【現地ルポ】時計の聖地、ラ・ショー・ド・フォンの工房に響き渡る卓抜技巧のソノリティ。ジラール・ペルゴの新作誕生の瞬間に立ち会う

<取材協力>
ジラール・ペルゴ(GIRARD-PERREGAUX)

ロレアートの誕生50周年を経て、さらに勢いを増す要注目ブランド「ジラール・ペルゴ」。スイス時計界きってのマニュファクチュールのウオッチメイキング最前線を知るべく、編集部は彼らが擁する2つの重要拠点を取材した。


↑ラ・ショー・ド・フォンのジラール・ペルゴ本社と同じ敷地内にある通称、GPヴィラにミュージアムを併設(写真手前)。歴史的なタイムピースの展示のほか、ストーリーテリングが行われる「イマーシブルーム」もある。


↑ミュージアムはこの建物内に存在する。奥の建物が製造拠点。

マスターウオッチメーカーが一人で手がける驚異のミニッツリピーター

工房を訪れると、最新グランド・コンプリケーションの組み立て工程を取材できた。そこでは静寂のなか、時を打つ音だけが空間に鳴り響いていた。

時計の街で継承されるジラール・ペルゴの伝統

ラ・ショー・ド・フォンにあるジラール・ペルゴの工房は、筆者がかねてより取材したいと切望していた場所だった。今年はついに念願が叶い、ウオッチズ&ワンダーズ会期中に訪れることができた。まず案内されたのはGPヴィラ。ブランドを再興したルイジ・マカルーソ氏も住んでいたことがあるという、歴史的建造物である。ここは、長年にわたりジラール・ペルゴで商品開発やマーケティングを担当してきたウィリー・シュヴァイツァー氏が館長を務める、ブランドのプライベートミュージアムを併設。創業者フランソワ・ボットから始まるブランドの歴史が語られる没入型の演出や、時計界の至宝『ラ・エスメラルダ』に始まる歴史的マスターピースなどの実機展示を鑑賞した。シュヴァイツァー氏からは、来年に没後150年を迎える創業一族フランソワ・ペルゴが、移住した日本での暮らしを伝える書簡が届いていたことなど、興味深いエピソードを教えていただいた。


「キャリバーGP9530」/総部品数475個のパーツの全貌をあらわにした驚愕ムーブメント。ゴールドブリッジに支えられたトゥールビヨンと、メカニズムの作動が文字盤側から鑑賞できるミニッツリピーターを搭載。磨きにくい295個の内角を含む1340か所の面取り部分はすべて手作業により研磨されている。毎時2万1600振動、約60時間パワーリザーブ。直径43.55mm。

 

ミュージアムツアーを終えた取材班は、いよいよ時計工房へと向かう。今回の目的はグランドコンプリケーションのアトリエだ。ここでは、「フライング ブリッジ ミニッツリピーター」の仮組みを行っている時計師の姿を見ることができた。話を聞くと、この時計でもっとも難しいのは、パーツの取り扱いだという。なにしろ、全パーツが露出した状態であるため、その緊張感たるや通常のムーブメントとは比較にならないそう。しかもトゥールビヨンとミニッツリピーターを備えた超絶モデル。それゆえ、組み上げることができるマスターウオッチメーカーはたったの2名だという。しかも、彼らは組み立て以降の全工程を担当。メンテナンスの際にも作り手が行う念の入れようだ。こうした責任を伴う作業を終えた証明として、ムーブメントの一部に時計師のイニシャルが刻まれたプレートをセットしている点に、マニュファクチュールとしての矜持が窺える。


↑トゥールビヨンを支えるブリッジを表と裏に設け、文字盤側3時と9時を貫くブリッジにより伝統を継承。デザインにも独創性が光る。

 

ミュージアムの展示を振り返れば、ジラール・ペルゴは〝ブリッジ〞のデザインを考案して以来、どこよりも早く〝ムーブメントを魅せる〞ことに着手してきたマニュファクチュールと言える。それまで時を刻むための構造体であったものに美観を持たせる手法において、ジラール・ペルゴほど長く研鑽を積んできたブランドはいないだろう。それはキャリバーGP9530の裏側を見ると、より説得力を増す。上下に複雑機構、左右に香箱とマイクロローターという、完全なるシンメトリー配置を成立させるのは並大抵のことではない。取材時に話を聞いたマネージングディレクターのマーク・ミシェル=アマドリー氏は、「ジラール・ペルゴはオートオルロジュリー(高級時計製造)の純粋主義者である」と語っていた。静寂に包まれた工房のなか、マスターウオッチメーカーがテストするミニッツリピーターの音色に耳を傾けながら、筆者は235年以上におよぶマニュファクチュールの歴史の重さに思いを馳せていた。

 

オートオルロジュリーの真髄を宿す驚愕作


↑ジラール・ペルゴ「フライング ブリッジ ミニッツリピーター」 Ref.99840-52-2013-5CC 8739万8300円
組み立てと装飾に約440時間も要する複雑時計。アロー型のハンマーがゴングを鳴らすミニッツリピーターと、ゴールドブリッジに支えられたトゥールビヨンを備えたフルスケルトン仕様はまさに圧巻。自動巻き。18Kピンクゴールドケース。直径46mm。厚さ17.9mm。30m防水。


↑「SWISS MADE 」などの刻印がある下層のプレートには、時計師のイニシャルが刻まれている。

 

ドンツェ・カドランで砕き、焼き、磨く音のハーモニーに包まれる

もう一つの取材先はエナメルダイアルの名窯、ドンツェだ。さまざまな音が響く工房にて、新作誕生の瞬間を目撃した。

エナメルダイアルの取材でクラフツマンシップを体感

今回の工房取材では、ル・ロックルにあるドンツェ・カドランにも足を運んだ。ジラール・ペルゴと同じソーウインドグループに属す文字盤専業メーカーで、エナメル職人のフランシス・ドンツェが創業した1972年からの歴史を持つ。なお、カドランとは、仏語で文字盤・ダイアルを意味する言葉のため以降はドンツェと記す。


↑自然光が差し込むアトリエで文字盤を製作。用途に応じたオーブンがいくつも同じ部屋にある。左側の人が釉薬を塗っており、右側の人が仕上がりをチェックしていた。

 

アトリエに入ると、入り口手前左から時計回りにクロワゾネ(有線七宝)などを行うメティエダールの職人、グラン・フーエナメル職人、カラーエナメル職人の作業台があった。印象的だったのは、グラン・フーエナメル職人が発する作業音。〝コンコンコンコン…〞と白い釉薬を文字盤に落とす音が聞こえたあと、オーブンが開く際のわずかな軋み、そして文字盤が投入された直後の〝ボッ〞という大きな炎を伴う燃焼音。なお、ほかのエナメル焼成時には炎が上がることはなく、極めて静かだった。


↑ガラス質の原料を、液体を加えながら粉砕。乳鉢と乳棒を使い、ミクロン単位の粉末になるまで細かくしていく。素材がこすれる音の変化を聞き分けるには長年の経験が必要だ。

 

エナメルをまとった文字盤は砥石を使って〝ショリショリ…〞と音を立てながら研磨され、平滑になった表面をさらに透明や色の塗りを重ねて焼き、研磨していく工程を繰り返すことで、独特の奥行き感を生み出していく。この工程は、彼らが得意とするクロワゾネなどでは、より高度な技術力と緻密な作業が続くため、1枚の文字盤を仕上げるために最低でも数日は要するそうだ。


↑ラ・エスメラルダ トゥールビヨン“シークレット”は、ケースにもエナメル細工を施す。湾曲した形状や文字盤の絶妙なグラデーション表現も、ドンツェなら実現可能となる。

 

カラーエナメルの取材時に作業されていたのは、今年の新作「ロレアート フィフティ 39MM」。しっかりした高低のあるクル・ド・パリ文字盤に合わせたエナメルを施すことができるのは、やはりスペシャリストの技術が不可欠なのだろう。仕上がったばかりの文字盤を眺めながら、その背景にあるドンツェの職人技に改めて敬意を抱かざるには得なかった。

 

現代技術で甦ったスイス時計界の至宝


↑ジラール・ペルゴ「ラ・エスメラルダ トゥールビヨン“シークレット” エタニティ・エディション」 Ref.99274-52-000-BA6A 6911万3000円
今回、作業工程を取材したエナメルモデルのブルー版。アローと馬が組み合わさったリズミカルな文字盤を、緻密な彫金とエナメル装飾が盛り上げる。モデル名の“シークレット”は、ハンターケースに由来。自動巻き。18Kピンクゴールドケース。直径43mm。厚さ15.1mm。30m防水。


↑時計を裏返すと見られる、馬がかけるブルーエナメル仕上げのシークレットカバー。開けると、美しく仕上げられたキャリバーGP09600が鑑賞できる。

 

最新ロレアートの制作現場に遭遇!

職人が極細の筆を使い、「ロレアート フィフティ39MM」の文字盤に釉薬を塗る作業(下写真)。独自のレシピに基づく配合や、焼成の温度と時間で文字盤に釉薬を塗っては焼き、研磨してという工程を5回ほど繰り返す。



↑クル・ド・パリが刻まれたダイアルのベースにブルーエナメルを施し、インデックスを取り付けて完成。確かに1枚ずつ手作業で作られていた。

 

クル・ド・パリ装飾の新境地を開拓

(左)ジラール・ペルゴ「ロレアート フィフティ39MM」 Ref.81008-11-3627-1CM 322万3000円
18Kソリッドゴールドのクル・ド・パリ文字盤が腕元に高貴な輝きをもたらす一本。湾曲した面取りが印象的な8角形ベゼルを備え、キャリバーGP4800を搭載する“フィフティ”仕様だ。自動巻き。ステンレススチールケース。直径39mm。厚さ9.8mm。150m防水。

(右)ジラール・ペルゴ「ロレアート フィフティ39MM」 Ref.81008-11-3530-1CM 343万2000円
クル・ド・パリ文字盤にエナメルを施した、ロレアートで初の試みとなる一本。アプライドインデックスや針の多面設計との相性も良く、独特の奥行き感を作り出している。自動巻き。ステンレススチールケース。直径39mm。厚さ10.2mm。150m防水。

 

グラン・フーエナメルの製法

盤面に特別な液体を塗った後、木の棒で容器を叩きながら白い粉末状の釉薬をふるい落とす。5枚を一度に800度以上のオーブンへ投入。直後に上がる炎が「グラン・フー」の由来だ。約2分で一度状態を確認し、さらに30秒ほどを経て焼き上がりとなっていた。

 

問い合わせ先:ソーウインド ジャパン TEL.03-5211-1791 https://www.girard-perregaux.com/ja-jp

※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。

Text/水藤大輔(WATCHNAVI編集部) Photo/嶋田敦之

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