ドイツ時計界の重鎮【ユンハンス】CEOが語るブランドの知られざる足跡

12月上旬、ユンハンスCEOのマティアス・ストッツ氏が来日した。ユンハンスは、20世紀初頭に世界屈指の時計メーカーとなり、1972年のミュンヘンオリンピックでは公式タイムキーパーも担当。初の電波腕時計を筆頭に、数々の機構を作り出したイノベーターでもある。こうした豊かな歴史を持つブランドのCEOが、直々に最新作をプロモーションしにやってきたわけである。これはインタビューするしかない! ということで取材する時間を作ってもらった。

「ユンハンスはスポーツ計時にも歴史がある」

WATCHNAVI編集部(以下/WN):今回の来日で紹介したい新作があると聞きました。

マティアス・ストッツCEO(以下:MS):その前に少し私たちの歴史を説明させてください。とはいえ、創業からお話するわけではありません。フォーカスするのは、私たちのスポーツ計時の歩みです。私たちは長年にわたって陸上競技やモータースポーツなどの分野で、計測を担当してきました。100分の1秒計測が可能な機械式ストップウオッチで計測した時代を経て、電子計測でも自分たちの技術を開発しています。

公式タイムキーパーを務めたミュンヘン五輪では、短距離走のスターティングブロックにセンサーを組み込み、スタートの合図と連動させることでフライングを検知する機構も開発。ゴール地点にもタイム計測と着順判定を行うダブルライトバリアの装置を手掛けました。これらはコダックと提携して、カラーで視覚的に結果を判定できる初の装置でもありました。このほかにも多くの競技での計測機器の優秀性が認められ、当時の大会組織委員会の委員長より賞状も贈られています。

ユンハンスが発明し、ミュンヘン五輪で有効性を実証した陸上競技の電子式スタートコントロールシステム

こうした計時機器の多くは、私たちの工房に併設したミュージアムにありますので、機会があればぜひお立ち寄りください。その後もF1を筆頭に著名なスポーツ大会で計時を担当し、今もFISノルディックスキー世界選手権の公式タイムパートナーなどを務めています。それと合わせてカール・ガイガー選手とのアンバサダー契約をしました。日本にも小林選手という優れた選手がいるのを知っていますよ。サッカーでは惜しくも負けてしまいましたが、2023年の冬はきっとドイツがいい結果を残すと期待しています。

WN:ということは、新作もスポーツにちなんだものを見せていただけるということですね。

MS:その通りです。よくわかりましたね! 今回お見せするのは、1972 コンペティションというモデルです。この新作は、50本限定で製作し、あっという間に完売した18Kホワイトゴールドバージョンのステンレススティール版です。限定本数の1972はもちろん、ミュンヘン五輪に由来しています。実はこのモデルには1972年に発売したオリジナルが存在します。レーストラックをイメージさせるオーバル形状に、スクエア型のインデックス、ブルヘッドと呼ばれるボタンとリューズの位置、アクティブな雰囲気が漂うオレンジカラーなど、多くの要素を忠実に再現しました。

一方で、フィット感を高めるためにケースバックの形状を弓なりに設計するなど改良を施しました。正直なところ、オリジナルは着けているときに少し時計が腕の上でぐらついてしまうんです。一方、新作は手首に沿うようにケースがデザインされているので着け心地が良好。よく見ていただくとわかるのですが、ケースバックの弓なりも12時側の方が少し高く、長くなっています。この絶妙な高低差が着用したときの傾きを生み出し、視認性を向上させるのです。空いた穴からオレンジが見えるパンチングレザーは、折り畳み式のフォールディングバックルを採用。ストラップのあまりが内側に収まるタイプなので、肌にバックルが密着せず見た目にもスッキリします。

WN:(試着しながら)確かに見た目のサイズに対して、腕へのフィット感が良いですね。時計の角度はほとんどわからないぐらい絶妙ですが、見やすいような気がします。オリジナルのフラットなケースバックを想像すると、確かに手首でグラグラしそうです。

MS:だから復刻版では改良を施したのです。ちなみに、このモデルは他にガイガー選手が使用しているスキー板のブランド、フィッシャーのブランドカラーである「レモン」のイエロー色がメインに使ったモデルもあります。FIS限定では、クッションケースのクオーツモデルも用意していますよ。どのモデルも、とてもユニークなモデルに仕上がっていますので、ぜひ多くの人に手に取っていただきたいですね。

「マイスター ファイン」からは直径35mmの機械式時計が登場

WN:最近のユンハンスはバウハウス的な思想のシンプルウオッチのイメージが強かったので、今回のスポーツウオッチは新鮮ですね。大きな大会での公式タイムキーパーを務めた歴史を含め、改めてドイツの時計ブランドの代表であることがよくわかりました。

MS:そのシンプルなデザインのモデルからも新作がありますよ。マイスター ファインというシリーズから、直径35mmのメカニカルウオッチを出します。モデル名は、「マイスター ファイン クライネ オートマティック」。ケースバックに至るまでの丸みを帯びたフォルムを小ぶりにし、柔らかな色使いの文字盤には6時側にロゴを入れました。

WN:12時側のインデックスと対称位置にあるロゴがユニークですね。色使いはフェミニンな印象ですが、ヴィンテージウオッチに通じるサイズ感は男性でも好む人が多く、シンプルな時計を好む人全般に選ばれそうです。バネ棒にスライドレバーが付いていて、ストラップの交換も容易にできるのもいいですね。

MS:さらにマイスター ファインにはもうひと型、新作を準備しています。来年、2023年は創業者であるエアハルト・ユンハンスの生誕200年となります。それにちなんだモデルで、名前は「マイスター ファイン オートマティック エディション エアハルト」。18Kイエローゴールドと18Kホワイトゴールドの2つのバージョンがあり、それぞれ200本の限定となります。文字盤とシースルーバックに創業者の署名が入り、自動巻き上げローターの中心には肖像画が入っています。1972 コンペティションのホワイトゴールドバージョンが完売した背景もあり、このモデルも反響があることを期待しています。

スポーツウオッチの分野で再び存在感を見せられるか?

今回のインタビューに応じてくれたマティアス・ストッツCEOは、1993年から時計関連のキャリアを積み、2009年より現職に就任。以来、ドイツ最大手の時計ブランドを率いてきた重要人物だ。しかしながら物腰は柔らかく気さくで、余裕さえ感じる語り口からはブランドの好調ぶりもうかがえた。ユンハンスは、機械式、クオーツ、ソーラー、電波時計など、さまざまな駆動方式で豊富なバリエーションを展開しているが、ここにきてスポーツウオッチの分野でも独自の存在感を見せることは良い判断だろう。事実、「1972 コンペティション」のホワイトゴールドモデルは完売を記録した実績がある。今回の限定新作を契機とする、ユンハンスの新たな展開に期待したい。

TEXT/Daisuke Suito (WN)

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