュチマ・グラスヒュッテは、その名の通りドイツ高級時計の名所グラスヒュッテを代表するブランドのひとつ。このような名門ブランドでインターナショナルセールスディレクターを務めるカルロ・バグマイヤーさんが新作を持って来日するというので、WATCHNAVI編集部は時計を拝見する場でインタビューを行った。かつては本格ミリタリーウオッチブランドとして名を馳せたチュチマが、いま見据えている未来とは。
2027年に創業100周年を迎えるドイツ・グラスヒュッテの名門から看板モデルの最新作が登場

チュチマとは、ラテン語で「安全な」という意味を持つtututsという形容詞に由来する。もともとは1927年にグラスヒュッテで作られるようになったTUTIMAの名を冠した時計をルーツに持ち、そこから大戦や機械式時計産業の危機など幾多の困難を乗り越え、1983年に正式に時計ブランドとなって現在に至る。
ドイツ時計らしい質実剛健なプロダクトは過酷な環境にも耐えるスペックを持つモデルが多く、実際に幅広いプロフェッショナルが愛用。一方、2013年にはマニュファクチュールムーブメントのキャリバー617の製造に成功し、搭載モデル「パトリア」を発表。それらはブランドの最高級ラインとして、いまなお世界各地の時計愛好家を虜にしている。さらに2017年の創業90周年に向け、完全自社一貫製造のフライバッククロノグラフムーブメントの開発にも着手。完成したキャリバー659は、雲上ブランドにも引けを取らないチュチマ流の高級手巻きクロノグラフとして、2017年当時のバーゼルワールドで大いに話題を呼んだ。
「チュチマは2027年で、創業100周年を迎えます。グラスヒュッテがいまのようにドイツ高級時計の聖地として知られる以前から、一度も歴史を閉ざすことなく独立した経営を続けている非常に珍しいブランドなんですよ。そのような背景もあって私自身、2018年に入社してからとても働きがいを感じています。このキャリバー659を搭載したTEMPOSTOPPは、とても気に入っている一本です。

かつてチュチマが1940年代に製造し、実際にドイツ空軍でも使われたUrofa(注:Uhren-Rohwerke-Fabrik Glashütte AG/ドイツムーブメント製造会社グラスヒュッテ)製キャリバー59搭載のフライバッククロノグラフをモチーフにした時計で、着け心地や操作感が本当に素晴らしい。日本の皆様にも実際に触れていただける機会があると良いのですが、残念なことに90本のみの限定製造なので、個人的にも再販を願っていますよ。ただ、同様のスタイルは『パトリア』でも体感していただけます。この『パトリア』に関してはモノブロックケースを採用していて、ムーブメントは文字盤側から格納します。チュチマの伝統的な時計製造技術に則ったもので、金属塊から削り出す贅沢な構造となっています。なお、従来はステンレススチールも使っていましたが、今後のチュチマはチタンを標準化していく方針です。理由は明白で、それが腕時計の素材としてステンレススチールよりも優れているからです。軽く、堅牢性があり、耐蝕性にも優れ、アレルギー耐性もありますからね」(カルロ・バグマイヤーさん)

モノブロックケースは、構造上、棒状の素材から加工するよりも切削する分量が増えるため形状が複雑になるほど成型する難易度も高くなる。一方で、一般的なロウ付けやビス留めのケース構造よりも格段に耐久性を高めることができる。ドレッシーな「パトリア」にも堅牢性を求めるのは、チュチマならではの流儀といえるだろう。

「新作ではライトブルーの文字盤を出しました。いまは多くのブランドも似たようなカラーを使っていますが、私たちはトレンドのカラーだから使ったわけではなく、いまのように多くのブランドが出す前から新色の開発を進めていて、ようやく製品化に辿り着いただけ。2針バージョンについても同様に、他社に追随するのではなく、あくまで自分たちの信念に基づいたプロダクトです。いまは情報に溢れていますし、多くのガジェットによってあらゆる通知が私たちに四六時中知らされる時代ですよね。だから、腕時計ぐらいは必要最低限の情報、すなわち時間と分だけを表示する時計があってもいいだろうと考えたんです。この文字盤はブラックラッカー仕上げでミニッツサークルを外し、アプライドインデックスのみとしました。針からは夜光をなくし、とてもシンプルにまとまった時計となっています。ちなみに、現行の『パトリア』のブランドロゴが通常とは異なることに気づきましたか? 以前は文字盤にTutimaという表記も入れていたのですが、それを改め、『T. GLASHÜTTE』としています。これは1927年の設立当初の表記に倣ったもので、当時はグラスヒュッテの時計と言えばチュチマだけだったので、T.の表記さえあればよかった。現在のロゴは、そういった歴史のシンボルでもあるのです」


チュチマはグラスヒュッテで設立したものの、一度、別の土地に本社を移転させている。再び帰還したのは2008年のこと。その節目を記念して開発がスタートしたのがマニュファクチュールムーブメントであり、それを搭載した「パトリア」だった。そうした背景もあって、ラテン語で「祖国」や「故郷」を意味するラテン語のモデル名が冠されているのだ。
チュチマの本質を突くコレクションからも新作と現在の時計市場への想い
「パトリアの話ばかりになっていますが、私たちは多彩なコレクションを展開しているのでそれらの新作もご紹介しましょう。まず『スカイ S 34』からゴールドトーンを加えたモデルを発表します。こちらは麻の葉模様を加えた立体的な文字盤と程よいサイズ感とともに、ジェンダーを問わずお楽しみいただけます。手首の細い人にはよく似合うモデルだと思いますよ。

それと、現代的なスタイリングのパイロットウオッチの『フリーガー』コレクションに加わった新しいサイズで『フリーガー T』のバリエーションとして直径38.5mmのチタニウムバージョンを作りました。そして、これが日本を含むグローバルでベストセラーとなっている『M2 セブンシーズ 40』の新色。『パトリア』のカラーと似ていますが、並べてみるとこちらの方がより明るい色彩となっています。このコレクションが好評を博している理由は、50気圧防水というスペックを誇りながら厚みを12.5mmにまで抑制し、さらにこなれた価格である点。これらの条件を揃えた時計は、ほかの独立したブランドには見当たらないと思います」(同)



こうして新作をひと通り紹介していただいたあと、カルロさんは現在の時計市場に対する個人的な思いを教えてくれた。
「昔はバカンスで旅行するときに自分の持っている時計や宝飾品をたくさん持って行って、旅先で着飾ることを楽しみにしている人が多かった。でも、いまはどうでしょう。高級時計を所有することに投機的な側面が生まれ、身に着けることによる価値の低下や犯罪などの危険回避から時計を使わずに仕舞い込む人までいるようです。たとえ時計を購入する人が増えたとしても、引き出しに眠ったままではあまりにもったいない。私たちは、これからも多くの人が自分が好きになった腕時計を気兼ねなく使っていただきたいと考えています」(同)
取材後記
カルロさんとのインタビューは終始笑顔の絶えない、和やかな雰囲気の中で行われた。時計一家で生まれ育ち、現職以前に別のブランドで要職を務めてきた彼が「ここでリタイアするまで続けたい」と惚れ込んだチュチマは、2027年に創業100周年を迎える。詳しくは明かせないが、その節目を祝すためのプロジェクトも進行しているのだということも教えてくれた。筆者がインタビュー前にイメージしていた本格ミリタリーウオッチブランドは、「パトリア」というマニュファクチュールの上位ラインの追加などにより、いっそう幅広い層に愛されるに相応しいブランドへと発展を遂げていた。

日本にチュチマを輸入している代理店のトラストゲイン社代表に話を聞くと、現在のチュチマは年産1万本程度の規模だという。同じグラスヒュッテという特別な土地に拠点を持つ他のブランドと比べれば決して少なくはないが、時計市場全体を見渡せばその数量は多いとは言い難い。長く展開の続いている日本での取扱店もまだまだ限定的である。だが、熱心な時計愛好家に親しまれている名古屋の時計店「時計・宝飾 ヒラノ」とコラボレーションウオッチを製作するなど、着実に時計愛好家から支持を受けているブランドであることは間違いない。これから来るべき100周年を超えてチュチマはどのような飛躍を遂げるのか。今後の展開が楽しみでならない。
問い合わせ先:トラストゲインジャパン TEL.03-6810-9305 https://www.tutima-japan.com ※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI) Photo/Katsunori Kishida (STUDIO CHRONO)
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