創刊20周年の節目を迎えた2020年より本格始動したアニバーサリープロジェクト「オリジナルウオッチ制作」が、約2年の期間を経てついに完成した。新感覚のヴィンテージテイストに溢れた一本の詳細を解説。もし気に入った人がいれば、本稿最後の申し込みフォームよりご注文いただきたい。
TEXT /WATCHNAVI編集部 PHOTO/Masanori Yamaguchi, Katsunori Kishida, Yoshinori Eto
創刊20周年を記念した20本限定のレアピース
このプロジェクトは、そもそもコロナ禍で海外出張に行けなくなったことに端を発する。
2020年のはじめ、編集部には1940年代に軍用目的で大量製造された出自を持つアドルフ・シールド社製の手巻きキャリバーAS1203があった。「なぜこんなものが?」。仕入れたのは、編集長の水藤だった。本来であればバーゼル&ジュネーブの取材に充てるところだった製作費が浮いたのをいいことに彼が独断で買い付けたのである。ちなみに、AS1203は当初15石で製造されていたが、この限定ウオッチが搭載しているムーブメントは19石に改良して品質を向上させた1950年代製造ラインのものだという。もちろん私たちは、編集長の見切り発車からオリジナルウオッチの完成まで、まさか約2年にも及ぶことになろうとはこのとき知る由もなかった。
ケースはどうする? デザインは??
ムーブメントはあるが、それ以外がない。編集長が頼ったのは前年末に取材を行ったドイツのマスターウオッチメーカー、ディルク・ドルンブルートさんだった。D.ドルンブルート&ゾーンという自身のブランドでは直径31mmの手巻きモデルも展開し、また製品作りとは別に個人の趣味として昔の工作機械などを集めているというディルクさんに経緯を伝え「オリジナルウオッチ制作に協力してもらえないか」、という無謀な話を持ちかけたのである。結果、フルサポートは得られなかったものの、AS1203がぴたりと収まる直径34mmのドイツ製ケースの調達に成功。このことがウオッチナビオリジナルウオッチに、「KIRSCH」というドイツ語が与えられた背景にもなっている。
本来なら100万円超のタイムピースを展開するD.ドルンブルート&ゾーンのケースに使われていた可能性もある高品質なケースを入手し、次は文字盤のデザインである。これをWN編集部の独断で作ることは容易い。あるいは著名人と共同開発する道もあっただろう。だが、WATCHNAVIの20周年を支えてくれたのは他ならぬ読者のみなさまのご支援があればこそ。そこで、2020年2月発売号でオリジナルウオッチ制作に関わっていただける読者に呼びかけを行い、デザインを応募いただいた読者の中から5名を選抜したのだった。
だが、ここである問題が生じる。応募時点で5名それぞれがオリジナルデザインのアイデアを持っていたにも関わらず、編集部が想定していたのは1型のみ。5名のデザインを個別にタイムピースにしていくわけにはいかないので、それぞれの良さ、特徴を融合させる作業で混迷を極めることとなった。しかもコロナ禍の真っ只中につき打ち合わせはオンラインのみ。実際に顔を合わせることも叶わぬまま度重なるオンラインミーティングを重ね、デザインを固めていくことになる。編集部が救われたのは、5名が深く時計に知識があり、また愛情を持っていたこと。「アプライドインデックス」であることや、「普段使いできるヴィンテージテイスト」を共通認識とし、さらに日本発の時計専門誌であるWATCHNAVIというアイデンティティを投影した細部形状を詰めていく作業は、年を跨いで行われることとなった。
桜に着想を得た文字盤の意匠
最初に決まったのはアプライドインデックスの形状だった。ヴィンテージ感のあるくさび形を12、3、6、9に置き、それ以外を丸形に。その外周にはレイルウェイトラックを配置する、というアイデアを基本に、12時はハート型になるようくさび形を組み合わせてアクセントを効かせることとした。スモールセコンドある6時側については、くさび形を欠けさせるかドットにするかなど、さまざまな意見があがったが最終的にスモールセコンドを優先させることに。針についてもインデックスとの相性や、ドレスウオッチとしての佇まいを持たせたいという思惑からドフィーヌ針を採用。その幅や長さについては、厚すぎず、細すぎず、それでいて現代的なシャープさを持つサイズが決まるまで試行錯誤を繰り返した。
これらと同時進行でシルバーやブラック、ブルーなど文字盤カラーも進めていたのだが、最終的にヴィンテージ感のあるサーモンピンク系の色に落ち着いたのは、「インデックスのくさび形状をさくらの花びらに見立ててはどうか?」という提案がきっかけだった。ただ、仕上げについてはサンレイなどのヘアライン系、マット、ミラーなどこれも意見が分かれることに。これも、さくらのイメージに即したものに近づけるべく、サーモンピンク系ではあるものの強く色が出過ぎず、少し白さが生まれつつ柔らかみも出る“ゆず肌”調の仕上げに決定。レイルウェイトラックの色も主張の強いブラックではなく、あえて木の幹や枝に近い褐色/焦茶色とした。これに少し高さを持たせることで、一段下がった引き目入りのスモールセコンドともメリハリが効いた文字盤に仕上げることができた。
文字盤で最後に触れておくべきは、この時計に与えられた固有名詞「KIRSCH」だろう。先にも述べたが、KIRSCHはドイツ語である。これ単体ではドイツ産のさくらんぼ系ブランデーが有名だが、桜の花を意味するKirschblüteや桜の木を意味するKirschbaumではなく、あえてKIRSCHに留めることで余韻を持たせることとした。WATCHNAVIの文字を入れなかったのは、この時計がWATCHNAVIというブランドがこれから歩む歴史を超えてなお使い続けられることを念頭に、熟慮した結果である。
時計好きのために採算度外視の付属品を!
さて、文字盤、ケース、ムーブメントが決まり、残すはストラップと付属品。これは時計好きに喜ばれるものにしたい思いを持って編集部がメーカーと交渉を繰り返し、ブレスレットとレザーストラップの2本付属を実現。ブレスレットはいまや希少なライスブレスレットのデッドストック品(1990年代製)とし、ドイツ製ケースに合わせるべく限定20本のために無垢削り出しのエンドピースを特注。一方のレザーストラップもまた、時計の持つ「桜」の世界に合わせたカラーを編集部が選別させていただいた。もちろん尾錠付きだ。
はっきり言ってここまで手をかけたので、ほとんど売値=原価になってしまった。メーカーへの支払いを済ませたら編集部の手元には何も残らない。いや、正しくはオリジナルウオッチKIRSCHが残るだけだ。その事実がわかっていてもなお付属品として時計2本が収納できるボックスと、ストラップ交換に欠かせないバネ棒外しまで用意させていただいた。まさしく20周年を記念するに相応しい採算度外視の一本ゆえ、パッケージングなどは簡素となっている。これも、「外箱などにこだわるよりも時計本体や実用的な付属品にコストをかけたい」という、私たち編集部の強い希望の表れと感じ取っていただければ幸いである。
さて、このKIRSCHは税込22万円で、限定20本の製造となる。そのうち一本はすでに編集長が購入したため、残りは19本。購入を希望される方は、以下の申し込みフォームよりご注文いただきたい。
WATCHNAVIオリジナルウオッチ「KIRSCH」お申し込みフォーム
https://info.one-publishing.co.jp/form/pub/onepub_capa/kirsch
KIRSCH
製造企画元:株式会社ワン・パブリッシング WATCHNAVI編集部
販売代理店・アフターサービス:マインドアーチスツインターナショナル株式会社
KIRSCHはご購入日より2年間の保証が付きます
問い合わせ先:WATCHNAVI編集部
watchnavi@one-publishing.co.jp
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