時計商として一世紀半もの歴史を重ねてきた大阪・ミナミの時計店「やぶ内時計舗」が、創業150周年の節目に限定モデルを製作した。指名したブランドは日本時計製造の最高峰にある「グランドセイコー」だ。50本限定で作られる特別仕様の詳細を、5代目店主への取材を交えながら解説する。
Text / Daisuke Suito Photo / Masanori Yoshie
この節目にはグランドセイコーしか有り得なかった
やぶ内時計舗は、以前にも2つのアニバーサリー限定ウオッチを製作している。創業100周年の際にはオリエント時計と、120周年の際にはセイコーと共同で製作。どちらにもSt. PAULという独自の商品名を付けて販売した。第3弾となるアニバーサリー限定は、グランドセイコーの名を冠したものとなる。「日本を代表するブランドですから、これ以上の選択肢はないと思いました」（5代目店主・藪内正己さん）
2022年の完成を目指して動き出したのは2年前。最もこだわったのは、「青」だった。「“みおつくし※”が市章にもなっているように、大阪は多くの川が流れ、橋が架かる“水の都”。そのイメージを時計に取り入れたいという思いがありました。ただ、ダイヤルを青にするのは既存モデルにありますし、なによりストレートすぎて芸がない。水の流れを意識したらブルーの針がスイープ運針する様子が思い浮かび、必然的にスプリングドライブにたどり着いたのです」（藪内さん）
※編集部注：澪標。通行する船に水脈や水深を知らせるために目印として立てる杭。「難波のみおつくし」が有名
大阪＝「水の都」の世界をあらゆる部分で表現
ダイヤル面は、店舗でも人気のあるというスプリングドライブのSBGA211、通称「雪白ダイヤル」モデルと同様の型打ちパターンを採用。本体のベースはいまや入手不可能となったSBGA283である。「グランドセイコーには雪白にも使っているブライトチタンのほか、ブリリアントハードチタンなどの素材も揃っています。逆に言うとまだチタンは発展する可能性を残した素材なので、今回は王道のステンレススチールにしたかったのです。このモデルの直径は39mm。幅広い方にお使いいただきやすい40mm以下のサイズというのも欠かせない条件でした」（藪内さん）
特徴的なダイヤルの型押し模様は、水路に見られる石垣がモチーフだという。こうした「水の都」の表現をいっそう盛り上げるのが、ダイヤルとベゼルの境目で際立つ青色のガラスリングだ。見る角度により表情を変える絶妙なメタリックブルーは、ブランドの現行ラインアップにない特別仕様。「濃すぎず、淡すぎず、水が思い浮かぶような青色を目指し、担当者と何度もやりとりをしました」（藪内さん）。青く縁取られた型打ちダイアルの凛とした佇まいからは、やぶ内時計舗が貫いてきた「誠実誠意」の姿勢までも伝わってくる。
150年から先、やぶ内時計舗の未来
150年という大きな節目に打ち立てた“みおつくし”の一本は、果たして誰の手に渡るのだろうか。「良い時計があり、お客様がいてくださって私たちは150年にわたり商売ができたわけですから、やはり時計が本当に好きな方に買っていただきたいですよね」（藪内さん）。最後に、これから先の歴史を重ねるうえで必要なことを、藪内さんに尋ねてみた。
「いまは、時計を買うにもさまざまな選択肢があります。そのような時代にあって、真剣に時計を選びに来られる方や空いた時間にふらりと立ち寄ってくださる方など、たとえ目的は違っても直接ご来店いただくことには感謝しかありません。だからこそ、今回の記念モデルに限らず、自信を持ってお奨めできる商品をご用意して、ご期待に応えていきたいと思っています。その先の私たちの役割は、いろいろな時計を見比べていただきながら、ご説明や雑談などいろいろなお話しをするところまで。購入するかどうかを決めるのはお客様ですし、こちらも“売らんかな”の接客は絶対にしません。この方針を今後も変えることなく、時代に合った仕入れを心がけながら、お客様が心から時計を楽しめるお店でいられたらと思っています」（藪内さん）
【やぶ内時計舗】
住所：大阪府大阪市中央区博労町4-3-12
TEL：06-6253-6110（代） 営業時間：午前11時～午後8時（定休日：水曜日）
https://www.yabuuchi.co.jp/
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