腕時計の世界最薄記録ホルダーの「ThinKing」は、2024年のジュネーブ・ウォッチ・デイズにて世界の時計関係者/愛好家に披露された一本だ。この話題作が日新堂 銀座本店にやってくるということで、筆者は5月初旬に店頭へ足を運び、ジュネーブ振りとなる実機を改めてチェック。今後の展望を含め、ブランドのキーマンに話を聞いた。
驚愕のコンセプトウオッチは50万8000スイスフランで落札
ビッグメゾンが薄型腕時計の開発を競うなか、突如舞い込んだコンスタンチン・チャイキンの「ThinKing」のプロトタイプ発表は、手がけたブランドの意外性を伴って絶大なインパクトを放っていた。筆者は、昨夏に行われたジュネーブ・ウォッチ・デイズで実機を見たときに覚えた、「私はいったい何を見ているのか?」という衝撃が今も忘らない。しかも、その時計は特別なアウターケース「PalanKing」を追加することで自動巻きウオッチにメタモルフォーズするというサプライズまで用意されていたのだから椅子から転げ落ちそうになった。
この途方もない設計を考えついた人物は、コンスタンチン・チャイキン・マニュファクチュールのオーナーであるロシアの発明家、コンスタンチン・チャイキン氏だ。彼は十数年前に書籍や写真、絵からトゥールビヨンを開発。国際的な独立時計師グループ「AHCI(通称アカデミー)」のメンバーでもあり、2016年から2019年には代表も務めていた。これまでに取得した特許は120以上。もちろんThinKingにも特許申請中の機構が組み込まれている。

というわけで、筆者の思い入れタップリの「ThinKing」と日新堂 銀座本店の4階にあるコンスタンチン・チャイキンサロンにて再会を果たせたわけだ。今回、時計の説明をしてくれたのは、チャイキン氏のパートナーであるイリヤ・ゲルフマン氏と日本の輸入元であるアンドロスの代表、安藤氏だった。自身もニキシー管を使った時計を手掛けているゲルフマン氏曰く、「チャイキンはいつも忙しいので、いまもモスクワでハードワークしていますよ(笑)」とのことだった。

「ThinKingは、チャイキンにとっても重要なプロジェクトでした。いくつものブランドが薄さを争う中で、自分ならどこまで薄くできるか。自身への妥協なき挑戦の結果、わずか1.65mmという超薄型の機械式時計が完成したのです。ケース素材はステンレスの2倍の強度があるニッケル合金を独自に開発しました。これは時計に求める耐腐食性と硬さのバランスがとれた素材で、ThinKingに使うためチャイキンと研究チームは数か月にわたり研究を重ねたのです。このほか、香箱や2つのテンプを使った機構、PalanKing、ストラップ構造で特許を取得しました。これらは時計全体の使いやすさと安定性を高めるために欠かせない発明となっています」(ゲルフマン氏)



ただ薄さを追求するだけでなく、実用性まで考慮した設計には舌を巻くばかり。なにより、それを思いつくチャイキン氏に恐れ入る。
「この時計を市販するかは決まっていません。ただ、ThinKingとPalanKingの最終プロトタイプのセットを5月10日、11日にジュネーブで行われるフィリップスのオークションに出品する予定なので、その落札額を見てから価格設定も含めて判断したいと考えています(※)」

新しい工場を設立してブランドは次なる段階へ
「これからのコンスタンチン・チャイキンは、「ThinKing」のような超絶タイムピースを頂点とし、「コロボック2」や「ジョーカー クラシック」など、キャラクターを想起させる「リストモンズ(=リストモンスター)」のレギュラーモデルを拡充していきます。また、初期に手がけていたようなクラシックなモデルもコレクションに加えていく予定です。このようなラインナップの拡充に合わせて生産規模を拡大すべく、ミュージアムを併設した新しいマニュファクチュールの建設も進んでいます。全4フロアあるうち、最上階は顧客や関係者のための社交の場にするとのこと。ユニークな時計作りにも言えることですが、このブランドは人を楽しませるエンターテイナーですね」(アンドロス代表・安藤氏)




問い合わせ先:日新堂 銀座本店 TEL.03-3571-5611 https://konstantin-chaykin.jp/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI)