希少性のあまり、実物を目にすることも叶わない革新のタイムピースが時計界には存在します。夜の東京で5本の名作の表情を写しました。【パテック フィリップ ノーチラス編】
構成/ウオッチナビ編集部 文/小暮昌弘、水藤大輔(時計)
撮影/シバサキフミト スタイリング/石川英治(TRS)
老舗だからこそのチャレンジ
時代、流行を超越するような超モダンな存在感
ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)は東京を舞台にした秀作映画です。ハリウッドスター(ビル・マーレイ)と同じホテルに滞在した女性(スカーレット・ヨハンソン)が言葉も通じぬ東京で異邦人気分を味わうストーリー。映画では猥雑な歌舞伎町や渋谷の街が何度も登場しますが、映画を観て同じ場所を訪れる観光客も多いと聞きます。映画にも登場する渋谷スクランブル交差点は、一度の青信号で3000人もの人がいろいろな方向に横断する、世界でも類を見ない場所です。しかし我々にとってはごくごく見慣れた光景で、あえてレンズを向けようとは思いませんが、外国の人から見たら、カオスのように人工物と人間が交錯する渋谷という街の風景がウルトラモダン=超現代的に映るのでしょう。
時計好きならば誰もが憧れる「パテック フィリップ」は、ヴィクトリア女王やローマ教皇、アインシュタインなど、顧客を挙げればキリがないほどの名門です。1976年に登場 した「ノーチラス」は、それまでの「パテック フィリップ」のどのモデルとも異なるデザインで、どのモデルよりも大型のモデル。「カラトラバ」や「ゴンドーロ」といった流麗なモデルを思い描いていたファンからすれば、この時計はウルトラモダンに見えたに違いありません。
「ノーチラス」のデザインは、潜水艦ノーチラス号の舷窓をモチーフにしたもので、確かな防水性を備えながら、スポーツモデルは厚みがあるという常識を覆す程薄く設計されていました。それもある意味、掟破りなのですが、技術力の高さとブランドの思想を感じます。デザイナーは「時計界のピカソ」と称されたジェラルド・ジェンタです。
彼と「パテック フィリップ」に先見の明があったことは明らかで、発売以来、40年経ったいまでもブランドを代表するモデルとして君臨し続け、さらに進化を続けています。ライフスタイルがカジュアル化、スポーツ化した現代ならば、この腕時計を身に着ける場面は格段に拡がっています。時代がようやくこの時計に追いついたということなのでしょう。
問:パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109