時計専門誌「WATCHNAVI」は、3月に小田急百貨店 新宿店本館5階=時計売場で開かれるワールドウォッチフェアにコンテンツ提供を行っている。本コラムは、このショップを通じて百貨店の時計売場の魅力を伝えていくのが目的だ。2回目のテーマは「クオーツ時計の選び方」。今回も時計フロアを担当する佐藤さんに案内してもらった。→第1回「百貨店の時計売場の歩き方」
Text/Daisuke Suito(WN) Photo/Katsunori Kishida
電池で動く腕時計=クオーツ式
でも、その種類はさまざまにある!
腕時計選びで意外と悩むのが、機械式にするか、クオーツ式にするかという選択。「本格的な高級時計」というと、ゼンマイで動く機械式を思い浮かべる人も多いかもしれない。だが、実際は歴史あるブランドがクオーツ式時計を豊富に展開中だ。
クオーツ式は、機械式時計に搭載される付加機能はもちろんデジタルならではの機能まで多彩に揃い、デザインやサイズも幅広い。なおかつ機械式より価格面でも魅力的で、実生活で使ううえではかなりメリットが多い。さらに機械式と決定的に異なるのが、精度だ。
時計の正確さを示すには一定期間にどれだけの誤差が生じるか、という「精度」がスペックとして明記される。この値について、機械式時計が日差+15〜−10秒などと記されるのに対し、クオーツ式時計は同様の誤差が月差、つまり1か月単位での表示となる。これなら1日のうちではほとんど誤差を体感することはないだろう。
加えて、ソーラー発電、電波時計、Bluetooth対応などの性能バリエーションも多い。このあたりの違いを、売場の時計を用いながら佐藤さんに説明してもらった。
スイスの名門ロンジンはクオーツ時計でも技術力を発揮!
最初に訪れたのは、ロンジンコーナー。ここでは常時200本程度のラインナップを観ることができるという。ほとんどすべてのコレクションがあるので、まさしく時計の本場スイスの伝統を知るにはもってこいの場所だ。このブランドを訪れたのは、今回の目的であるクオーツ式時計選びにおいて、とてもユニークなモデルがあるからだ。
「ロンジンのコーナーでは、全ラインナップの約3割程度がクオーツ式時計となっています。一般的には日本の技術として1970年代から広まっていますが、実はスイスでも1960年代よりクオーツ式腕時計の開発が行われていて、ロンジンはその開発の急先鋒だったのです。そうした歴史的背景もあって作られたのが、このコンクエスト V.H.P.。Very High Precision、超高精度と呼ばれるこの技術は1984年の発表当時に精度記録を塗り替えた名作の系譜を受け継いでおり、年差±5秒で時を刻みます。また、衝撃が加わったときや磁場にさらされたときは、ギアポジション探知システムを使って時刻を自動的に補正できるようになっているので、コンクエストのアクティブなデザインにも非常にマッチしているといえますね」
「さらにこのV.H.P.を進化させたのが、『フラッシュセッティング』と呼ばれる機能を搭載したGMTモデルです。この時計は、スマートフォンのアプリ上でワールドタイム設定を行ったあと、モールス信号に基づくフラッシュの明滅を時計に当てると時分針が自動的に設定時刻に切り替わるというもの。とても面白いので、ぜひ店頭で私たちのデモンストレーションを見てほしいですね。もちろんGMTも年差精度ですし、パーペチュアルカレンダーを搭載しているのでカレンダー調整も不要。電池切れの予告は3か月前から秒針の動き方が変わるので、余裕を持って電池交換のスケジュールを組むことができます」
とにかく手間要らずのV.H.P.は、カレンダーをもし1日進めてしまうとプログラムを元に戻すために正規メンテナンスが必要になるという点だけ注意が必要だ。もっとも、そのような場面が訪れることは皆無だろう。
日本のクオーツ式時計は独自性の追求へ
シチズンはサイズと精度で未曾有の領域に突入
ロンジンのような一部の舶来品では高性能クオーツ式時計があるものの、やはりこの分野では日本のブランドが秀でている。ということで、次はシチズン、セイコー、カシオの3社が、それぞれに独自の技術力を生かして開発したハイテクモデルを順に見せてもらった。
「クオーツ式時計の極限を追求しているのが、シチズンです。その代表作となる2つの時計がエコ・ドライブ ワンと、年差±1秒というザ・シチズンの超高精度モデル。前者は、ムーブメントの厚さがわずか1mm。ケース全体でも2.98mm厚という極限の薄さを実現しています。驚くほどのサイズ感なのでほとんど着けている感覚はありませんし、時分針も液晶画面に映し出されているように文字盤と接近しています。これだけのサイズ感をもし機械式時計で作ろうとしたら1000万円以上はかかるでしょうから、エコ・ドライブ ワンはまさしくオンリーワンの一本といえます」
「そして同じくオンリーワンの時計が、年差±1秒を達成したザ・シチズンの新たな代表作。1年で1秒の誤差が生じるかどうかという、超高精度を誇る腕時計です。文字盤に記された1秒刻みの目盛りに寸分違わず秒針がステップ運針する様子は、きっと几帳面な人であるほど感動すると思いますね。こちらも光発電エコ・ドライブ駆動。時計内部に蓄えた電力によって、厳選された水晶に電圧をかけたり、精密なギアや真鍮製の針をズレなく動かしたりして、年差±1秒精度を実現させているのです」
★売場の見どころ★
シチズンのコーナーにはカスタマイズのコーナーも!
シチズンが一部店舗で実施している人気モデルのカスタムメイドサービス「FTS」のパーツサンプルを売場に常設。オンラインで注文できるものだが、小田急百貨店では実際の色味や質感を確認することができる。さらにいまなら同社のチタン技術50周年を記念した特別限定モデル「サテライトウェーブ GPS F950」(55万円/Ref.CC4025-82E)まで揃う
カシオはBluetooth連携でハイテクを追求
ロンジンはスマートフォンから光信号を受けて時刻を修正を行うという技術を編み出した。一方、カシオの技術「カシオ コネクテッド」では、Bluetoothテクノロジーとの親和性を高め、携帯電話との相互通信することで時計としての利便性を飛躍的に高めたという。
「たとえば、この世界限定500本のオシアナスではモバイルリンク機能によって1日4回の自動時刻修正やワールドタイム設定、アラーム設定などが簡単に行えます。さらに時計のステータス表示や携帯電話探索なども備え、今後サマータイムの導入・廃止や新たな時差情報が追加された場合でも世界中のタイムサーバーからの情報を基に内部プログラムをアップデートする機能まで有しています。これらはすべてソーラー発電でまかなわれ、フル充電から約5か月間は動き続けることができるバッテリー持ちがあるので、安心してご使用頂けます。日本2局と中国、アメリカ、イギリス、ドイツの世界6局で発信される標準電波受信にも対応するハイブリッド仕様というのも、カシオ独自の技術です。
GPSソーラーウオッチのパイオニアはセイコー
日本の腕時計の最先端技術のひとつが、GPSソーラーウオッチ。これは、誤差10万年に1秒という超高精度で制御されている原子時計が組み込まれたGPS衛星から正確な時刻と現在置の情報を得て、世界中のあらゆるところで正確な現地時刻を示すことのできる腕時計だ。この分野の先駆者こそセイコーであり、その革新性から1969年に同社が腕時計業界を一変させた、世界初の量産型クオーツ式腕時計と同じ「アストロン」の名を冠することになった。
「人工衛星から時刻情報を受信する腕時計はそれ以前からありましたが、2012年にセイコーが発表したのはソーラー発電でGPS衛星からの時刻と位置の情報を受信するという技術でした。はるか上空にあるGPS衛星の電波を腕時計が受信するにはかなりの電力を必要とするそうですが、これを世界で初めて実現させたのがセイコーでした。ここから国産3社はGPSソーラーウオッチの開発競争の時代に突入し、受信速度やアンテナの小型化などで技術を高め合ってきましたが、いまはパイオニアであるセイコーの独壇場となりつつありますね。実際、当初からアンテナが小型化されて女性向けのモデルも出ていますし、針の調整の動きもスピーディ。10年経たず、かなり進化しています」
だが、実際に売れる理由を尋ねると、佐藤さんから興味深い答えが返ってきた。
「セイコー アストロンをお求めになるお客様は、『セイコーの時計が欲しいけれど、大きなものを探していた』という方がけっこう多いのです。実際ほかは40mm前後のものが多いので、自然とセイコー アストロンにたどり着くようです。スペックはもちろん重要ですが、やはり誰だって最初に気になるのは自分にしっくりくるデザインかどうか、という点ですよね。もっとよく時計のことを知りたいと思われたときには、私たちスタッフがご説明やご提案いたしますので、まずは見た目で判断いただいて大丈夫ですよ」
★売場の見どころ★
セイコーのコーナーでは金色のクッションに注目
とくに小田急百貨店 新宿店本館5階=時計売場は、ブランドもラインナップも普段使いに適した腕時計が多く揃っている。それは機械式時計もさることながら、クオーツ式時計も同様だ。気になった時計について自分で調べるのも楽しいけれど、わからないことは直接プロに聞いてしまうのが近道。とくにクオーツ式は種類が多彩で、多機能モデルなら操作も一度レクチャーを受けた方が理解が早い。
筆者としては、好みのデザインの時計を見つけたら、扱い方や操作方法だけでなく、そのデザインにたどり着いた理由もスタッフの方に尋ねてほしいと思っている。あなたが巡り合ったその一本は、その背景まで知ることで愛着が湧いて購入体験が忘れられない思い出になるし、その後も大切に使うようになるものなのだ。