ワールド・オーシャン・サミットのために来日した海洋研究家・水中写真家のローラン・バレスタ氏に聞く「海の現状」と「ダイバーズウオッチ」

3月12日、13日にANAインターコンチネンタルホテル東京にて、エコノミスト・インパクトが「第12回ワールド・オーシャン・サミット」を実施した。このサミットの立ち上げからサポートを続けている時計ブランド、ブランパンの協力を得てWATCHNAVI編集部は本イベントを取材。初日の最後に登壇した海洋研究家・水中写真家のローラン・バレスタ氏には後日、インタビューも実施した。果たしてバレスタ氏から見た世界の海の現状とは。

深海に広がる神秘の世界に挑み続けるバレスタ氏

ワールド・オーシャン・サミットの模様。スクリーンを見つめるローラン・バレスタ氏とブランパン副社長アレクシオス・キツォポウロス氏

ワールド・オーシャン・サミットは、持続可能な海洋資源の存続を実現することで世界の水産業を活性化させ経済成長を遂げ続けるために2012年にエコノミスト・グループによって設立され、その創設パートナーとしてブランパンは支援を続けている。2025年は日本で開催され、海洋コミュニティに関わる企業、金融、政府、国内外の政策担当者、市民社会、学会など幅広い分野の人々が参加。持続可能な海洋経済の発展に向けて行動を喚起し、NGO、科学者、技術開発者、投資家などの境界を超えた連携を促すものだ。

サミットの会場では海洋の保全や産業などについて、さまざまなテーマで議論や意見交換、講演が行われていたほか、海洋関連の企業や団体が展示コーナーを設置。時計ブランドでは唯一ブランパンだけが2014年に創設してから精力的に活動を続けている「ブランパン・オーシャン・コミットメント」の現状をパネル展示していた。中でも目を引いたのが、ブランパンが関係している海洋保護区の面積が470万㎢にまで広がっていたこと。筆者が2022年5月に原稿を執筆した際は約430万㎢だったことから、取り組みの着実な拡がりを実感した。なお、ブランパンとエコノミストは「ビヨンド・ザ・サーフェス」プログラムでも協力関係にある。このプログラムは2024年の第11回サミットで開始され、両組織は今年もこのプログラムの継続を発表。世界中の海洋保護区(MPA)の効果を評価するスコアカードを作成することを目指すという。これによりMPAの設計、実施、結果に関する包括的な洞察が提供されるとのことだ(詳細情報は、ビヨンド・ザ・サーフェスのウェブサイトで確認できる)。

ワールド・オーシャン・サミットの壇上でスピーチするローラン・バレスタ氏

取材を行ったサミットの初日最後のプログラムとして登壇したのは、海洋研究家・水中写真家のローラン・バレスタ氏。スピーチでは、これまでの自身の研究成果や、深海を探検するために必要な潜水技術と設備、海洋生物が見せる捕食や性交などの興味深い生態の瞬間を撮影するためにどれほどの苦労や危険を伴うかなどが約20分にわたり語られた。その後はバレスタ氏とともに来日したブランパン副社長アレクシオス・キツォポウロス氏も登壇。ブランパンのCEO自身がダイバーでありダイビングウオッチの開発に情熱を傾けていること、ローラン・バレスタ氏のゴンベッサ(=シーラカンス)・プロジェクトをはじめとするさまざまな研究や取り組みを行っていることなどが紹介された。

「タマタロア」ミッションの進捗と新作ウオッチの意義

最新コンセプトになったブランパン ブティック 銀座でのローラン・バレスタ氏

筆者はサミットの取材を終えたローラン・バレスタ氏に改めてインタビューを申し込んだ。インタビュアーは2023年にランギロア環礁でブランパンが行った「フィフティ ファゾムス70周年記念 Act2 テック ゴンベッサ」の発表イベントに、アジア圏のメディアで唯一参加したGetNavi編集長の小林利行が担当。場所は、リニューアルオープンしたばかりのブランパン ブティック 銀座となった。

小林:バレスタさんとは約2年ぶりの対面となります。当時、フランス領ポリネシアのランギロア環礁の「タマタロア」ミッションでヒラシュモクザメの生態について調査を進めていましたよね。あれからどのような成果がありましたか?

バレスタ氏:ミッション自体は現在も継続中で一部のチームが現地に滞在して3月末まで調査を続け、また年末から3月まで調査を再開。その活動をもって5年間にわたるミッションが終了します。

小林:2年前には「フィフティ ファゾムス70周年記念 Act2 テック ゴンベッサ」の発表もありました。あの時計の使い心地を改めて聞かせてください。

バレスタ氏:試作機を1年間使っていたので実際には3年使っていることになりますが、本当に信頼に足る一本でいつも愛用しています。とくに浮上する際が有益で、コンピューターで示される減圧時間は数値が変動することがあるため、テック ゴンベッサの回転ベゼルで設定した時間と見比べながら浮上までの適切な時間を管理しています。また、そうした電力に頼る装置が万が一ダウンしてしまった場合、テック ゴンベッサだけが私の生命を守る命綱となるので不可欠な装備品ともいえます。

小林:深海での長時間潜水にはまさしく欠かせない相棒となっているわけですね。以前のインタビューでは、ブランパンの社長兼CEOであるマーク A.ハイエック氏とさまざまなプロジェクトを進めているというお話を聞きました。今はどのようなプロジェクトを進めているのでしょうか?

バレスタ氏:たくさんありすぎて何から話せば良いのか……すぐにでもお伝えしたいアイデアがたくさんあるのですが、私の口からは言えません(笑)。

小林:では、来るべき発表の日を楽しみにしています(笑)! ちなみに、今回の来日ではダイビングの機会はないかもしれませんが、パンデミック後から最近まででどこかアジアの海を潜られましたか?

バレスタ氏:昨年はフィリピンの海に行きました。フィリピンには約1800の島があり、その中には観光などで世界的に知られた島もありますよね。私が訪れたのは個人所有のパンガタラン島というところでした。そこはかつてとても海洋汚染が進んでいた場所で、オーバーフィッシングなどにより生態系が乱れていたのです。ただ、数年前に現在のオーナーが政府の了解を得てMPA(A marine protected area=海洋保護区)に指定して以降、かなりのスピードで生態系が回復していて、今ではとても魅力的な海になりつつあります。その事実を私からブランパンに伝えたところ、現在はブランパンからもサポートを得るエリアとなりました。パンガタラン島が興味深いのはHorseshoe Crabの生息地域でもあるからです。Horseshoe Crabは、日本だとサムライのヘルメットをイメージして「カブトガニ」と呼ばれているそうですね。

The Golden Horseshoe Crab – Wildlife Photographer of the Year 2023 Grand Title Winner (c) Laurent Ballesta

あの生物を見ると、私がブランパンとパートナーシップを結ぶきっかけになったシーラカンスを思い出します。どちらも太古の昔からの姿を留めているのですから。ただ、Horseshoe Crabについては医療の分野で乱獲が続いています。彼らの持つ「青い血」がワクチンの開発に欠かせないものとされており、アメリカの東海岸では数万規模の群れを見ることができる一方、毎年何万もの個体が「青い血」の搾取の犠牲になっています。私はこうしたHorseshoe Crabを取り巻く現状を非常に危惧しており、ブランパンと共同で研究設備を建設するなど問題解決に向けたさまざまな取り組みを行なっています。

小林:それらの取り組みは、あなたがいま着用しているフィフティ ファゾムスの新作とも関係があるんですよね?

バレスタ氏:その通りです。この時計(フィフティ ファゾムス テック BOC IV)は、世界限定100本のみ作られる時計で、1本ごとに1000ユーロが「ブランパン × スルバーイ マリン リサーチ センター」(ブランパンによる海のコンサベーションの取り組みの主要なイニシアチブ、シーアカデミープロジェクトの拡張機関)に寄付されることとなっています。

取材中にローラン・バレスタ氏が着用していたのは、テック ゴンベッサのケースデザインをベースに直径45mmで再デザインされた世界限定100本の「フィフティ ファゾムス テック BOC IV」のプロトタイプ。

小林:あなたのライフワークともいうべきシーラカンスの生態調査については、今後どのような活動を行われる予定ですか?

バレスタ氏:私の友達のうちの2人が、最近になって南アフリカと南インドネシアという異なる地域でシーラカンスの新たな生息地を見つけたので、私も来年あたりに調査に参加したいと考えています。

小林:最後に、今回のワールド・オーシャン・サミットと、ご自身が話されたスピーチについて、反響や感想を教えてください。

バレスタ氏:今回のサミットは、数か月後に行われるフランス・ニースでの国連海洋会議の前段階として、とても重要なイベントになったと思います。この後に控えている国連海洋会議では、2030年までに世界の海洋の30%を保護するという数値目標が制定される予定です。参加各国が条項にサインをすれば、世界の30%の海洋を保護するための具体的な取り組みが行われていくでしょうから、とても期待しています。

それと個人的な感想でいえば、昨年に行ったさまざまな活動に参加してくれた人々と再会できたことが嬉しかったです。スピーチのあとに私の活動の援助を申し出ていただくなどの新たな出会いもありました。あらゆる面で、とても有意義なイベントだったと思いますね。

インタビューを行ったブランパン ブティック 銀座(東京都中央区銀座7-9-18 ニコラス・G・ハイエック センター4F)。最新コンセプトにリニューアルしたばかりで、写真の中央にある桜のオブジェは世界でもこのブティックだけの仕様という

取材後記

ブランパン副社長アレクシオス・キツォポウロス氏は、ワールド・オーシャン・サミットの壇上で「海洋への資金は限られており、適切に使われる必要があります」「ブランパンはMPAの創設に強く焦点を当てており、支援するプロジェクトを正しく選択するためのツールを開発したいと考えました」と、海洋プロジェクトの効率的な資金提供の重要性について聴衆に語っていた。

プレス向けのブティックリニューアルのイベントでスピーチをするブランパン副社長アレクシオス・キツォポウロス氏

ワールド・オーシャン・サミット取材とブランパン ブティック 銀座でのインタビューを終え、筆者は改めて自問自答する。日本は1万4000を超える島々と約3万4000Kmの海岸線があり、広大な排他的経済水域(EEZ)を有する世界6位の海洋国家だ。そして、世界銀行が“海洋生態系の健全性を維持しながら、経済成長、生計の向上、雇用のために海洋資源を持続的に利用すること”と定義した「ブルーエコノミー」においては、2030年には国内市場規模が2030年に28兆円に達するとの予想(2022年モニター デロイトによる試算)もある。

美しい環境と生態系を未来に残しながら日々の食卓にならぶ海の幸をこれからも美味しくいただくために、果たして今を生きる自分はどのようなアクションができるのだろうか。ローラン・バレスタ氏は、仲間とともに命懸けで海中を探検し、そこでみた深海の世界について写真を通じて私たちに見せてくれている。

たとえ自分に同じような取り組みができずとも、バレスタ氏の写真のようなさまざまな情報を通じて海洋の現状を「知る」ことはできる。同じように多くの人が現状を「知る」ようになれば、それだけでも変革の大きな一歩となるだろう。まずは2030年までの近い将来を見据え、世界がより良く変わるような大きなうねりが発生することに期待したい。

ブランパン「フィフティ ファゾムス テック BOC IV」 Ref.5029A-12B30-64A 316万8000円
スペック:自動巻き(自社製Cal.1315A)、毎時2万8800振動、120時間パワーリザーブ。グレード23チタンケース(シースルーバック)、ラバーストラップ、球面サファイアクリスタル風防、サファイアクリスタルベゼル(セラミックインレイ)。直径45mm、厚さ14.10mm。30気圧防水。※Pelicase™のケース、寄付証明書、および時計のシリアル番号に対応する特別な100枚の写真(写真家ローラン・バレスタ氏によって署名された写真で、2023年のワイルドライフ フォトグラファー オブ ザ イヤーのグランプリを受賞したシリーズの一部であり、シャークフィン湾のパンガタラン島周辺の自然環境に生息するカブトガニを撮影したもの)が付属する。また、この時計の購入者はブランパンの取り組みに貢献し、海洋保護に情熱を持つ人々のサークルであるブランパン オーシャン コミットメント サークルのメンバーになるための特別な招待を受け取ることができる。

問い合わせ先:ブランパン ブティック 銀座 TEL.03-6254-7233 https://www.blancpain.com/ja ※限定モデルは完売の可能性があります。

Text/Daisuke Suito(WATCHNAVI)

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