卓越した時計製造技術と工芸的な美意識が融合した、2つの新作ウオッチをピックアップ。ひとつは、日本を代表する名峰・富士山をテーマに据えた【ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)】のポケットウオッチ「エスカル・オ・モン・フジ」。もうひとつは、象徴的な複雑機構を現代の色彩で再構築した【クロノスイス(CHRONOSWISS)】の「ルナ クロノグラフ オーロラ」だ。どちらも熱心な時計愛好家を唸らせる珠玉の仕上がりとなっている。
世界で一本のユニークピース「エスカル・オ・モン・フジ」
ルイ・ヴィトンの旅の精神を体現するハイウオッチメイキング・コレクション「エスカル・オートゥール・デュ・モンド」。世界各地の情緒溢れるデスティネーションを巡る同シリーズは、一点物のオート・オルロジュリー(高級複雑時計)をポケットウオッチという形で発表し続けている。その最新作として、日本の春と富士山を描き出した「エスカル・オ・モン・フジ」が登場した。
本機最大の見どころは、絵画的な美しさと精巧な造りを誇るダイアルの意匠だ。流麗な筆致と繊細なグラデーションによって、名峰・富士山を鮮やかに表現。たなびく雲の精緻な描写や背景に溶け込むような境界線の処理は、まさにサヴォアフェールの結晶といえる。水面を滑るように進む木製の釣り船の上では、福を運ぶ守り神として崇敬されてきた“えびす様”がメゾンのアイコニックなトランクと共に描かれている。えびす様の穏やかな表情や鯛の鱗、船の側面の網目に至るまで、エングレーバーが自作の工具を用いて彫刻を施したもの。また、背景の空はピンクとブルーのグラデーションが美しいエナメルで彩られているが、ダイアル全体で合計40回にも及ぶ焼成を経て、この深みのある色彩は完成した。川のきらめきを表現するために採用されたパイヨンエナメルは、光の反射を巧みに操り、瑞々しい情景を見事に再現している。
ベゼルには60石のサファイアをセッティング
「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」のアーティスティック・ディレクター、マチュー・エジは本作について次のように語る。「目指したのは、従来の標準的な技法を超えること。特製の工具を開発することも、比類のないマイクロエングレービングを実現することも、すべてはそのための挑戦でした」。その言葉通り、本作は彫刻に約160時間、ムーブメントの組み立てと仕上げに500時間を費やすなど、気の遠くなるような作業の集積によって完成している。スペック面に目を向けると、18Kホワイトゴールド製ケースは直径50.0mm、厚さ19.0mmという堂々たるプロポーションを誇り、ベゼルには60石(計3.74カラット)のバゲットカット・サファイアが、ダイアルの色調に合わせたグラデーション状にセッティング。驚くべきは、時刻を示す指針をケースバック側に配置した点だ。これにより、ダイヤル全面を一切の遮りがない“ミニチュアシアター”として活用することに成功している。
本機の心臓部には、手巻きムーブメント「キャリバー LFT AU14.03」を搭載。特筆すべきは、ミニッツリピーターとトゥールビヨンに加え、4つのアニメーションを備えたオートマタ(からくり)を搭載している点だ。12時位置で回転するゴールドのコンパスローズ、水面を滑る釣り船、そしてゆっくりと開閉するトランクから覗くモノグラム・フラワー。さらには、風に揺れるように動く桜の花。これらすべての動きをムーブメントが完璧に統制。ハイウオッチメイキングの限界に挑み続ける、メゾンの比類なき技術力が遺憾なく発揮されたムーブメントとなる。
ルイ・ヴィトン「エスカル・オ・モン・フジ」 価格要問合せ/手巻き(Cal.LFT AU14.03)、毎時2万1600振動、192時間パワーリザーブ。18Kホワイトゴールド製ケース&チェーン。直径50.0mm、厚さ19.0mm。30m防水。
問い合わせ先:ルイ・ヴィトン カスタマーサービス TEL.0120-00-1854 https://jp.louisvuitton.com/jpn-jp/homepage
美しいオーロラを表現する「ルナ クロノグラフ オーロラ」
このルイ・ヴィトンの古典的な情緒をテーマとした新作に対し、クロノスイスが提示するのは、現代的な色彩と伝統機構の融合だ。1999年のデビュー以来、ブランドの顔として愛されてきた「ルナ・クロノグラフ」を再解釈し、「ルナ クロノグラフ オーロラ」が誕生した。本機最大の見どころは、その名の通り北極の空を舞うオーロラを再現したダイアルだ。職人の手による繊細なギョーシェ彫りが施された文字盤には、最新のCVDコーティングが採用されている。手首を動かすたびに深いグリーンから鮮やかなブルーへと色彩が移ろい、まるで光のカーテンが揺らめいているかのような錯覚を抱かせる。
機能性も極めて高く、6時位置に12時間計、12時位置に30分積算計、9時位置にスモールセコンドを配し、さらに3時位置にはムーンフェイズをレイアウト。特筆すべきは、文字盤外周を指し示すポインターデイトの存在だ。このクラシカルな日付表示が、現代的な色彩を纏ったダイヤルに歴史的な重みを与えている。
大型のオニオンリューズなど伝統のディテールは健在
ケースは直径41mm、厚さ15mmのステンレススチール製。23個ものパーツで構成される複雑な構造を持つ。サイドのローレット加工、大型のオニオンリューズ、スクリューラグなど、クロノスイスのDNAは細部にまで宿る。内部には、約46時間のパワーリザーブを確保する自動巻き「キャリバー C.755」を搭載。シースルー仕様のケースバックからは、コート・ド・ジュネーブ装飾が施されたローターを鑑賞できる。
また、ストラップにはダークグレーのヌバックレザーを合わせることで、ダイアルの鮮やかな発色を引き立てつつ、都会的で洗練された印象にまとめ上げた。年間わずか1500本という限られた生産量の中で、これほどまでに個性的な表現を追求できるのは、ルツェルンの自社アトリエで研鑽を積んできたクロノスイスならではの強みと言えるだろう。
クロノスイス「ルナ クロノグラフ オーロラ」 Ref.CH-7543L-DGR 253万円/自動巻き(Cal.C.755)、毎時2万8800振動、約46時間パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、ヌバックレザーストラップ。直径41mm、厚さ15mm。10気圧防水。2026年4月発売予定。
問い合わせ先:栄光時計 TEL.03-3837-0783 https://chronoswiss.com/ja/JP ※価格は記事公開時点の税込価格です。限定モデルは完売の可能性があります。
Text/三宅裕丈

























