18Kゴールドにラバーストラップを合わせたデビュー作以降、ウブロはあらゆる既成概念を打ち破るプロダクトを展開し続けてきた。2005年からは「The Art of Fusion(異なる素材やアイデアの融合)」を打ち出し、現在のフラッグシップコレクションとなる「ビッグ・バン」を発表。以来、素材と機構の両面で先進的な開発を続け、21世紀の腕時計の発展をリードし続けてきた。こうしたウブロの快進撃を2010年から支えてきたのが、研究開発ディレクターのマティアス・ビュッテ氏である。彼に、ウブロの時計開発の裏側を聞いた。
ウブロはどうしてセラミックや新素材を次々に創造できるのか?
ウブロの研究開発ディレクターを務めるマティアス・ビュッテ氏とは、前回の彼の来日の際にインタビューをさせていただいた経験がある。それから約10年ぶりの来日となった理由を聞いた。
「今年がビッグ・バンの20周年という節目につき、これまで取り組んできた技術的な研究開発の詳細を各国のメディアやユーザーの方に向けて私が説明する機会を持った方が良いということで、日本にもやってきました。長らくマニュファクチュールで研究開発を進めてきましたが、トップが変わって方針も変わったという事情もあります。今後はみなさんへ直接お話しさせていただく機会が増えるかもしれませんね」(マティアス・ビュッテ氏)
↑ウブロは2025年のウオッチズ&ワンダーズにて、コレクションの20周年を記念した「ビッグ・バン オリジナル」と「ビッグ・バン ウニコ」のフュージョンモデル(写真)など、複数のタイプからユニークなモデルを発表。セット販売を含め、その多くが即完売を記録した
ビッグ・バンを大ヒットさせた時計界の偉人ジャン-クロード・ビバー氏から、彼の右腕として長らく活躍したリカルド・グアダルーペ氏のCEO時代を経て、現在はジュリアン・トルナーレ氏がウブロのCEOを務めている。彼はゼニス、タグ・ホイヤーを経て現職に就任した、LVMHグループのウォッチ部門を深く知る人物で、今夏には日本の「ビッグ・バン」 20周年パーティにも駆けつけて多くの関係者やファンと交流を深めていた。
「コミュニケーションはとても大切だと思いますね。私がかつて指揮を執っていたBNBコンセプト社には180名ほどのスタッフがいました。一方、現在のウブロでの私の部署は最大でも10名程度までに留まるようにしています。彼らの中にはいわゆる時計の専門家はおらず、その代わりにそれぞれが理系の専門分野を持っています。私自身もかつては義手や義足を作るエンジニアになりたかったのですが、家族との暮らしを豊かなものにするため腕時計の世界へ飛び込んだという背景があります。最初に入ったヌーベル・レマニアでは本を読んだりして独学でトゥールビヨンを製作しました。私のように時計の専門家ではないからこそ出てくる発想というものがあると思いますし、それがウブロの研究開発チームの強みだと考えています」(同)
ビュッテ氏は、仕事だけでなく、プライベートでも休日にチームメンバーと交流する機会を作っているという。そのときに出てきた「こういう時計があったら面白いよね」という雑談レベルの会話から、実際の研究に移ることも往々にしてあるのだという。
「私たちが手がけた『MP-12 キー・オブ・タイム』は、まさしくそうした自由な発想から誕生した時計です。時間は誰にとっても同じように流れているはずですが、体感としての時間の流れは早かったり、遅かったりしますよね。楽しい時間はあっという間に過ぎるのに、気が進まない仕事では就業時間までの時計の経過が永遠とも感じます(笑)。ひとつの時計に3つの運針速度を組み込み、速さを変えても正確な時刻表示をメモリーさせるなど、非常に骨の折れるメカニズムでしたが、そのぶん個人的にはとても気に入っている一本です」(同)
↑2015年発表作の「MP-12 キー・オブ・タイム スケルトン」Ref.912.ND.0123.RX 手巻き(キャリバーHUB 9012)、毎時2万1600振動、約120時間パワーリザーブ。チタンケース(シースルーバック)。縦60.70×横51.00mm、厚さ18.70mm。30m防水。世界限定20本。完売
最も開発が難しかった「レッドセラミック」
MPシリーズのMPとは“マニュファクチュールピース”のイニシャルで、ビュッテ氏と彼のチームの創造力がいかんなく発揮されるコンプリケーションウオッチがラインナップする。前回の来日で筆者がインタビューした際にテーマになったのも「MP-04 アンティキティラ」であり、個人的には思い入れがとても強い。そして、こうしたメカニズムの開発が、ウブロの革新的な素材開発にも繋がっているのだという。
「新しいメカニズムが構築できたとして、それが実際に着用できるレベルに落とし込めるかという点もとても大切です。ムーブメントが重くなれば、そのぶん外装を軽量化してバランスを取る必要が出てきます。チタンやカーボン、テキサリウムなどは、まさしくそのような発想のうえで成り立った素材の採用、開発です。また、私が好きなモデルであるメカ10やMPシリーズ、そしてそのほかのコンプリケーションのように、『メカニズムを見せる』ということにおいてはサファイアやサクセムのような透明なケースであった方がより楽しんでいただけるでしょう。ただし、そうした外装素材の中でもセラミックだけは特別。これはウブロのアイデンティティであり、つねに新しいことにチャレンジしています。カラーセラミックのバリエーションを増やすのみならず、最新の研究成果となるマジック セラミックにより異なる色の融合を完全に操るノウハウを得ました。これにより表現の幅はより飛躍的に広がることでしょう」
↑「ビッグ・バン ウニコ マジック セラミック」Ref.441.CIB.1171.RX 452万1000円/自動巻き(Cal.HUB1280)、毎時2万8800振動、約72時間パワーリザーブ。ブラックセラミックケース(シースルーバック)、ブラックラバーストラップ。直径42mm、厚さ14.5mm。10気圧防水。世界限定20本。完売
ビュッテ氏に最も難しかったセラミックの開発について尋ねると、「レッドセラミック」という答えが返ってきた。曰く、ウブロのカラーセラミックの製法は相当にスペシャルなものなのだという。
「ウブロのレッドセラミックのような鮮やかな赤色を得るためには、多くのメーカーが採用しているような黒などよりもはるかに長い時間がかかります。専門技術は特許を取得していますが、全てを同じように完璧に製造することができないことがあります。それぐらいカラーセラミックは難しく、まだまだ研究開発が必要な素材です」
↑「ビッグ・バン 20th アニバーサリー レッドマジック」Ref.431.CF.1313.RX 435万6000円/自動巻き(キャリバーHUB1280)、毎時2万8800振動、約72時間パワーリザーブ。レッドセラミックケース(シースルーバック)。直径43mm。10気圧防水。世界限定100本
取材後記
もちろんウブロは創業当初から扱い続けてきたゴールドにおいてスペシャリストであり、長く美しくゴールドの輝きを楽しみたい方に向けてマジックゴールドやキングゴールドを開発してきた。その開発の過程においてゴールドクリスタルのような新たな研究成果が発表されることも、ビュッテ氏からすれば何ら不思議なことではないのだろう。このように新しいメカニズムが生まれれば、新しい素材開発を自ずと行うこととなる。このように自由な発想で新たな時計に挑み続ける姿勢こそが、「The Art of Fusion(異なる素材やアイデアの融合)」の言葉に相応しい新作を披露し続ける、ウブロのハイウオッチメイキングを支えているのだろう。そうしたクリエイティブの一端が、今回のインタビューで垣間見えた。

問い合わせ先:LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ
TEL.03-5635-7055 https://www.hublot.com/ja-jp
※価格は記事公開時点の税込価格です。
Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI)
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