IWCシャフハウゼンは、アメリカ人時計師のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズがスイスにわたり、1868年にインターナショナル・ウオッチ・カンパニーという社名で創業した。以来、150年以上におよぶ長い歴史のなかでも各国軍の装備品として採用された実績を持つ「パイロット・ウォッチ」は、多くの実用主義の人々にいまも愛されている。1930年代から40年代に製作されたモデルをルーツに持つこのコレクションは、コンセプト・機構・素材などで様々な発展を遂げている。だが、その基本にあるのは、まさしくコックピットの計器に通じる白と黒のみで構成されるハイコントラストなデザイン。そうしたデザインの究極型ともいうべき外装までオールブラックにした初めてのモデルが、1994年に発表したセラミックケースの「ブラック・フリーガー」Ref.3705だった。
Text/Daisuke Suito(WN)
ライフスタイルに溶け込む理想的なツールウオッチの追求
まばたきする間に数百メートル進むような高速飛行状態では、計器の確認は速やかに行わなければならない。当然パイロットは、コックピットの計器から瞬時に情報を得て的確な判断が求められる。一瞬が生死をわける軍用機ならなおさらだ。
一般的に腕時計に視認性を求める場合は、文字盤色と表示類の色のコントラストが高いほど良いとされている。白と黒のみで構成されたIWCの「パイロット・ウォッチ」は、その規範ともいえるデザインだった。そして、このツールウオッチが民生品として世界的に定着した1994年、IWCは酸化ジルコニウム原料のハイテクセラミックスをケースに使った「ブラック・フリーガー」を発表する。
1988年からの流れを汲むクロノグラフをベースに開発されたフルブラックの“計器”は、サファイア同等の硬度を誇るケースを得て別次元の堅牢性を獲得。その一方で、製造の困難な新素材を使って時代を先取ったこの時計は、1本の試作機と999本の製造を持ってディスコンとなる。それから20年以上、“ブラック・フリーガー”は知る人ぞ知る伝説の存在となっていた。
現在、カルト的な市場評価を得るきっかけについて、ブランドの公式発表によると“4、5年ほど前に時計コレクターとIWCファンの方々が突如このモデルを再発見し、現在のようなアイコンモデルになりました。”とある。つまり、ようやくIWCの革新的な試みに時代が追いついたわけだ。
しかし、いくら堅牢なハイテクセラミックスケースを使った堅牢時計とはいえ、合計1000本のみで製造されたオリジナルはすでに完売。並みのセカンドマーケットで探しても入手できる可能性はあまりに低い。※世界的に展開しているオンライン時計売買サイト「Chrono24」で「IWC 3705」と検索すれば、入手難易度の高さがわかるだろう。
現代技術で蘇るブラック・フリーガー“第2世代”
最新作「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ “トリビュート・トゥ・3705”」は、1990年代という比較的新しいレジェンドウオッチが持っていたデザイン、スタイルを求める現代の時計愛好家のために、IWCが新たに作り上げた第2世代となっている。
オリジナルモデルのケースが酸化ジルコニウムを原料としていたのに対し、トリビュートモデルではIWCが誇る最先端の「セラタニウム」を採用。この素材は、チタニウムとセラミックの特殊合金がベースとなる通り、ふたつの素材の利点「軽さ」と「硬さ」を兼ね備えている。高温の炉を使って焼き上げられるケースは、わずかにグレーがかった独特の黒色も特徴で、素材自体が黒色のため表面に傷がついてもコーティングのように色が剥がれる心配は無用。2019年に初披露されて以後、現在もなお製法はシークレットとなっているが、その手間は1994年当時にハイテクセラミックスのケースを作るのと同等以上であることは想像に難くない。
ムーブメントは、「ブラック・フリーガー」では社外ベースの7902キャリバーを搭載していたが、最新作では自社製キャリバー69380となる。爪巻き上げ機構によって主ゼンマイを巻き上げ、コラムホイールによってクロノグラフの動作を制御するこの新時代の定番クロノグラフキャリバーは、すでに多くのモデルに搭載されており信頼性は実証済み。これを軟鉄製インナーケースで保護することで、パイロット・ウォッチの伝統に相応しい耐磁性能も確保している。機能は時刻表示とクロノグラフ、デイデイト表示まで1994年タイプと共通。一方で、サイズが39mmから41mmとなり、インダイアルのデザインが変更された。このように細部を見ながら新旧の違いを発見するのは、モデルを問わず楽しいものだ。
先代と同じく1000本で限定製造される「ブラック・フリーガー」第2世代は販売方法も現代的になっており、購入できるのは直接電話(TEL.0120-05-1868)でリクエストするか、オンラインストア「iwc.com」(日本では4月以降スタート予定)で手続きするのみ。製品を手にとって吟味してから判断したい人にはかなりハードルの高いものとなっている。だが、冷静に考えてみてほしい。もし仮にいますぐ第1世代を購入しようとしたら、もはや海外のネットショップから高額で手に入れるしか方法がない。つまり見ることなく買うことが前提となる。
この第2世代についても第一報を聞きつけてすぐに購入を決断したファンは多く、日本への初回入荷分はすでに完売したという。こうした事情から次の入荷分がラストチャンスになる可能性は極めて高く、必ず入手したいならすぐにでも予約しておく必要があるだろう。この記事を読んで少しでも購入する意思が湧いた人に、ひとつアドバイスをしよう。流通経路がオンラインストアのみということは、取るべき行動も極めてシンプル。まずはiwc.comの製品ページで改めて詳細を確認し、IWCコンシェルジュに即電話(TEL.0120-05-1868)するだけだ。
もし、どうしても見ないと決められないという人は、IWC銀座ブティック(東京都 中央区 銀座6-6-1 TEL.0120-261-868)に試着用のサンプルの用意があるそうなので、一度問い合わせてみてもいいだろう。ただし、世界的にかなりの争奪戦が繰り広げられているようなので、迅速な判断が求められることはくれぐれもお忘れなく。
問い合わせ先:IWCシャフハウゼン TEL.0120-05-1868
https://www.iwc.com/
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