オシアナス第4弾の江戸切子モデルの開発陣にインタビュー! 江戸切子が主張しすぎないデザインバランスを追求し、使いやすくて語れる最新作の見どころ

江戸切子をサファイアガラスのベゼルに施し、先進技術と伝統の職人技とを融合させた第4弾モデル、カシオ オシアナスOCW-S5000EKがいよいよベールを脱ぐ。コロナ禍という未曽有の事態を経験し、それを乗り越えて登場する新作は、これまでの江戸切子モデルとなにがどう違うのか? 進化のプロセスと開発秘話を二人の企画担当者に聞いた。

(左)技術本部 企画開発統轄部 企画部 第一企画室の佐藤貴康さん
(右)技術本部 デザイン開発統轄部 第一デザイン部 プレミアムリストデザイン室の鈴木貴文さんの2名に今回、オンライン取材に応じていただいた 上の写真はカシオ広報部提供

 

江戸切子コラボモデルの道程

 

(聞き手)――江戸切子モデルの第4弾オシアナス「OCW-S5000EK」は、第3弾からどんな進化を遂げたのでしょうか?

(佐藤さん)「オシアナスは2004年に立ち上がった当時から“エレガンス・テクノロジー”をコンセプトに掲げてきました。当時は電波ソーラー時計が登場してきたばかりで、カシオがデジタルドライブで培ってきた技術を生かし、時間を正確に刻む多機能、高機能なアナログ時計で、なおかつ高額時計にふさわしい美しいメタル時計を目指してきました。それを体現するために、フォルムやザラツ研磨に代表される磨き、またデザイン面では青にこだわって開発してきました。

その過程で、魅力的なエレガンスを体現するものとして、2018年から“伝統と革新の融合”をテーマに、日本の伝統的な技をCMF(C=カラー、M=マテリアル、F=フィニッシュ)として取り込んだ製品開発をスタートさせました。その第1弾が切子だったんですが、その後も阿波藍やプラチナ蒔絵など、日本の尊い技術とのコラボレーションを実現させてきました。そんな中で、今回は2019年以来3年ぶりに、江戸切子とコラボレーションした新作を発表することになりました。今回も江戸切子職人の堀口徹氏にご協力頂き、職人の手で一本一本カットを施したサファイアガラスのベゼルを採用しています。

2018年の夏の第1弾と年末の第2弾では、朝日が水面に映る情景をイメージして、フェイスの中心から33本の光をイメージした放射状のカットを入れました。オシアナスが15周年を迎えた翌2019年には、夏に厚さ10mmの壁を越えた超薄型のオシアナス マンタOCW-S5000を発表し、年末にはそれをベースに、ベゼルに江戸切子を採用したモデル第3弾を発表しました。このモデルでは、都会を上空から俯瞰した情景をイメージして、新デザインの垂直と水平を組み合わせた32本のカット、さらに琥珀色の蒸着を開発して組み合わせました。

そして今回の第4弾のテーマは、“斜光”です。光が斜めに差し込むことで生まれる、情緒的な光の変化を表現しました。今まではフェイスの中心を始点とするカットを施してきましたが、今回は9時位置のワールドタイムのインダイアルの中心を始点として、一本一本角度や長さが異なるような、伸びやかで躍動感があり、光の変化を感じさせるカットを施しています」

 

 

斜光をイメージした切子の難しさ

(鈴木さん)「今回のモデルの一番のキモとなるのは、中心をずらした切子ということになります。なぜ斜めにずらしたかというと、堀口切子さんのグラスで、わざとよろけさせた縞模様のよろけ縞という切子を施したものがありまして、これをデスク上に置いて、斜め方向から光を当てると、片方だけ影が伸びて、片方は縮んでいるような抑揚が生まれたんです。これが凄くキレイだなと思いまして、これを表現したいと堀口切子さんに相談を持ちかけたのが始まりでした」

(佐藤さん)「堀口氏とは、テーマのところから話をさせて頂いていまして、デザイナーからのアイデアも提案しながらディスカッションを重ねていきます。今回の第4弾のデザインについては、最初から堀口氏の感触もよかったんです」

(鈴木さん)「いつもいくつかアイデアを持ち込んでいるんですが、中でも今回の中心をずらしたデザインは、お互いにやりたいものが合致しましたね。堀口氏にも「ぜひ挑戦したい」とおっしゃって頂きました」

(佐藤さん)「我々も2019年の切子第3弾を出した以降、他の製品で培ってきた技術もあるので、当時ではできなかったことができるようになっています。今できる技術や、時代の流れを踏まえながら、こういうものをやりたいという提案をしてきましたね」

――2019年の第3弾を出した段階で、次の構想はあったんですか?

(佐藤さん)「個人的にはオシアナスと江戸切子は、すごく相性がいいなと思っていて、だからぜひまたやりたいっていう思いがありました。ですが、我々としてもお客さんに対して新しいといいますか、今回の切子はこうですとしっかり言えるような、驚きを与えるような表現が生まれなければ出すことはできないと思っていました。もちろん堀口氏との意見の合致も重要です。堀口氏は、ご自身の展覧会でも次々と新しいものを生み出しておられ、革新的なことに積極的な方で、今こういうものをつくりたいという思いもありますから。そこでディスカッションしていく中で、意見が合致して生まれたという感じですね」

――これまでより難しかったポイントは?

(佐藤さん)「堀口氏が普段の切子細工で用いられるのはクリスタルガラスですが、サファイアガラスはダイヤモンドの次に耐摩耗性が高く、加工が難しいんです。円盤の外側にダイヤモンドパウダーがついたダイヤモンドホイールにサファイアガラスを当ててカットを施していくんですが、ダイヤモンドホイールだからなんとか切れる。ただ、刃がすぐにダメになってしまうので、目立てという刃を研ぐ作業を頻繁に行わなくてはならない。第1弾の時から培ってきた技術をベースに、結構手間をかけながら、ひとつひとつ作って頂いていますね」

(鈴木さん)「いままでの中心からカットしているものは、1本のカットを切ったら回転させて、また同様のカットを切っていくことを繰り返していくので、リズムがつくりやすいと思うのですが、今回のカットは、9時を中心として隣り合うカットがだんだん角度も長さも変わっていくので、切子の工程でリングの持ち方や、ダイヤモンドホイールの当て方も変えていったりで、結構集中力が必要だったとは聞いています。今回、カットの本数も多いんですよ。第1弾、第2弾は33本、第3弾が32本でしたが、今回は40本ですね。

堀口氏がおっしゃっていたのが、基本的に切子は、中心にピッタリあうように合わせ込みながら切っていくものなので、今回のような偏心したカットの場合、自分の感覚で切ろうとすると、身体が勝手に中心に切ろうと修正してしまうそうなんです。熟練度合いの高い方ほど、そうなってしまうようで、今まで体得してきた感性を調整しながら切っていかないといけない難しさがあったようです」

――技術的な難度が増して、個体ごとのクオリティの均一性を担保するのに気を遣う部分はあったんでしょうか?

(佐藤さん)「手作業の工程が入るので、第1弾のときから、カシオ内でバラつきの基準を決めて、一定の範囲内に収まるものだけを採用するようにしていますが、実際数ミクロンのバラツキはあるものの、ほかの製品に比べても、バラツキの範囲がほとんどないくらいのクオリティで上がってきています。少しバラツキがあるほうが、一本一本職人の技が入っている“味”になってくるかなと、最初の開発のときには思っていたんですが、堀口氏のポリシーとして手作業だから製品がバラついて差があるという考え方を嫌うといいますか、手作業だからといって一切妥協しない考え方なんですね。先生の切子作品を見ても、非常に高い精度で作られているんです」

 

 

蒸着技術の進化と偶然が生んだ情緒的なグラデーション

――蒸着の工程も以前より進化しているとのことですが?

(佐藤さん)「第1弾では黒とブルーがはっきり分かれていましたし、第2弾の琥珀のときも2色がはっきり分かれていました。今回のテーマに合わせて、初めて切子モデルにもグラデーションの蒸着を採用しています。斜光というテーマを体現できる“伸びやかな光の筋”をイメージした新しい蒸着色も開発しました。カシオとしては、ブルーのバリエーションは結構たくさん持っているんですが、鮮やかなブルーからブラックになっていく過程で、わずかにパープルの輝きが現れる情緒的なグラデーションを新たに開発しました」

(鈴木さん)「実はこのパープルって、本当に想定していなかったんですよ。ブルーからブラックに変化するグラデーションをやりたいと思ったんですが、実際作ってみたら、こういう紫が出て、情緒的でキレイだねという話になって。これは願ってもない、偶然の産物なんです」

(佐藤さん)「普通、偶然出てきたものは使えないことが多いんですが、こんないいこともあるんだなと(笑)。それから、2019年時点ではできなかった、サファイアガラスのリングの内側を研磨する処理も施しています。これは蒔絵の時に開発した技術なんです。サファイアガラスって、加工した後、擦りガラス調なんですね。これを研磨材で磨くことで透明になるんですが、これまではサファイアガラスのリングの内側は擦りガラス調のままでした。今回はリング内側の立壁面をミラーに仕上げ、鏡のように映り込ませることで、切子に立体感を持たせています」

――細かいところにまで新技術が導入されているんですね

(佐藤さん)「堀口切子さんの工房で職人によるカッティングをしていただいたサファイアガラスのリングに、最後に蒸着で着色するんですが、通常は1~2回のプロセスのところ、今回4工程入っています。まずシルバーの蒸着をかけて、そのあとカットを施した部分にだけシルバーの蒸着が残るように、他の部分は剥離してしまいます。そのあとに新開発したブルーブラックの蒸着を施しますが、これだけだと、発色が物足りないというのが第1弾の研究からわかっているので、最後にもう一度シルバーの蒸着をかけています」

(鈴木さん)「切子を施した箇所に、もっと明るいシルバーの蒸着をかけたものも作ってみたんですが、そうするとグラデーションが弱く、見えづらくなってしまいました。切子ばかりが目立ってもよくないし、グラデーションが見え過ぎてもよくないし、色のバランスも含めて検討しましたね。斜光の伸びるイメージを切子だけでなく、蒸着も含めて、組み合わせでどう表現できるか、試行錯誤を重ねました。

ケース外装は2019年の時と同じ形状ですが、文字盤の色を変えただけでなく、新たに顔の構成を変えたりもしています。2019年の時は、文字盤全面で受光するタイプだったんですが、今回はインダイアルソーラーを採用しました」

(佐藤さん)「もともとインダイアルソーラーの技術はあったんですが、切子モデルでは初めてこの技術を採用しました。ブルーのインダイアルの部分だけで受光して、発電しています。蒔絵モデルのときに開発したミラーブラックの文字盤を採用し、視認性を担保しながら、切子のデザインが映えるように配慮しています。厚みは、2019年のときと同じく9.3mm。着け心地は抜群にいいですね」

(鈴木さん)「切子モデルのために、なにを組み合わせれば一番いいものができるのかを考え抜いた、欲張りなモデルだと思っています」

 

 

コロナ禍で変化するニーズを意識した開発コンセプト

――企画・開発者として、完成度というか、満足度はいかかですか?

(佐藤さん)「すごく満足度がありますね。毎回テーマを設けてやるんですけれども、今回は特に、原点回帰じゃないですが、このモデルは輝きのあるオシアナスブルーが入っているだけで個性的だと思うんですが、行き過ぎないちょうどいい個性にしたいというのが企画的にありましたね」

(鈴木さん)「実際、切子を入れた華やかな商品で、いいものはあるんですが、逆に身に着けにくかったりする場合もあるじゃないですか。着けやすく、かつ、こだわりを感じられるバランスが難しくて。着けやすく、程よく主張してくれるような、結構いいところに落ち着いたかなと思います」

(佐藤さん)「今回、光の変化を表現するにあたり、広がりを見せるカットの開発と合わせて、切子を指で触れるように表から入れられないか、ということも試しました。そのサンプルにも蒸着をかけて、どういうふうに見えるかというところまで研究しました。ただ、その試作では、伝統工芸色が強すぎるような印象があったんです。企画意図としては、着けている人の時計を見ても切子感がそんなに強くない感じでありながら、よく見ると、一本一本の切子からジャパンクラフツマンシップを感じてもらえて、誰かから「その時計何ですか?」って言われたときに語れるようなものにしたかった。しっかり普段使いして頂けて、主張できるようなものにしたいという思いがありましたね」

(鈴木さん)「堀口氏と話をしている中で、今までは伝統工芸・切子を主体としたデザインで考えてきたんですが、そういう方向ではなく、オシアナスを主体として、モダンなオシアナスデザインの中に切子が入っている、という考え方で進めてきました。堀口氏も、あくまでもオシアナスのひとつのシリーズのデザインとして考えてくださって。切子を中心に据えると、伝統的な型を意識せざるをえないんですが、今回の切子モデルは切子の型を変えないとできないようなものですから。伝統工芸の型にはまらない展開性が見出せたかなと思っています」

――今後、さらなる切子モデルの展望については、いかがですか?

(佐藤さん)「とにかく毎回出し切ってますので(笑)。いろいろと考えているところはあるんですが、まだお話しできる段階ではないですね。切子だけではなく、オシアナスブルーやサファイアガラスの使い方や表現も、まだまだ可能性はあると思っていますので」

――どんなユーザーに、どういうシーンで着けてもらいたいでしょうか?

(佐藤さん)「オシアナスを実際に買われている層は、30代から50代のビジネスパーソンというふうにデータが出ているんですね。そんな中でも、カシオ製品が好きだったり、スポーツが趣味で、アクティブなマインドの方だったり。オシャレにも気を使っていて、気持ちが若々しいユーザーという印象がありますね。

開発思想的には、今、腕時計を着ける機会って少なくなってきてるじゃないですか。オシアナスの黎明期には、電波ソーラーが正確な時間刻むという機能的なところで、売れた時期もありました。ですが、電波ソーラーに対する価値観って、当時から変化しているのを感じています。腕時計というものが、よりその人の人生というか、ライフスタイルを彩るようなアイテムにシフトしつつある。とは言え、電波ソーラーにしてもブルートゥースによるスマホ連携機能にしても、時間が狂わないという機能性は価値になってくると思うので、そこはキープしつつ、着けているとモチベーションが上がったり、特別な時にこの時計を着けようみたいなアイテムになると思うんですね。なので、スーツを着るような、とっておきのシーンで選んでもらえる一本というのを今回は意識しました。それからライフスタイルとして、エレガントな着こなしをされる方で、でもちょっと個性を求めていて「あの人オシャレだね」っていうような方に選ばれて、そこにジャパンプライドが加味されていて、そういうところに共感してもらえるものを作りたいな、というところがありました」

――コロナ禍の時代の中で、腕時計の企画・開発も変わってきていると思うのですが?

(佐藤さん)「数年前は、新たな機能の搭載や、スペックアップをした新製品を望まれていたのですが、我々も分析をする中で、そういう需要もユーザーのマインドも今、変化していますよね。コロナ禍によって一気に加速したように感じます。そんな中でオシアナスブランドとして、今を生きる人たちに、どういうものを提供できるかということを、ずっと考えてきました。そういう中で出した答えのひとつが、とっておきのシーンであるとか、自分の生活を豊かにしていくようなアイテム、というところです。そういう需要に対して、どういう回答が出せるのかを考えながら、日々開発を続けていますね。モノ自体で考えているところから、着ける人の人生やライフスタイルまで意識して開発するようになったのが、コロナ前とは変わったところかなと思います」

――ポストコロナ時代には、また新しい方向性を考えていく必要がありそうですよね。

(佐藤さん)「やっぱり着ける人のことを考えないといけないですよね。需要だったり、市場だったり。その変化に対して、どうすればオシアナスいいねって思ってもらえるかを考えていきたいですね」

オシアナス「OCW-S5000EK-1AJF」 25万3000円/クオーツ(Bluetooth搭載電波ソーラー)。チタンケース(チタンカーバイト処理、一部IP処理)、チタンブレスレット(チタンカーバイト処理)、サファイアガラスベゼル、サファイアガラス風防(両面反射防止加工)。縦48.8×42.3mm(厚さ9.3mm)。質量82g。10気圧防水。世界限定1000本

 

OCW-S5000シリーズ/搭載機能一覧
●タフソーラー(ソーラー充電システム)
●標準電波受信機能
●モバイルリンク機能(対応携帯電話とのBluetooth通信による機能連動)
●アプリ「CASIO WATCHES」対応
●ワールドタイム
●デュアルタイム
●ストップウオッチ
●フルオートカレンダー
●日付・曜日表示
●パワーセービング機能
●ネオブライト
●バッテリーインジケーター表示

 

〈取材協力者〉
カシオ計算機株式会社 技術本部 企画開発統轄部 企画部 第一企画室   リーダー/佐藤貴康さん
カシオ計算機株式会社 技術本部 デザイン開発統轄部 第一デザイン部 プレミアムリストデザイン室/鈴木貴文さん

 

問い合わせ先:カシオ計算機 お客様相談室 TEL.03-5334-4869 https://www.casio.com/jp/watches/oceanus/

 

Text/まつあみ靖 Photo/高橋敬大

TAG

人気のタグ