新型コロナウイルスの世界的まん延の関係から、改めて日本には輸入品が数多く出回っていることに気付かされた人もいるだろう。時計市場においても欧州勢を中心に入荷が遅延し、予定されていた発売日が延期となった新作もある。
そこで時計だけではなく注目を集めているのが、“国産”だ。スイスに次ぐ時計大国の日本には、長い歴史を持つ4大メーカーが存在し、国内外問わず高く評価されている。いま再び、“国産”の底力を見つめ直すきっかけとして大手4社のキーパーソンに取材し、その高度な技術や斬新なアイデア、先進的なデザインの魅力あるコレクションについて尋ねた。
第6回は、【セイコー(SEIKO)】のスポーツウオッチブランド【セイコー プロスペックス(SEIKO PROSPEX)】に生まれた新たな基軸、「プロスペックス スピードタイマー」の開発秘話やこだわりの点を知るためのインタビューを紹介する。
世界初の量産型自動巻きクロノグラフを祖とする、新生スピードタイマーの実力
セイコー プロスペックスといえば、やはりダイバーズウオッチのイメージが強い。1965年に国産初のダイバーズを生んだ技術を受け継ぐ、本格派が展開されているためだ。“海”におけるオリジナルモデルが登場したほぼ同時期、実は“計時”の分野でもセイコーは偉業を達成していた。その輝かしい歴史を振り返り、新たな伝説への第一歩として新生スピードマスターは生み出された。今回、企画段階から携わるセイコーウオッチの2名に話をうかがった。
「ダイバーズに続くプロスペックスの柱として選んだのが本格派のクロノグラフです」
2007年にセイコーウオッチ入社。営業部門を経て同社のプレス担当を務め、2018年より現職に。プロスペックスの商品企画・開発を手掛ける。2020年発売のセイコーダイバーズ55周年記念限定モデルのほか、今回のスピードタイマーの開発を木村さんと進めてきた。時計修理技師の資格を保有。
「計時機器としても優秀な腕時計。そんな理想形を追求し、このデザインに行き着きました」
1996年にセイコー電子工業(現:セイコーインスツル)に入社。ライセンスブランドやOEMなどを中心に腕時計のデザインを長らく務め、2019年よりプロスペックスをメインに担当。ダイバーズの初代“SUMO”、キャリバー8L搭載の1970 メカニカルダイバーズ現代デザインなどを手掛ける。
(加藤さん)「足掛け約2年をかけ、ようやく発売までたどり着きました。セイコーの計時技術の高さを物語るような、そんな腕時計を作りたいと考えたことがきっかけでした」
2020年(開催は1年延期されて2021年)がオリンピックイヤーだったことも関係している。1964年に開かれた東京五輪では、セイコーが公式計時を担っていた。
(加藤さん)「当時、誤差なく正確に計測できる機械式のストップウオッチを開発したほか、クオーツ式のクリスタルクロノメーターを導入。以降、計時の電子化が進みました。同じ1964年には国産初のストップウオッチ機能付き腕時計、クラウン クロノグラフも登場。この時代に計時技術は一気に花開いたのです」
1964年の東京大会を含む夏冬計6大会の五輪や世界陸上など、セイコーは主要なスポーツイベントのオフィシャルタイマーを担当してきた。そのストーリーは新シリーズの開発ともリンクしている。
(木村さん)「そうした歴史を投影しながら、腕時計として機能的で新しいクロノグラフを作ろうという議論を重ねました。新型コロナウイルス感染症による影響もありましたが、リモートで会議を開いて着々と進めてきたのです」