アルベール・ペラトン(1898年-1976年)はスイス西部に生まれ、若くして時計師を志し、ヴァシュロン・コンスタンタンなどを経た1944年、IWCの技術責任者として本拠地のシャフハウゼンへと赴いた。後に“IWCの頭脳”と称えられるクルト・クラウスに、技術を叩き込んだ上司でもあった時計界の偉人である。
現行ムーブメントにも採用されている独自の両方向巻き上げシステムを開発
ペラトンが技術責任者として在籍していたとき、IWCは間違いなく創業から何度目かの黄金時代を迎えていた。就任2年目にはセンターセコンド式の高精度ムーブメント、Cal.89を開発。これは出車を使用しないIWC初の本格的な中3針ムーブメントで、薄型が嫌いだったペラトンの設計らしい、頑丈な作りが当時高く評価された。
1950年にはIWC初の自動巻き機構を搭載するCal.85を開発。両方向による優れた巻き上げ効率を誇る同機構は絶賛され、後に彼の名を冠してペラトン自動巻き上げ機構となり、現行ムーブメントにも採用されている。
完璧主義者だったペラトンは1966年にIWCを退職するまで、満足できないプロトタイプはライン川に投げ捨て、最初からやり直していたという。時計に対する妥協なき情熱が、後世にも継がれる傑作機構を生み出したといえる。