<取材協力>
オーデマ ピゲ(AUDEMARS PIGUET)
これまであらゆるアーティストらとコラボレートしてきた【オーデマ ピゲ(AUDEMARS PIGUET)】の次なる相手は、ニューヨークを拠点に活躍するKAWSである。新たな技法や機構を駆使して時計表現の限界を突破し続けるブランドの近年のコラボ事情にもフォーカスしながら、最新作の魅力を検証する。
〈KAWS/カウズ〉1974年生まれ。ニューヨーク、ブルックリン在住。美術館やギャラリーで定期的に活動しながら、時にそうした場を超えて人々を魅了。過去20年間にわたり、表現形式を機敏に変化させる才能と、根底に流れるウィットと反骨精神、そして現代への愛を示す作品によって、成功を収める。
「このプロジェクトの実現にあたり2年という時間をかけてオーデマ ピゲと仕事ができたことは素晴らしい経験でした」――KAWS
今回の時計と並ぶ主役的キャラクター“コンパニオン”は、一説によると日本のアパレルブランドから1999年にリリースされたフィギュアがきっかけだという。それから約25年を経た今、“コンパニオン”はオーデマピゲの時計に収まっている。
アーティストのKAWSは、スケボー少年からストリートアートの若き旗手となり、そして世界的なブランドとコラボレートするほどのアーティストとなった。彼の作品の解釈は人によって異なるため、これは個人的な感想だが、ポップなキャラクターが“しそうにないこと”を描いたような作風は、親しみがありながらどこか哲学的でもあるように筆者は捉えている。
今回の「ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン“コンパニオン”」は、キャラクターがガラスに顔と手を押し付けた構図が印象的。その姿は、私たちの世界を好奇心いっぱいに覗き込もうとしているかのようだ。キャラクターの勢いに押されたのか、ロイヤル オーク針は外側へと追いやられ、三角に折れ曲がってしまった。それでもなお脈打つトゥールビヨンという心臓の鼓動とリンクしながら、針は正確な時を刻む。
ミニチュア“COMPANION”を引き立たせる革新のペリフェラル式時刻表示
ミステリーウオッチのように時分針が周回する独創メカニズムにより、広大なスペースを確保。ダイナミックなアート表現を可能にした。
↑三角形を構成するラグのポリッシュ面が印象的な「ロイヤル オーク コンセプト」をベースに、驚くほど立体的な造形を実現。針を支える軸がこの角度から確認できる。
↑ミニチュアはチタン製。ライトグレーとダークグレーのコントラストが、キャラクターの存在を強調する。特徴的な「X」の目にはグレーラッカーで色味を添えた。
↑KAWSの「解剖シリーズ」に着想を得て、トゥールビヨンを“心臓”に見立てる。蓄光加工の針はローラーで支持された重なる2層のホイール上にセットされている。
↑ムーブメントの裏ブタ側は、ブラックPVDチタン製のプレートに施されたパデッドデザインが目視可能。大胆に配置された角穴車は、手巻き時にその動きが楽しめる。
時計の中からこちらの世界を覗き込む“コンパニオン”
こうした表現を実現させるべく、今回の限定モデルは開発に2年の歳月を経たという。時計部分で注目すべきは、「ペリフェラル式時刻表示」。これにより腕時計の完全なるキャンバス化を実現したのである。加えて、厚みがあることを特徴とする「ロイヤル オーク コンセプト」をベースに選ぶことで、ミニチュアの表現の自由度を飛躍的に高めたのだった。
文字盤から視野を広げて時計を見渡すと、ベゼルの六角ビスの頭がマイナスではなく、KAWSのシグネチャーである「X」となっている。しかも中心に向かうよう位置を揃えるあたりは、さすがオーデマ ピゲだ。ケースバックに目を移せばKAWSのキャラクターたちにインスパイアされたパデッドデザインのブラックPVDチタン製ブリッジが目に飛び込んでくる。露出した角穴車も「X」の形にスケルトナイズするなどの手の込み具合は、もはや圧巻のひと言に尽きる。
↑〈新型ムーブメント「キャリバー2979」を搭載〉今回のコラボウオッチのために作られたキャリバー2979は、6時位置にトゥールビヨンを搭載。ペリフェラル式時刻表示により、文字盤中央にミニチュアを置く十分なスペースを作り出した。開発にあたった研究開発ディレクターのルカス・ラッジ氏は、「このコラボレーションは、時計製作技術の限界への挑戦でした」とコメントしている。
日本ともゆかりの深いKAWSとのコラボレーションゆえ、国内でさえ争奪戦は必至。果たしてこの世界限定250本のアートは、「ロイヤル オーク コンセプト」の中からどのような世界を見ることになるのだろう。きっと“コンパニオン”も、誰と同じ時を過ごすことになるのか、楽しみにしているに違いない。
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン “コンパニオン”」 Ref.26656TI.GG.D019VE.01 価格要問い合せ
KAWSの代表的なキャラクター“コンパニオン”のミニチュアを文字盤中央に配置した新作。このデザインを実現させるべく、オーデマ ピゲは新たにペリフェラル(=外縁)式時刻表示を開発した。
スペック:手巻き(自社製Cal.2979)、毎時2万1600振動、約72時間パワーリザーブ。チタンケース(シースルーバック)、カーフストラップ。直径43mm、厚さ17.4mm。10気圧防水。世界限定250本。
オーデマ ピゲ コラボレーションの変遷 – オーデマ ピゲの個性豊かなコラボウオッチはいつから始まったのか。最新作の発表を機に、ここで改めて直近のモデルと共に振り返る
今回のKAWSとのコラボレーションウオッチを発表するにあたり、オーデマ ピゲCEOのイラリア・レスタ氏は次のようにコメントしている。
「アート、ポップカルチャー、スポーツ、エンターテイメントなど、多様な分野と交流し、コラボレーションを深めているオーデマ ピゲは、常にコンテンポラリーカルチャーの一部となっています(後略)」
実際のところオーデマ ピゲは1986年、モナコ-サントロペ間の権威あるヨットレース「オーデマ ピゲ トロフィー」のスポンサーとなるなど、異なる分野との関係を構築してきた。転換期を迎えたのは、1997年。オーデマ ピゲ前CEOで当時は営業担当だったフランソワ-アンリ・ベナミアス氏が、あのアーノルド・シュワルツェネッガー氏にル・ブラッシュのミュージアムを案内したことだった。オーデマ ピゲの蒐集家であり、まだ評価が分かれていた頃の「ロイヤル オーク オフショア」の愛用者でもあったシュワルツェネッガー氏は、その数か月後にベナミアス氏とサンタモニカのレストランで再会。ここで一緒に時計を作る約束をしたのだ。
そしてオーデマ ピゲは1999年、主演を務めるシュワルツェネッガー氏が劇中でも着用したハリウッド大作映画『エンド オブ デイズ』の公開に合わせて、コラボレーションウオッチ「ロイヤル オーク オフショアエンド オブ デイズ(25770SN 42mm)」を世界限定500本で発表するに至った。このモデルはビッグサイズやコラボといった時計自体の個性もさることながら、「売り上げの一部を、アメリカで設立された恵まれない若者にスポーツと教育プログラムを提供するインナーシティゲーム財団の資金とする」というドネーションウオッチとしても、時代の先を行っていたことを付記しておく。
↑アーノルド・シュワルツェネッガー氏との初コラボとなった、1999年発表の「ロイヤル オーク オフショア エンド オブ デイズ」。
その後、オーデマ ピゲはさらに2004年よりF1レーサーのファン・パブロ・モントーヤを筆頭に、ルーベンス・バリチェロ、ミハエル・シューマッハ、NBAのシャキール・オニールなど、あらゆるスポーツのレジェンドとコラボレーション。2005年にはジェイ・Zのデビュー10周年を祝したモデルの発表により、ミュージシャンとも初めてコラボレーションを果たした。これらはロイヤル オークオフショアのオーバーサイズがあればこそ実現できたものであったことは間違いない。そして、様々なパートナーとの信頼関係を築いたのがベナミアス氏であろうことは言うまでもない。
オーデマ ピゲが実現した近年のコラボウオッチをプレイバック!!
近ごろオーデマ ピゲのコラボウオッチが世間を騒がせているのはご存知の通り。振り返ると改めてその独創性に驚かされる。
「ロイヤル オーク オートマティック (キャロリーナ・ブッチ限定モデル)」
Ref. 77350CE.OO.1266CE.02.A 価格要問い合わせ/現代ジュエリー界を象徴する宝飾デザイナーが、直径34mmのロイヤル オークに独自世界を構築。レインボーカラーのサファイア文字盤に、タペストリーパターンを採用。ブラックセラミックの外装の中で輝きを放つ。自動巻き。世界限定300本。
「ロイヤル オーク コンセプト トゥールビヨン“スパイダーマン”」
Ref.26631IO.OO.D002CA.01 価格要問合せ/世界を驚かせたマーベル®コラボの第2弾として登場。今にも飛び出してきそうな躍動的なスパイダーマンのミニチュアは、裏から見ても驚くべき完成度だ。手巻きトゥールビヨンムーブメント、キャリバー2948をベースに新開発されたキャリバー2974を搭載する。チタンケース。世界限定250本。
「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ 42mm」
Ref.26238BC.OO.2000BC.01 価格要問い合わせ/デザイナー、マシュー・ウィリアムズ率いる1017 ALYX 9SMとのコラボは、クワイエットラグジュアリーを強く意識させる文字盤が特徴。ミニマルであることで際立つヘアライン仕上げが雄弁に時計のキャラクターを引き出す。自動巻き。18Kホワイトゴールドケース。世界限定76本。
「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー オープンワーク“ カクタスジャック”」
Ref.26585CM.OO.D301VE.01 価格要問合せ/ヒップホップアーティストのトラヴィス・スコットが設立したブランド兼レコードレーベルとのコラボ作は、厚さ9.9mmの薄型永久カレンダー搭載の複雑系。手描き風フォントを配したスケルトン文字盤に独特な月の表情、ブラウンセラミックなど個性に溢れる。自動巻き。世界限定200本。
「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー “ジョン・メイヤー”」
Ref.26574BC.OO.1220BC.02 価格要問合せ/名機と名高い自動巻き永久カレンダームーブメント、キャリバー5134のファイナルを飾った一本は、時計コレクターでもあるミュージシャンのジョン・メイヤーとコラボした本機。新たなエンボス文字盤「クリスタルスカイ」仕上げは、宝石のような輝きを見せる。自動巻き。18Kホワイトゴールドケース。世界限定200本。
時計以外でも多岐にわたり手を取り合う。もはやカルチャーとなった「オーデマ ピゲ」という存在
近年のオーデマ ピゲは、現代アートの祭典「アートバーゼル」やスイスを代表する音楽イベント「モントルー・ジャズ・フェスティバル」のスポンサードなどといった、カルチャーとの関わりも深めている。そして、コラボレーションウオッチの製作もさらに加速中。ミュージシャンにファッションデザイナー、果てはコミックまで、あらゆる分野をクロスオーバーしてきた。そしてそれらのタイムピースを発表するごとに表現の幅を広げ、進化を遂げてきたのである。
↑2019年からグローバルパートナーを務める「モントルー・ジャズ・フェスティバル」にて、2024年は“オーデマ ピゲ パラレル”エクスペリエンスを実施。 ©MarcDucrest
もちろんオーデマ ピゲのモデルゆえ、決して誰もが手にできるという確証はない。ただ、最新のKAWSコラボレーションがそうであるように、アート作品として捉えた場合には鑑賞できるだけで眼福ともいえる。ただ唯一、コラボウオッチが絵画や彫刻などと違うのは、ある程度の本数が作られるという点。世界最高峰の時計製造技術を持って作られるのだから、コラボレーションを望むアーティストやミュージシャン、アスリートは多いに違いない。そうした経験を重ねるごとにオーデマ ピゲは、これから先も豊かに発展を遂げていくのである。
↑芸術家アレクサンドラ・ピリチのパフォーマンスは、ハンブルガー・バーンホフ現代美術館とオーデマ ピゲ コンテンポラリーの共同コミッション作品。 ©Courtesy of the artist and Audemars Piguet
製品に関する問い合わせ先:オーデマ ピゲ ジャパン TEL.03-6830-0000
※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
Text/水藤大輔(WATCHNAVI)
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