来年のGWを思うと、筆者の心が浮き立つ理由――並木浩一の時計文化論

20 年以上スイス取材を続けている筆者も、初取材の時を思い出して、 心が浮き立っています

来年のSIHHは4月26日から29日の開催で決着しました。その翌日がバーゼルワールドの公式開幕日(29日がプレスデイ) で、5日までの開催。今年とはシーズンも変わり、しかも2大展示会が連続日程です。結果として日本の大型連休と、腕時計のゴールデンウィークが重なることになります。マスコミほか時計業界の方々は休みがなくなるわけで気の毒なのですが、読者の方もちょっと気になりませんか。今年と同じくSIHHの最終日が一般公開になれば、バーゼルと合わせて2つの展示会のハシゴも容易に可能ですので、 現地ツアーの予定を考えるにはうってつけのはずです。

バーゼルワールドとは別に、1月にジュネーブで開催された2019年SIHH会場。2020年は4月末開催となる

10 年以上前の話なのですが、 やはりGW時期に2大展示会が、バーゼル・ジュネーブの順番で開催されていた時期があります。 都市間移動を含む日程はハードでしたが、気分は最高でした。 というのもこの時期のスイスは暑からず寒からず、気候が絶好なのです。名物のホワイトアス パラガスが旬を迎え、街には花の香りが漂います。

ホテルの大混雑を避けて国境 を接するフランス側に宿を取れば、5月1日メーデーの祝日が "スズランの日"。この日だけは誰でもスズランの花を売っていいことになっており、子供からお年寄りまでが花束を手に街に立ちます。すべてが花開く春のフェアは、腕時計の収穫祭にもふさわしいと思うのですが、どうでしょう。スイスは州ごとに休日が異なりますが、バーゼル ・シュタット準州ではメーデー が祝日ですので、来年は土日へと繋がる三連休。賑やかなフェアへの期待が透けて見えます。

最近よく届く、会合やパーティ案内メールの見出しを借りれば、"SAVE THE DATE" =この日にちを空けておいてください、というところですね。 かつてはこうした前置き無しに、 "R.S.V.P."と添え書きした招待状が届くことが普通でした。この4文字は「ルスヴォワール ・シル・ヴ・プレ」の略で、お返事をください、という意味です。

時計関係だからなのではなく、外交・社交用語のフランス語が万国共通で使われているので、英語のレターでもこの表記です。招待を断るのは多分に心苦しいわけですが、先に電子メ ールで"セイヴ・ザ・デイト"を送られていると、予定も入れやすくなります。マナーが変わったわけですが、快い習慣です。

ちなみにSIHH、バーゼル ワールドともに5年間はほぼ同じ時期の開催らしく、腕時計ファンの心が騒ぐ時期も完全移行です。 20年以上スイス取材を続けている筆者も、一度はこの目で見ておきたい、という気持ちを果たした初取材の時を思い出して、心が浮き立っています。 ここまで書いたところで、意外な"セイヴ・ザ・デイト"がスイスから届きました。その件は、 回を改めて書こうと思います。

 

並木浩一
桐蔭横浜大学教授、博士(学術)、京都造形芸術大学大学院博士課程修了。著書『男はなぜ腕時計にこだわるのか』(講談社)、『腕時計一生もの』(光文社)、近著に『腕時計のこだわり』(ソフトバンク新書)がある。早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校・学習院さくらアカデミーでは、一般受講可能な時計の文化論講座を講義する

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