時間を知ることは生きていくうえでとても重要なことです。では、時間さえわかれば人は過酷な環境下でも生き抜いていくことができるのか? そんな疑問を、いかなる環境でも「正確な時間を報せる」ことを宿命づけられた時計にまつわる3つのエピソードとともに、ひもといていきます。【海編】
夜の海中ミッションに欠かせなかった秘密兵器
潜水作戦は、イタリア海軍が第一次世界大戦中に世界で初めて行ったとされます。そのときすでにパネライは軍への納入業者として、水深計やコンパスなどの高度な精密機器を納入していました。それら計器や装置の表示を暗い海中でも見えるように開発されたのが、ラジウムベースの夜光塗料「ラジオミール」です。
潜水作戦を得意とするイタリア海軍は、第二次世界大戦の勃発前の1935年から低速潜水艇S.L.C(Siluro aLenta Corsa)を開発していたといいます。これと時を同じくしてパネライも腕時計の開発に着手。試作機から約2年を経て1938年に完成した世界初の軍用ダイバーズウオッチには、革新の象徴としてラジオミールの名が与えられました。
ですが、こうした開発の過程や腕時計の詳細は長らく世に知られることはありませんでした。それは、潜水作戦が「相手に知られたら終わり」の隠密任務であり、装備品などの一切に至るすべてが軍事機密だったからです。
S.L.Cに乗るフロッグマンと操縦員の2名の任務は、光のない夜に水深10mの海中で行われます。操縦員が現在地を確認する術は、艇の潜行速度と経過時間で自らの位置を割り出し、コンパスで進路を見る他なかったでしょう。隊員はこのとき計器類を左手に、パネライウオッチを右手に着けており、これが左利きの人用にリューズを9時側に付けた「レフトハンド」の由来となっています。
さて、部隊で一斉に行う任務なら正確な時間にターゲットにたどり着かなければなりません。そして、いざ到着すると今度はフロッグマンが艇の弾頭部に装備された機雷を相手船体に固着させるわけですが、爆発する前に退避するには悠長に時間は掛けられません。
こうした一連の任務のなかで常に明るく時間を示すパネライの時計は、任務遂行の重要なツールであるだけでなく、隊員が生きて帰るための唯一の命綱でもあったのです。
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