スイスを代表するマニュファクチュール(自社一貫生産が可能なメーカー)であり、約40年前に巨匠ルートヴィッヒ・エクスリンとともに“天文時計三部作”を開発した名手である【ユリス・ナルダン(ULYSSE NARDIN)】は、これまでに数々の傑作時計を手掛けてきた。機械式時計が向かう指標を示すべく生み出された最新コンセプト=“Xコード”を体現する「フリークX」から、同社の独創性や先進技術、それらがもたらすサティスファクションを探る。
「フリークX」デザイナーに特別インタビュー
「シンプルさと複雑さ。相反するふたつの要素をバランス良く両立させた」
高精度なマリンクロノメーターで海を制し、後世に語り継がれる超複雑な天文時計三部作で星を制したユリス・ナルダンは、1846年の創業当初から挑戦を重ねてきたウオッチブランドだ。そのDNAは継承され、技術もデザインも未来へ向けられている。それが“Xコード”と名付けられた新しい価値となり、「フリークX」に結実している。同モデルを手掛けたジャン=クリストフ・サバティエ氏は、次のように語る。
(ジャン=クリストフ・サバティエ氏)「XとはX -Ray(X線)の同義語で、透明性を意味します。ブラストのスケルトンXでは、スケルトンキャリバーを採用し、目に見える透明なデザインとしました。フリークXの場合は“文字盤を持たない=透明”の定義で、見えている部分すべてがムーブメントを構成しており、針もないデザインとしました」
ユリス・ナルダンはアーカイブピースに着想を得たコレクションを揃える一方で、フリークXのような時代を先取りする意欲作も存在する。開発時に重視したのはどのような点だったのか?
「ひとつが、シリシウム(シリコン)技術を用いた独自のフライングカルーセルを備えながら、可能な範囲でプライスを抑えること。もうひとつが、トゥールビヨンを敬遠している方々に対する新たな提案となること。とくにユリス・ナルダンを知らない若い層に興味を抱いてもらえるような時計を目指しました」
2001年初出のフリークは、ムーブメントにシリシウムパーツを史上初めて使ったモデルだった。シリコン製のひげゼンマイが普及した現在、その先見の鋭さが改めて評価されている。
「ご存知の通り、フリークは最初にシリシウム・テクノロジーを用いたスーパーウオッチです。デザインもコンセプトもユニークで、保守的な時計界においてまさに革新的であり、その開発はチャレンジそのものでした」
シリシウムは耐久性や耐磁性にアドバンテージがあり、脱進機に使えば精度の安定化にも貢献する。そのためユリス・ナルダンでは、同素材のパーツに対して10年保証を付与している。フリークXのフライングカルーセルもこれに該当するが、見る者にインパクトを与えるうえでもシリシウムは不可欠だったという。
「フリークX最大の特徴は大型のシリシウム製オシレーターです。これはユリス・ナルダンが誇る技術の結晶で、象徴的な存在。デザインチームと開発部の間でディスカッションを重ね、ギヤを文字盤側に見せる独自のメカニズムを完成させ、オシレーターの設置を実現しました」
Xコードは伝統ある機械式時計の既成概念を打ち破るアプローチから創出され、そこから生まれたフリークXは、シンプルにして複雑な新時代のタイムピースである。ユリス・ナルダンと関係が深いルートヴィッヒ・エクスリン博士はかつて、“複雑なものをシンプルに見せるのは非常に労力がかかること”と語ったが、まさにその不文律を体現していると言えよう。
常識にとらわれない姿勢が生んだ大胆不敵なデザイン
ユリス・ナルダン「フリークX」 Ref.2303-270/BLACK 299万2000円
傑作「フリーク」の入門機的ポジションで、Xコードに基づくアイデアが投影されたタイムピース。輪列を簡素化し、時刻調整用のリューズを備える自社製造の「キャリバーUN-230」を搭載する。シリシウムパーツを多用したフライングカルーセルが1時間で軸周りを回転する構造で、ブリッジが分針の代わりに、ホイールのひとつが時針の役割りを果たす。
スペック:自動巻き(自社製Cal.UN-230)、毎時2万1600振動、72時間パワーリザーブ。チタンケース(DLC加工/シースルーバック)、アリゲーターストラップ。直径43mm。50m防水。
問い合わせ先:ソーウインド ジャパン TEL.03-5211-1791 https://www.ulysse-nardin.com/jp_jp/
Text/山口祐也(WN) Photo/吉江正倫
- TAG