初来日した「空飛ぶ眼科病院」の機内レポート

4月某日、関西国際空港にFLYING EYE HOSPITAL(FEH/=空飛ぶ眼科病院)が上陸。オメガがこの航空機を運営する団体の活動を支援しているつながりから、筆者は一般には非公開の機内を特別に取材できた。そこでこの航空機の活動内容なども踏まえつつ、内部をレポートする。

Text/Daisuke Suito (WATCHNAVI)

約40年で95か国、680万人以上の患者を治療

現在の機体であるMD-10の初フライト時の記録写真。2016年に撮影

関西国際空港に駐機していたFEHは、ボーイングMD-10型機をベースに眼科医院を設けた世界で唯一の航空機。運営しているのはニューヨークを拠点とする眼科医療の国際NGO「オービス インターナショナル」である。この団体は40年以上にわたり失明の予防および治療を最前線で行っており、眼の健康のためのあらゆるサポートを実践している。“空飛ぶ眼科病院”の名称の通り機内に手術室はあるものの、その活動は航空機でのオペのほか、世界各地の眼科医に必要なスキル、リソース、知識を活用するための研修やセミナーなど多岐に及ぶ。今までに95か国以上を訪問し、680万人を超す患者に治療を施してきた。

トレーニングイメージ

飛行機に搭乗して来日していたオービス インターナショナルの社長兼CEOデレク・ホドキー氏の説明によれば、適切な治療を受ければ回避できる眼の問題を患っている人は「視力低下」で世界に10億人、「失明」で3300万人、「視覚障害」で2億2700万人いるという。こうした人々の眼を健康な状態にするために、眼科医療の養成が必要な地域にトップレベルの研修を提供。世界規模で眼科医療レベルの底上げを行なっているのだ。

現地での手術の研修

現在は、日本人を含むオービスの医療専門家や臨床スタッフが現地の眼科治療チームに知識やノウハウをボランティアで伝えているという。研修は講義や手術のライブ配信も行われ、オービスの独自遠隔医療研修プラットフォーム「Cyber sight」を通じて世界中の提携病院や研修室に映像をシェア。1982年の初代DC-8や2代目のDC-10の時代は現地で活動に限られていたが、現在は世界中どこにいてもリモートで研修が行えるようになり効率的になったそうだ。今回、医療インフラの整った日本への訪問した理由は、上陸したことのない日本でFEHの活動を伝えるため。ちょうどパンデミック後に初めてとなるベトナムでの対面での手術トレーニングがあったことから、その前に来日することになったそうだ。

エチオピアで治療を受けた少女とその家族、看護師

オメガの支援は2011年から

機内では手術室のほか、研修室やケアルームなど術前・術後まで完結する設備がひと通り揃う。こうした設備の大半はドネーションされたもので、例えば航空機のシート一脚にも背面に寄付者の名前が記される。2011年から支援を行うオメガは、病院へ行くのを怖がる子どもたちのためにテディベアを提供(名前はシーモア/see more)。子どもや家族をリラックスさせるだけでなく、医師が症状や治療方法を患者に説明する際にも活用され、術後は患者が手術を受けたのと同じ場所にテディベアも眼帯をつけるのだという。オメガはまた、昨年11月にオービス インターナショナルとのパートナーシップの更新とともに250万ドルの投資も発表。他にも複数のプロジェクトでやプログラムの筆頭スポンサーになるなど、全面的な支援を行なっている。そうしたオメガへの謝意として、機内の各ルームにはコンステレーションモチーフの時計が壁に掛けられていた。

術後のケアルーム

以下は、オメガ発行のプレスリリースより引用。

「飛行機は常にどこかへ向けて出発しますが、今回の出発は特別な意味を持ちます。“空飛ぶ眼科病院”には、訓練を受けたプロフェッショナルたちが搭乗しており、彼らは暗闇の中で暮らす人々に視力という贈り物を届けています。オメガがオービスのかけがえのない活動を支援するという、重要な役割を担えることに心から喜びを感じます」(オメガ社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマン)

「オメガと私たちのパートナーシップは12年目を迎えました。オメガと素晴らしいブランドアンバサダーたちからのこれまでのサポートに心から感謝しています。治療にやってくる子どもたちに安心感を与えるために、機内にはたくさんのテディベアが用意されており、これもレイナルドとオメガチームのサポートのお陰です」(オービス インターナショナルの代表取締役社長のデレク・ホドキー)

FEHの手術室。飛行中は転倒や脱落を防ぐためすべて適切に固定、収納される

取材後記

筆者は恥ずかしながら限定モデルなどでしかオービス インターナショナルおよびFEHの存在を知らなかったため、今回の取材を通じてその実態を知ることができた。時計専門メディアに携わっていながら、こうした困難な状況に立ち向かうボランティアの人々と接点を持つことができる点も腕時計への興味が尽きない理由のひとつ。同時に、個人でできる社会的責任の果たし方について改めて考えたいと強く思った次第である。

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