パイロットウオッチ≠クロノグラフ
文/渋谷ヤスヒト
パイロットウオッチといえばクロノグラフ(ストップウォッチ機能付きのもの)……時計好きでも、このイメージを抱いている人は、実はかなり多いのではないでしょうか?
1990年代後半、日本でも起きた機械式時計ブーム。その主役ブランドのひとつが、他ならぬ「ブライトリング」です。当時、雑誌でもっとも頻繁に紹介され、もっとも人の目に触れた機械式腕時計が同社のクロノグラフ「ナビタイマー」や「クロノマット」でした。私も編集者、ライターとして数え切れないほどこのモデルについての記事を作ってきました。その結果、「パイロットウオッチ=クロノグラフ」というイメージが定着しました。でもこれは誤解です。
航空機の歴史が始まったのは1903年12月17日。アメリカのライト兄弟がライトフライヤー号で世界初の有人飛行に成功してから。パイロットウオッチが本格的に使われるようになったのは、第一次世界大戦(1914〜1918)において、航空機が兵器になってからです。当時(初期)のパイロットウオッチは、懐中時計にただベルトを着けて腕に巻けるようにしたものでした。
実は当時も現在も、パイロットウオッチにとってストップウオッチ機能は必ずしも必須ではありません。大切なのは、飛行機のエンジンや機体が発する強烈な振動や磁気に耐え、確実に正確に時を刻む精度と信頼性。加えて、腕に着けたままでも時刻が確実に読み取れる優れた視認性です。
飛行開始からどれだけの時間が経ったのか。経過時間を測るのにクロノグラフは便利ですが、クロノグラフ機構は複雑で高価だし故障の可能性も高い。経過時間は飛行開始時間をメモしたり、回転式のベゼルで飛行開始時刻をマーキングできれば、ほぼそれで充分なのです。
だからパイロットウオッチとしてクロノグラフが一般的になったのは、第二次世界大戦が始まる1940年代になってからのこと。そして1942年、ブライトリングは世界で初めて、ベゼルに回転式計算尺を装備したクロノグラフ、初代「クロノマット」を発表。1952年には、飛行に必要な計算に最適化した計算尺をベゼルに備えたクロノグラフ、初代「ナビタイマー」が誕生しました。
1915年にクロノグラフの操作専用ボタンを備えた腕時計クロノグラフを、1934年には現在の腕時計クロノグラフの基本形である「スタート&ストップ」「リセット」2つの専用ボタンを備えたクロノグラフを開発したことで名高い「ブライトリング」。ですが、「ナビタイマー」を生み出した1950年代において、すべての製品がクロノグラフだったわけではありません。3針の腕時計も主力製品でした。
英国空軍(Royal Air Force)でパイロット経験があり、航空冒険小説の名手として知られるイギリス人作家ギャビン・ライアルの1960年代の作品にも、パイロットウオッチが登場人物のパーソナリティを表現するアイテムとして登場しています。ですが、彼らの腕時計がクロノグラフとは書かれていません。
伝統を受け継ぐデザインと着けやすいサイズ
こうした歴史を踏まえると、「ナビタイマー 1 オートマチック 38」は、「ブライトリング=パイロットクロノグラフ」というイメージを持つ40代から50代以上の時計ファンには違和感があるかもしれませんが、ブライトリングのパイロットウオッチの伝統を受け継ぐ“正統的なモデル”と言えます。
従来の名前はナビタイマーですが、新コレクション「ナビタイマー 8」の登場で「ナビタイマー 1」という名称になったクロノグラフモデル同様に、ベゼルには回転式の航空用計算尺が装備され、“腕に着ける計器”としてのクラシック感も充分なものです。
そのうえ、インダイヤルのない文字盤はシンプルでクロノグラフより時刻が読み取りやすく、38mmというケース径も、ビジネスでもカジュアルでも着けやすい絶妙なサイズです。
また価格もSSケースのクロコストラップが税込で50万台前半、SSブレスレットでも60万円台前半と、クロノグラフモデルよりかなりお手頃。さらに他のブライトリングのモデル同様に、COSC(スイス公式クロノメーター検査協会)公認クロノメーターの高精度。
つまり「ナビタイマー 1 オートマチック 38」は、普段使いできるブライトリングとして、なかなかの逸品なのです。
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