国産時計ブランド【大塚ローテック】創業者が語る時計製作の楽しさと難しさ

異色の国産時計ブランド【大塚ローテック】から、新たに仕様変更を加えた「7.5号」が登場した。これを受け、編集部ではブランドの創業者である片山次朗氏にブランド誕生の経緯から最新作についてインタビューを実施。時計業界出身ではない片山氏の経歴がなぜ時計を手がけるようになったのか。現在に至る背景を聞いた。

大塚ローテック誕生の経緯

-大塚ローテックが誕生した経緯を教えてください

「カーデザイナーを経て、プロダクトデザイナーとして活動する傍ら、時計の旋盤を興味本位で買って、時計のケースをいじり始めたことがきっかけです。そこから中身やデザイン、設計を5年くらいやったところで、販売を始めました」

-機械加工の技術はどのように習得されたのですか

「旋盤は触ったことがなかったので、本を読んだり、検索したりしました。棒を削ったり、板に穴を開けたりして独学で習得しました。機械式時計の仕組みも本やネットで検索して理解しました」

-「7.5号」が誕生した経緯を教えてください

「1号2号3号と順番に作っていって、5号が発売した最初の商品で、次に6号、7号と作って、次は時計の表示方法をどのようにしようか考えて、7.5号を作ろうとしたときに、ジャンピングアワーや表示の仕方を3つに分けたデザインを思いついて、形にしたという感じです」

2020年に登場した「7号」の翌年に「7.5号」が誕生。2023年に、時計製造メーカーの東京時計精密株式会社に協力を経て、動作安定性と耐久性の向上を図るために設計、素材、加工方法を変更した。外装のケース素材はSUS303からSUS316Lに変更され、風防はミネラルガラスからサファイアクリスタルガラスに。アワー表示のレンズもアクリルから特注サファイアレンズとなり、バンド周りにはブランドロゴを刻印した尾錠と専用のレザーストラップが採用された。

大塚ローテック創業者の片山次朗氏

-3つの表示窓が特徴的なケースですが、デザインの参考にしたものはありますか?

「シネカメラというレンズが回転して切り替わる昔のカメラがあって、3つ4つあるレンズが面白いと思い、時計の表示にしてみてはどうだろうというところから始めました。時計のデザインは興味のあるモノや機構があって、それが組み合わさってできたという感じなんですね。この時はジャンピングアワーがブームだったので、これをどう表示のデザインに落とし込むか考えたのと同時にシネカメラの意匠を組み合わせてデザインしました」

-「7.5号」を作るにあたって苦労した点を教えてください

「3針の表示にギアを付けたりカムを変えたりして表示の仕方を変えるのですが、厚くなったり大きくなるので、出来るだけ薄くしたり、小さくコンパクトに収めたりする設計に時間がかかりました。時計は歯車や板でどんどん重ねると厚くなるので、2つに分けて半分にしたり、互い違いにしてトータルで低くなるなど、手を動かしながら、設計もしながら同時に考えています。そこが楽しいところでもあり、知恵を絞るところでもあります。やはり一番苦労するところは、デザインに落とし込むところなんです。その後の設計をして正確に作るところは、時間を掛けて繰り返し練習して精度を高めています」

創業者の片山次朗氏は、元々カーデザイナーやプロダクトデザイナーとして活躍しており、乗り物やヘルメット、家電製品などのデザインに携わってきた。この経験を活かし、外装とモジュールの両方をデザインすることができる時計師は、世界的に見ても稀有な存在といえる。

ジャンピングアワー機構を搭載した「7.5号」

ジャンピングアワーを搭載した最新作「7.5号」

大塚ローテックの最新作「7.5号」は、ジャンピングアワー機構が特徴だ。金属の質感を活かすべく主にヘアライン加工で仕上げたケースは、先述の通り昔のシネカメラなどからインスピレーションを受けている。ケースに設けられた3つの小窓は時・分・秒をそれぞれ表示し、ジャンピングアワー機構が搭載された時表示は、正時になると瞬時に数字が切り替わる。ベースに日本のミヨタ製ムーブメントを用いて、そこに片山氏が設計した専用モジュールを組み込む。バネや歯車など約30点の部品で構成されたモジュールは1つ1つの部品の僅かな厚みの違いでも組み合わせると大きな誤差が生じるため、寸法の差を考慮しながら適切な部品同士を見つけて組み合わせている。

大塚ローテック創業者の片山次朗氏

片山氏が製作したジャンピングアワー機構は、できるだけ薄くするためモジュールの設計に拘っている。アワーディスクの寸法が難しく、軸受けの軸の先端を削って5ミクロン以内の誤差に収めなければならない。また板バネ自体の厚みと太さが数十ミクロン異なるとテンションが変わってしまい時計が止まるリスクが生じるなど、パーツ加工に極めて高い精度が要求される設計となっている。また、リューズを逆回転させた場合に故障しないための安全装置も設置。逆回転した際に負荷を和らげる機能をアームに搭載し、限られたスペースの中でもしなやかに動く形状となっている。安全装置を含めたアームユニットはアームの表と裏に2種類の板バネを配置した3層構造になっており、全部で9点の部品から構成されている。これらの部品1つ1つを正確に動くように設計し、調整まで行う片山氏の技術力の高さが伺える。

日本では「7.5号」のような汎用ムーブメントにモジュールを搭載した量産品は存在せず、唯一無二の個性を持つジャンピングアワーウオッチが誕生した。この独自の機構が評価され、スイスの国際時計博物館(MIH)にも収蔵されているという実績を持つ。

自分が想像したことをいかにデザインに落とし込むか。この点に長けているのは、やはりプロダクトデザイナー出身という経験が活かされているからに違いない。片山氏のモノ作りは、ツマミを回しレバーを倒して操作するアナログ感や、金属の持つ無骨で強靭な重量感から生み出される温かみのあるフォルム感などが、デザインの源泉になっているという。大塚ローテックの時計は、「自分が欲しい時計を作る」という信念から生まれたもので、高い技術力と片山氏の個性や人柄を感じさせるデザインに魅力が詰まっていると感じた。

大塚ローテック「7.5号」 29万7000円/自動巻き、毎時2万1600振動、約40時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、レザーストラップ。サファイアクリスタル風防(反射防止・指紋防止加工)。直径40mm。日常生活防水。

 

【7.5号抽選販売】
抽選販売応募受付期間:2023年11月10日(金)まで
当選・落選発表日:2023年11月13日(月)
抽選販売応募ページ:https://otsukalotec.base.shop/items/78157661

 

ダブルレトログラード機構を持つ「6号」

大塚ローテック「6号」 自動巻き。毎時2万8800振動、約40時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース、レザーストラップ。ミネラルガラス。直径42.6mm。日常生活防水。

 

片山次朗氏の工房

原宿にて初となるイベントを開催

大塚ローテックは、ブランド初となるイベントを原宿で開催する。原宿駅前にあるWITH HARAJUKUのメインエントランスで時計の展示を行う。10月18日(水)~10月25日(水)までの期間限定開催だ。

イベントに対し、創業者の片山氏は、以下のようにコメントしている。

「これまで海外バックオーダー分と国内抽選販売分の対応に追われ、皆さまに実機をご覧いただく機会をなかなか設けることができませんでした。やっと今年になり展示に出す時計の準備が整いました。過去の作品やプロトタイプなどもご覧いただけますので、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです」

片山次朗氏の工房

【ŌTSUKA LŌTEC Exhibition in Harajuku】
開催場所:WITH HARAJUKU 1F エントランス
住所:東京都渋谷区神宮前1丁目14番30号
開催期間:2023年10月18日(水)~25日(水)10:00~19:50(25日は19:00閉場)
入場料無料
URL:https://withharajuku.jp/

 

問い合わせ先:大塚ローテック https://otsuka-lotec.com/ ※価格は記事公開時点の税込価格です。

Text/平野翔太(WN編集部) Photo/鈴木謙介

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