【シリーズ】次の世代に繋げるためのACTION–海のために時計ブランドができること

腕時計は大切にするほど長く愛用できる一方、ひどい扱いをすればすぐに壊れてしまう。それは人間も、地球も同じこと。未来のために行動を起こした時計界の現状を、シリーズ[次の世代に繋げるためのACTION]としてレポートする。初回は、海洋環境についての現状と各社の取り組みをまとめた。

増え続ける海洋ゴミから地球を守るための活動

これまでに人間が残してきた負の遺産が、海には最も蓄積されている。そう言っても過言ではないほど状況は悪化の一途をたどるばかり。この海洋汚染の問題を受けて、時計ブランドは様々な海洋保全活動を行っている。

出展:The Pew Charitable Trusts (2020). Breaking the Plastic Wave.Figure 10: Land-based plastic leakage under different scenarios. をもとにWATCHNAVI 編集部が作成

海洋汚染は深刻度を増す一方だ。上のグラフは、最も端的に危機的な状況を示している。現在の国際的な取り決めに則って行動をしても、海洋プラスチックゴミは今後20年のうちに倍の3億トンに到達するという。それらをリサイクルしても増加は防げず、収集と処分を行なってようやく現状維持。減らすには、プラスチック依存のシステム自体を変えるしかない。

時計界では、プラスチックに依存していたブランドが、使用素材の置き換えに取り組み始めた。ブライトリングが世界の海洋で集められた漁網などのナイロン廃棄物を再生して作った素材ECONYL(R)ヤーンを使ったストラップの展開を2018年から開始。トム フォードはケースにアップサイクル素材であるオーシャンプラスチックを用いたN.002 オーシャンプラスチック スポーツを発表した。こうした時計外装におけるリサイクル素材の使用はさらに広がり、ユリス・ナルダンやモーリス・ラクロア他、複数のブランドからも登場。また、早くから環境問題に取り組んできたオリスは、文字盤に再生PETを使った個性的なダイバーズウオッチを手がけている。

魚網やナイロン廃棄物から生成されたECONYL(R)ヤーンで作られたブライトリングのストラップ
モーリス・ラクロアのアイコン #タイドはケースやベゼルなどにプラスチックごみを使用している
オリスのアクイス デイト アップサイクルは、海洋プラスチックを文字盤に加工している

トム フォードは、最も効果的な「システムを変える」ことにも挑んだ。薄膜プラスチック(いわゆるビニール袋)に変わる素材の開発コンペを、環境保護団体のロンリー・ホエールとともに立ち上げたのである。この〝トム フォード プラスチックイノベーション プライズ〞は、2022年4月に発表された最終選考で、カナダやケニア、インドなど各国から全8団体が選出された。各団体が今後行う1年にわたる素材試験のスポンサーを務めるのは、ナイキ。試験に際しては、ステラ マッカートニーやJ.クルーなどからの審査も受け、素材は2025年までに市場に投入される予定だ。

トム フォードは100%オーシャンプラスチック製の腕時計を作るだけでなく、薄膜プラスチック代替品の開発コンペも実施している

このように数々の時計ブランドが海洋環境に対する意識を高める中、どこよりも包括的に取り組んでいるブランドが、ブランパンだ。1953年にフィフティ ファゾムスを開発して以来、同社は重要なプロジェクトの支援、環境フォーラム、出版物の刊行といった多岐に及ぶ海洋保全・保護活動に携わってきた。それらを2014年に「ブランパン オーシャンコミットメント」の名で統合し、今も支援団体やパートナーシップの数は増加中。ブランパンが関わる活動により、海の生態系を正しく保護、利用していくために適切な規制をする「海洋保護区」は、470万㎢(出典:ブランパン オーシャンコミットメント専用サイト12/9掲出)まで拡大した。

シーラカンスを調査する「ゴンベッサ」プロジェクトの活動もブランパンがサポート

パネライもまた2020年からユネスコ政府間海洋学委員会とのパートナーシップを締結。世界100の大学を対象にした、世界規模のキャンペーン「パネライ海洋保全イニシアチブ」を実施している。同社は他にもアップサイクル素材の積極活用からボランティアの清掃活動まで、持続可能な社会の実現に向けて幅広く行動を起こしている。

提携大学の学生に「海洋リテラシー」の啓蒙活動を実施しているパネライ

現在、海には年間約1200万トンものプラスチックごみが流出しているという。世界には漂流ゴミが集まる5つの「ゴミベルト」と呼ばれる海域があり、最大となる太平洋ゴミベルトは日本の国土の4倍近くに及ぶそうだ。そのゴミの回収には途方もない金額がかかるだろう。果たしてその費用は誰が出すのか。綺麗ごとではなく、環境を良くして次の世代につなげる活動を続けるために、ビジネス的な側面は不可欠。回収から再利用、処分、仕組みの変更、啓蒙活動などできることは限りない。そのなかでも最も早く変えられるのが個人の意識。「みんなが変われば世界は変わる」だ。

Text/Daisuke Suito (WN)

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