<取材協力>
ブランパン(BLANCPAIN)
創業290周年を迎えた世界最古級の時計ブランド【ブランパン(BLANCPAIN)】は、「時計産業のゆりかご」と呼ばれるジュウ渓谷にル・ブラッシュ工房を構えている。2025年11月、この本拠地にてマーク A. ハイエック社長兼CEO(以降、マーク氏として略称)へのインタビューが実現した。最新コンプリケーション「グランド ダブル ソヌリ」のほか、2025年のニューモデルを中心に話を伺った内容を本稿にまとめる。
ブランパンの哲学と方針に感銘
ーー 時計好きが抱くブランパンのイメージとは、知る人ぞ知る存在で、高度な技術を有し、機械式時計のみにこだわる格式高きブランドといったところ。だからといって、その権威を振りかざすようなことはせず、むしろ控え目だ。どことなく日本の老舗企業を想わせる姿勢に、筆者は以前から好印象を抱いていた。マーク氏自身、そのような方針を大切にしているようだ。
(マーク氏)「ブランパンはローキーな印象があるかもしれませんが、真価を理解してくれている人が少ないともいえます。単に控え目なのではなく、ディスクリート(洗練された)とも感じています。そして秘密主義というわけではなく、長期的な視点に立ち、何よりサバスタンス(実用的)を伴っていることを特徴としています」

↑マーク A. ハイエック ブランパン社長兼CEO/1971年スイス生まれ。スウォッチグループ創業者ニコラス・G・ハイエック氏の孫として、幼少より時計産業に深く関わる。大学で経済学とマーケティングを修めた後、グループ内の様々な役職や自身のレストラン経営を経て、2001年にブランパンへ入社。翌2002年、同社の社長兼CEOに就任
ーー 他のメジャーブランドが有名な俳優やミュージシャン、スポーツ選手をアンバサダーに迎えたり、ビッグイベントとスポンサーシップを結び、自社を広める活動を盛んに行っている。一方、ブランパンはこれに倣うことはしていない。
「ブランパンのアンバサダーはいわゆるスーパースターといわれる著名人ではなく、たとえば一流のシェフが務めています(※ブランパンはガストロノミーの世界と関わりが深い)。しかも極めてオーガニックマーケティングの上に交わされているパートナーシップだということを強調したいですね。宣伝のためだけの関係ではなく、互いのクラフツマンシップへの共感に基づいた、オーセンティックかつ一貫性のある絆を築いています」
ーー 長年にわたって寄与する海洋保全活動との関係も同様と語る。
「もちろん、『ゴンベッサ』プロジェクトの創立者で海洋生物学者であるローラン・バレスタとの関係もそう。彼と仲間たちが行っている尊いミッションをサポートしながら、共に何が最善策なのかを模索してきました。彼らの『顔(知名度)』に対して対価を払うのではなく、彼らの活動環境や背景にあるものを我々は知る必要があり、その全てを支援しているのです。それこそが“実質”への投資ではないでしょうか? すべては本質的な価値のためともいえます」

上先史時代の魚・シーラカンスを保護・調査する『ゴンベッサ』プロジェクトのリーダー、ローラン・バレスタ氏。ブランパンの支援を受け、プロジェクトの遂行と同時に高スペックダイバーズ「テック ゴンベッサ」の開発にも携わる
ーー 実際、ローラン・バレスタ氏とダイバーの顔を持つマーク氏は共同開発の形で、約5年かけて特殊なダイバーズウオッチ「フィフティ ファゾムス 誕生70周年 Act 2:テック ゴンベッサ」を完成させた。プロのフィードバックを受けた、これ以上ないリアルなコラボレーションである。
「テック ゴンベッサは単なるアニバーサリーモデルとして開発されたものではありません。一種のプルーフ・オブ・コンセプト(概念実証)だったのです。我々は、リブリーザーを使用するダイバーたちが最大3時間の潜水時間を計測できるツールを必要としていることを知らされました。プロフェッショナルだけでなく、このコンプリケーションの実用性を評価するコレクターからも圧倒的な反響がありましたね」

↑「フィフティ ファゾムス 誕生70周年 Act 2:テック ゴンベッサ」
ーー これを受け、2025年にはレギュラー展開の「フィフティ ファゾムス テック」がリリースされた。
「テック ゴンベッサから、グレード23チタンのケースやセンターラグといった堅牢な構造を受け継ぎながら、軽量で装着感に優れ、扱いやすいダイバーズとしてまとめることができました。ツールウオッチとしてのDNAに加え、ここにオートオルロジュリー(高級時計)に求められる仕上げも徹底されたものとなっています」

↑ブランパン「フィフティ ファゾムス テック」 Ref.5029-12B30-94A 315万7000円/自動巻き(Cal.1315A)、毎時2万8800振動、120時間パワーリザーブ。グレード23チタンケース(シースルーバック)、ブラックラバーストラップ(交換用ラバーストラップが2本付属)、サファイアクリスタルベゼル。直径45mm、厚さ14.10mm
安易なバリエーション拡大ではなく、それぞれにターゲットがある
ーー また2025年は、フィフティ ファゾムス オートマティックに42mm径モデルと38mm径モデルが加わった。これはユニセックス的なアプローチが狙いだったのか?
「転換というよりは“進化”と呼びたいですね。フィフティ ファゾムスの真髄は常に視認性と安全性にあります。45mm径モデルはオリジナルのDNA、つまり何よりも視認性を優先する姿勢を体現しています。その一方、42mm径モデルはデイリーユースにおけるスイートスポット(最適解)です。重要なひとつがキャリバー1315を搭載している点で、5日間パワーリザーブを犠牲にしての小径化は除外としました。38mm径モデルの追加に関しては、手首の細いコレクターたちからの要望も理由のひとつでした。彼らはフィフティ ファゾムスの審美性を認めてくれていましたが、その厚みや重さから敬遠されていたのです。そのためキャリバー1150を採用することで、シリコン製ヒゲゼンマイによる強力な耐磁性能を維持したままスモールサイズ化が実現しましたが、縮小版という表現ではなく凝縮版とするのが適切でしょう。いずれにせよ、サイズやカラー、マテリアルは異なれど、1953年のオリジナルモデルのプロポーションに敬意を払い、あくまでダイバーズとしての完全性を求めたモデルとなっています」

↑ブランパン「フィフティ ファゾムス オートマティック(38mm径モデル)」 Ref.5007-1130-B64A 233万2000円/自動巻き(Cal.1150)、毎時2万1600振動、100時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、ラバーストラップ、サファイアクリスタルベゼル。直径38.2mm、厚さ12mm。30気圧防水
「The Essence of Watchmaking(時計製造の真髄)」を具現化
ーー このように、プロによる実際の使用に耐える設計であったり、ユーザビリティを高める付加機能を、ブランパンの全コレクションはスマートに実装している。デザインにおいても同じく、華美な装飾をあえて選択せず、時を報せるツールとしてのアイデアを細部に凝らしている。
「イノベーションとは、実用的なニーズによって突き動かされるものです。時計製造においては、まず第一にアキュラシー(精度)が求められます。これこそが時計ブランドと時計師にとっての挑戦のエッセンス(真髄)です。審美性も重要ですが、それはあくまで実用性を伴った美しさでなければなりません。フィフティ ファゾムスがダイバーにとっての実用時計として開発したように、機能美を重視するコンセプトが唯一無二のコレクションを生み出す源泉となっているのです」

↑(写真左から)マーク A. ハイエック ブランパン社長兼CEOと、世界的なハードロックバンド「KISS」のドラマーであるエリック・シンガー氏。「グランド ダブル ソヌリ」は、エリック氏が作曲したブランパン メロディと、ウェストミンスターチャイムの両方を奏でることができる
ーー “革新こそ伝統”という美学のうえに到達した類稀な技術。この極致が、先日発表されたブランパン史上最も複雑メカニズムを搭載するチャイミングウオッチ「グランド ダブル ソヌリ」(※詳細は先日公開した『スイス時計の聖地を旅し、最新「グランド ダブル ソヌリ」が奏でる究極のチャイムとブランパンの伝統を体感する』で解説したため、本稿では割愛)の存在ともいえる。
「時計に鳴る機能を与えること自体が難しいことです。さらに魂を宿す音色を奏でさせることは、それこそ芸術といえます。グランド ダブル ソヌリのチャイミングで重視したのは、音の大きさではなく、澄んだ響き、余韻、豊かさ。そのための音の純度と間の静寂をつくるため、我々は完全に新しいフライング・ガバナー(調速機)を開発し、作動時の背景ノイズ(バズ音)を排除しました。ハンマーがカテドラル・ゴングを叩く時、聞こえるのは純粋な音符の音だけ。プレステージ・ソヌリの音色を味わうことは、エモーショナルな体験となるでしょう」

↑ブランパン「グランド ダブル ソヌリ」/自動巻き(Cal.15GSQ)、毎時2万8800振動、96時間パワーリザーブ。18Kレッドゴールドケース(シースルーバック)、アリゲーターレザーストラップ。直径47mm、厚さ14.5mm。1気圧防水。年間2本限定生産(受注)
ヴィルレはブランパンのスピリットそのもの
ーー 2025年、ブランパンによるサプライズはまだまだあった。クラシックドレスウオッチのシンボルであるヴィルレに、ニューバージョンが登場した。
「ヴィルレはブランパンのスピリットです。たとえば新しいヴィルレ コンプリートカレンダーでも、サーペント針と顔のあるムーンフェイズはシグネチャーとしてしっかり残しています。アンダーラグコレクターも健在です。指の腹で軽く押すだけで日付・曜日・月・ムーンフェイズの表示を簡単に調整でき、ラウンドケースの側面を美しく保ち、着用時にはボタンが完全に見えなくなります。これぞユーザーフレンドリーな複雑機能といえるでしょう。一方で、ハバナカラーのブラウンゴールドダイアルを新たに開発しました。ガルバニックメッキの前に新しい手法のサンバースト仕上げを施すなど、非常に繊細な作業によって温もりを感じさせる美しい表現を獲得しました」

↑ブランパン「ヴィルレ コンプリートカレンダー」 Ref.6654N-3646-55B 452万1000円/自動巻き(自社製Cal.6654.4)、毎時2万8800振動、72時間パワーリザーブ。18Kレッドゴールドケース(シースルーバック)、アリゲーターストラップ。直径40.20mm、厚さ10.60mm。3気圧防水
〈取材後記〉ブランパンの技術的進化とブランド哲学は永遠
ハイエック氏の言葉から浮かび上がるのは、ブランパンが実用時計としての究極を目指す姿勢だった。フィフティ ファゾムスからヴィルレ、そしてグランド ダブル ソヌリに至るまで、着用したうえで機能することに重点を置いた美しい機械式時計が基本なのだ。その真髄を、節々に感じ取ることができた。そしてブランパンが単に過去のヘリテージを守るだけでなく、素材工学と伝統工芸を現代的な解釈で融合させる姿も浮き彫りとなった。これらはフレキシブルに動ける真のマニュファクチュールだからこそできること。創業300年(2035年)を見据え、現存する世界最古の時計ブランドが革新の歩みを止めることは決してない。
問い合わせ先:ブランパン ブティック 銀座 TEL.03-6254-7233 https://www.blancpain.com/ja
Text/山口祐也(WATCHNAVI編集部)
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