腕時計の良し悪しを見極めるポイントには「ムーブメント」「ケース」「文字盤」が挙げられます。しかしそれらの製法がいま、かなり複雑化してきているのをご存知でしょうか。そこで、ブランドのあり方にも関わるこの“3要素”について、従来の常識と現状を深掘り! 初回はムーブメントから比較して見てみましょう。
2017年のムーブメント事情は?
ムーブメントの製造体制は、価格に大きな影響を及ぼします。かつては、独自性が強く高価なマニュファクチュールと、効率的で手頃なエタブリサージュのいずれかでしたが、いまは両方のラインを使い分ける、「第三の製造体制」を敷くブランドが増えています。さらに共同開発や相互供給という新潮流まで出現中です。
完全マニュファクチュール
自社で一貫して時計製造を行うスイス時計製造の伝統的体制
マニュファクチュールは、ムーブメントの開発・設計からパーツ成型、組み立て、検品までを自社で行う製造体制。あらゆる種類の設備が必要になるため、工房の規模も街のひと区画を占めるほど大きいです。
ブランド例:A.ランゲ&ゾーネ、ジャガー・ルクルト、ジラール・ペルゴ、ゼニス、パテック フィリップ、ロレックス
一部マニュファクチュール
製品ごとに体制を使い分けて時計の価格や個性をコントロール
上位価格帯の製品には自社製ムーブメントを搭載し、普及品にはベースムーブメントを使うという、2つの製造ラインを持つのが一部マニュファクチュール。この方式を採用するブランドが続出中です。
ブランド例:IWC、オメガ、タグ・ホイヤー、パネライ、ブライトリング、ユリス・ナルダン
エタブリサージュ
専門メーカーからベースムーブを仕入れて独自仕様に作り変える
スイスには、時計のパーツを専門に手がけるメーカーが数多くあります。そうした専門メーカーから仕入れたパーツを組み上げるのがエタブリサージュ。ベースムーブメントは、ETA社やセリタ社が主流です。
ブランド例:エドックス、エポス、ジン、フォルティス、ボール ウォッチ、ルイ・エラール
価格で見てみると、完全マニュファクチュール→一部マニュファクチュール→エタブリサージュの順に低くなっていきます。
【コレが新常識!】時計製造は手を取り合う時代へ突入
相互供給/自社ムーブメントを他社と供給し合うハイブリッド体制
今年はブライトリングとチュードルが、互いの自社ムーブを提供し合うと発表。このマニュファクチュール間の相互供給は、これから増えそうです。
共同開発/独創的なコンセプトをパートナーと共に具現化
ムーブメントの研究・開発を行う外部企業が、新興ブランドの理想を形にする体制。クロノードや、ルノー・エ・パピとHYTの関係が象徴的です。
ムーブメント事情まとめ
さまざまな種類の設備と人員が必要になるため、長い年月をかけて設備投資を続けてきたマニュファクチュールか、ムーブメントの製造に特化した専門メーカーでしか作れない、というのがムーブメントの常識だった従来。ですが、2006年のパネライを皮切りに、短期間で膨大な設備投資を行って自社ムーブメントを作り出すブランドが徐々に増加。もはや自社ムーブの開発は、各社の命題となったのです。
次回は、ケースの最新事情に迫っていきます。
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