時計界のインフルエンサー3名が作り上げた独創スイスウオッチ「コロキウム(kollokium)」試着レビュー

コロキウムは、時計業界に長く携わり、情熱を持って時計に人生を捧げてきた3名が集まり、「ゼロから自分たちの手で何かを作り上げたい」という欲求を具現化した腕時計。2023年末に完成したプレシリーズは、立ち上げメンバーの仲間内のために99本のみ製造された。そんな極めて希少な存在であったコロキウムが、今年から日本を含めグローバルに展開していくという。そこで日本のエージェントの方より「この機会にぜひ試着レビューを」、との要請とともにWATCHNAVI編集部の元に実機が到着することとなった。というわけで、さっそくお手なみ拝見!

外装はダイカスト方式でも文字盤は手作業でセット

右からマニュエル・エムシュ、バート・ヌスバウマー、アミル・シンディ(c)kollokium

コロキウムを立ち上げたのは、マニュエル・エムシュ(Manuel Emch)、バート・ヌスバウマー(Barth Nussbaumer)、アミル・シンディ(Amr Sindi a.k.a. @The Horophile)の3名だ。彼らが時計界でどれほどの影響力を持つかは、彼らの名前で検索をかければすぐにわかるだろう。彼らは、「既存のブランドも、既成のアートディレクションも、過去の歴史の焼き直しも、制約も一切持たず、自由に、妥協なく、自分たちが頭の中で描いたモノを形にするために」集まったのだという。このようにまったく新しい時計を創造するべく立ち上がった彼らがほとんど唯一の条件にしたものが「機械式腕時計」であり、そこからコロキウムというプロジェクトが始まった。なお、本来の英単語では討論会を表すcolloquiumとなるのだが、あえて彼らは異なるスペル「kollokium」として独自性をアピールしている。

kollokium projekt 01 variant “b” (c)kollokium

さっそく実機を手に取ると、まずケースの色味が気になった。外装はグレード2チタンのような色合いだが、持ち上げた際に適度な重みを感じる。実際に軽量すると、ストラップも含めた重さは75gだった。資料に目を通すと、これが316Lステンレススチール製でダイカスト法によって成型されていると知る。加工しやすいアルミのダイカストは聞いたことがあるが、「ダイカスト・スチール」とはこれいかに。ステンレススチールがアルミよりも加工が難しいことは容易に想像がつくのだが、それにしても鏡面やヘアライン、サンドブラストなどといった多くの腕時計に用いられる仕上げも外装には一切施されていない。これが初見で気になったグレーがかった「鉄の塊」感を際立たせているのだろう。実際、彼らもコロキウムの説明文中に「ニュー・ブルータリズム」のワードを使用していた。コンクリートやガラス剥き出しのような無骨な直線設計を主な特徴とするブルータリズム建築とコロキウムには確かに合い通ずるものがあると感じた。

kollokium projekt 01 variant “E1″

素材について自分なりの理解をしたうえでケース形状に目を移すと、とても興味深い構造であることに驚く。ダイカスト法は金型に溶融金属を流し込み高圧で成型する鋳造方式だが、一般的に金型から製品を抜き出すためのテーパーも必要となってくる。コロキウムでは、そうした製造上の条件も巧みにデザイン上の特徴に変えているのだ。最もわかりやすいのがラグ一体型のケースバックで、素人目にも上から圧力をかけて成型したあと、そのまま金型から取り出しやすい形状になっていることがわかる。こうして出来上がった工業的なソリッド感は、仕上げ至上主義の時計を山ほど見てきた人こそ新鮮に映ることだろう。なお、この時計にはベゼルがなく、ミドルケースはストレートなシリンダー形状を採用。これに高さのあるボックス型サファイアクリスタルガラスを組み合わせて、類を見ないフォルムを作り上げている。おそらく金型のパーツを細分化、複雑化すればもっとケース形状の自由度は高まったはずだが、金型はそれ自体にコストがかかるためコロキウムのコンセプトには合わなかったに違いない。“時計製造の世界において「手が届く代替案」を探求すること”もまた、プロジェクトにおいて彼らが掲げる目的のひとつなのである。

高さのあるガラスとミドルケース、ラグ一体型ケースバックで構成

価格高騰が進む時計界にあって重要なマイルストーン

視点をさらに内側へ移して今度は文字盤をじっくり観察すると、こちらは外装に対して非常に手の込んだ作りとなっている。いったいどのように作っているのか、再び資料に目を通すと特徴的な円柱型のパーツは1本ずつ手作業で取り付けているとのこと。その数実に468本。最初のプレシリーズの99本限定ならいざしらず、今後これを何百本も作るとなると気が遠くなりそうな数である(市販モデルのE1とE2合わせて499本の限定生産とのことなので、499×468=23万3532本!)。しかも、円柱型のパーツはサイズも長さも異なる6種類を使い分け、当然のことながらスイスメイドに相応しいクオリティを保つ必要があるのだから、このような前例のない組み立てにも熟練職人レベルの繊細かつ高度な技が要求されて然るべき。しかもこれらはサンドブラスト加工したあとにブラックPVD処理を施し、さらにスーパールミノバを塗布するという手の込みよう。無機質な外装に対して、なんとも有機的な文字盤を与えるバランス感覚が面白い。文字盤にロゴなどを打たない代わりに彼らのシグネチャーとなるのは秒針で、1本の金属棒を折り曲げたような形状に鮮やかな色を添えて時計にアクセントを加えている。こうした造形をいつでも存分に楽しめるよう、コロキウムに高さのあるサファイアクリスタルガラスをセットした理由も納得だ。

時分針の縁取りにも蓄光塗料を塗布

なお、コロキウムには高級ムーブメントメーカーとして知られるラ・ジュー・ペレが製造したキャリバーG101を搭載。片方向巻き上げのため空転する際の音はやや大きめではある。だが普段の着用で気になる程ではなかったし、実際にコロキウムのプロジェクトメンバーも「このムーブメントの開発に一切関わっていないため、あえてロゴや装飾は一切施していません。というのも……どうせ見えないですしね」とのこと。潔いコメントではあるが、だからといって投げやりではないのは先述の通りムーブメントメーカーにラ・ジュー・ペレを選んでいることからも伝わってくる。むしろサプライヤーを信頼しつつ、必要のないところにコストをかけない割り切り方は、価格高騰が進む時計界にあって重要なマイルストーンとなるに違いない。

装着した感想とコロキウムの購入方法

編集部・金川はkollokium projekt 01 variant “b”を試着

さて、実際に1週間ほど使ってみた感想だが、この時計は筆者のようなほぼ一年中カジュアルスタイルで過ごす人間には「気取らず使える」心地よいタイムピースだった。ジャケット着用時にはアクセントになり、Tシャツ一枚でもスッと馴染む気楽さは、コロキウムを立ち上げた3名の意図するところでもあったに違いない。ガラスに高さがあるため嵩張りそうに思えたが、実際は自動巻きでも11mm厚しかなく長袖への収まりは良好。最外径40mmのケースも伸縮性のあるテキスタイルストラップで腕にフィットする。

フック状のバックル

筆者の印象ではスポーツ用のリストバンドの装着感に近く、それを幅20mmにしたような着け心地。時計本体に重さはあれど、しっかり手首にホールドするのでグラつくことで重心がズレる違和感やストレスは皆無だった。この伸縮性ストラップがまたユニークで、着用方法は7つあるスポットのいずれか収まりの良いポジションにバックルのフックを引っ掛ける仕組み。手首周り16cmの筆者でも中間位置となる4つ目のスポットだったので、重ささえ気にならなければきっと子供でも着用できそう。こうした着用者を選ばない懐の深さもまた、コロキウムの大きな魅力と言えるだろう。

構造物が林立する文字盤は、まるでここに都市があるかのような立体感

さて、このコロキウムを手にいれるにはどうすれば良いか。その答えは極めてシンプル。https://kollokium.com/ にアクセスして、気に入ればそのまま購入するだけ。昨今の時計界では実機を見ることなく購入する文化がすでに定着しており、海外はもとより日本の小規模時計ブランドも同様の販売方法を取り入れている。この手法により、今回試用したkollokium projekt 01 variant “E1″は全世界一律2999.99スイスフランで販売でき、(各国の税制による価格差はあるものの)内外価格差が生じることもない。

今回試したモデルはすでに完売済みだが、公式サイトには次作となるVariant “F”が登場し、日本時間で6月12日(木)22:00より上記の公式サイトにて発売を開始するという。限定399本のみの製造となる最新作kollokium projekt 01 variant “F”は、大量のスーパールミノバを練り込んだセラミック・レジン製のピン、Lichtblock™(リヒトブロック/ドイツ語で光の塊)を新たなデザインの文字盤にセット。通常の手法で作られる文字盤の約500枚分に相当するスーパールミノバが1本のkollokium projekt 01 variant “F”に使われているのだというから、実物を見ずとも強い光を放つであろうことは容易に想像がつく。果たして、何もかもが新しい機械式時計プロジェクト「コロキウム」は、日本の時計愛好家にも愛されるだろうか。少なくとも筆者は、購入を申し込むつもりでいる。

KOLLOKIUM「PROJEKT 01 VARIANT “F”」3666.66スイスフラン 自動巻き(La Joux-Perret G101)、毎時2万8800振動、68時間パワーリザーブ。スチールケース。直径40mm、厚さ11.95mm。伸縮性テキスタイルストラップ。5気圧防水。世界限定399本

Text & Photo/Daisuke Suito (WATCHNAVI) Photo/Ren Kanagawa (WATCHNAVI)

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