数多く存在するウオッチブランドでも、一流と呼ばれているブランド1社にスポットを当て、その歴史や技術、ニューモデルについて掘り下げて解説する連載企画『時計ブランドの肖像』。今回は、持ち前の頑丈設計と高視認性で、堅牢メカニカルウオッチの代名詞となったボール ウォッチを取り上げる。同社が目指す未来とは!?
Portrait 10 「BALL WATCH (ボール ウォッチ)」
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CLEVELAND[クリーブランド]
ボール ウォッチの創業地は、アメリカ・オハイオ州にある街クリーブランド。ここで時計宝飾店を営んでいたウェブスター・クレイ・ボールが、“ある事故”をきっかけに時計製造を手がけるブランドを立ち上げることになった。
1891年にクリーブランド郊外で起きた鉄道事故“キプトンの悲劇”(写真上)。ウェブスター・クレイ・ボール(写真下)は、鉄道会社からの要請を受けてアメリカの時差問題や当時の懐中時計の精度など、「時間と時計」が主な事故原因であることを突き止めた人物だった。その後ボールは、鉄道時計に関する基準を設け、自身の会社でも時計を作り始めることになる。
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RAILROAD STANDARD[アメリカ鉄道公式時計]
創業者が鉄道の安全な運行のために定めた規準は、その有効性が認められてアメリカ鉄道時計のスタンダードとなった。そして多くの人と物を運ぶ鉄道の信頼性を高め、1900年前後のアメリカの発展に多大なる貢献を残すこととなった。
初期のボール ウォッチ製の懐中時計は、自社が定めた規準に則った正確さと見やすさ、頑丈さが特徴だった。鉄道関係に従事する様々な人々が手にできるよう価格を抑えたものも多くあり、ボール ウォッチは一つのステータスシンボルとなっていた。
鉄道事故をきっかけに走り出した栄光の歴史
ボール ウォッチ創業者のウェブスター・クレイ・ボールは、以前からクリーブランドで時計宝飾店を営んでいた。彼は、1883年に導入された標準時を元にワシントンの海軍天文台が行う時報を利用して正確な時刻を把握していたという。この時間に対する姿勢が、後にブランド誕生のきっかけとなる。
1891年に起きた“キプトンの悲劇”は、フルスピードで走る速達郵便列車とアコモデーション号という鉄道の衝突・炎上事故である。後者に乗っていた車掌の時間に対する認識の甘さと、同乗していた機関士の時計の4分の誤差が命運を分けたと言われており、その原因調査に任命されたのがボールだった。彼は、先の鉄道事故が起きた約3か月後には湖岸鉄道の監督検査官となって同鉄道の時計検査システムを考案。やがて全米の75%を占める、膨大な検査ネットワークの礎を築いたのだ。
ボールが考案したシステムが鉄道運行の「スタンダード」になった理由。それは、1900年前後ながら30秒以上の誤差を許さない精度へのこだわり、暗所でも時刻が視認できるだけの太い針とインデックスの義務付け、耐久性に直結する受け石を一定数以上組み込む、などの実用面にある。そして、この徹底された製品哲学は、現行コレクションへと受け継がれている。
前置きが長くなったが、ボール ウォッチは決して一朝一夕でできたブランドではないことはおわかりいただけただろう。長い歴史を持ち、実用性になによりもこだわる。だからこそ創業の地を離れ、現在は時計製造の最新技術が集まるスイスのラ・ショー・ド・フォンを拠点に選んだ。本社アトリエでは、時計の設計からパーツ単位の品質管理、ムーブメントの組み上げ、針の取り付け、ケーシング、最終検査を実施。こうして一流の技術を持つサプライヤーと、ボール ウォッチの製品哲学が融合し、時計界でも稀有なメカニカルタフウオッチは、晴れて出荷されることになる。
実用性の追求から生まれた様々な革新メカニズム
現代のボール ウォッチは、エンジニアハイドロカーボンに採用されるアイコニックな「セーフティロック・クラウンシステム」に代表されるように、優れたアイデアを直ちに具現化する柔軟さがある。近年でも、デザインの幅を広げるシートタイプのマイクロ・ガスライトや、透磁率の高いミューメタルを使った耐磁性構造など、革新的なメカニズムをいくつも打ち出しており、熱視線を送る時計愛好家は多い。その開発はムーブメントにまでおよび、テンプの耐振動性能を高める「スプリングロック」を開発。さらには自社ムーブメントまで完成させてしまった。これの量産化が軌道に乗れば、さらに多くの自社製ムーブメント搭載機が出てくることも容易に想像がつく。
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LA CHAUX DE FONDS[ラ・ショー・ド・フォン]
現在のボール ウォッチの製造拠点は、スイス時計産業の中心地ラ・ショー・ド・フォン。世界トップクラスの時計製造技術が根付く街で創業時の鉄道時計から続く性能を継承したスイスメイドの堅牢な実用時計を日々、作り出している。
ボール ウォッチのタイムピースの組み立てが行われる建物(写真下)。ボール ウォッチは、コレクションの大半を占めるエボーシュベースのモデルに耐衝撃構造などの堅牢スペックを持たせるべく、ムーブメントの組み立てはもちろん、設計から針の取り付けまで自社で行なっている。
長く使うことを考えたボール ウォッチプライス
こうした意欲的な新開発は、往々にして製品価格に反映されるものだが、ボール ウォッチにはそれがない。というのも、最初からボール ウォッチプライスの維持を徹底しているからだという。価格を抑えて広く愛される時計を目指す精神もまた、鉄道関係者に広く愛された創業当初から変わっていない。これは、製品のアフターメンテナンス料金も同様で、正規購入した人に向けたメンバー料金なら、他社に比べてランニングコストを随分抑ることができる。すべてはボール ウォッチを手にした人のため。時代によって人々の時計に対するニーズが変化する以上、このブランドもまた新しい技術を持って、私たちを驚かせてくれるだろう。
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HIGH VISIBILITY[高視認性]
2004年に日本でボール ウォッチが初披露された際に誰もが驚いたのが、自発光型の夜光装置「マイクロ・ガスライト」。夜間の鉄道運行時にも時刻が確認できるようかつて定められた視認性へのこだわりがいまも継承されていることを示している。
<自発光マイクロ・ガスライトを搭載する代表的コレクション>
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TOUGH & DEPENDABLE[信頼性のおける屈強さ]
鉄道時計を出自に持つボール ウォッチは、機関車を操縦する機関士や石炭をくべる機関助士他、多くの鉄道関係者に愛用された。寒冷地での夜間走行のような過酷な状況にも信頼して時刻が読める時計。それは脈々と継承されている。
問:ボール ウォッチ・ジャパン TEL.03-3221-7807
http://www.ballwatch.com/global/jp/home.html
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