新型コロナウイルスの世界的まん延の関係から、改めて日本には輸入品が数多く出回っていることに気付かされた人もいるだろう。時計市場においても欧州勢を中心に入荷が遅延し、予定されていた発売日が延期となった新作もある。
そこで時計だけではなく注目を集めているのが、“国産”だ。スイスに次ぐ時計大国の日本には、長い歴史を持つ4大メーカーが存在し、国内外問わず高く評価されている。いま再び、“国産”の底力を見つめ直すきっかけとして大手4社のキーパーソンに取材し、その高度な技術や斬新なアイデア、先進的なデザインの魅力あるコレクションについて尋ねた。
第4回は、WATCH NAVI編集長・水藤大輔が、【オリエントスター(ORIENT STAR)】を製造する秋田エプソンを訪問し、その設備の充実性や技術の高さを目の当たりにした模様をお届けする。
シリコン製ガンギ車を搭載したF8キャリバーは、圧倒的な特別品だった!!
秋田エプソンでの取材で最も時間をかけたのは、オリエントスターのトップモデルに搭載されているF8ムーブメントの組み立てだ。作業にあたる専任技術者(人数等は非公開)との話を交えながら作業工程をレポートする。
(技術者)「F8ムーブメントは、専用トレイにパーツが揃った状態で届きます。これを組み上げ、調整していくのが私たちの作業です」
そのトレイとは別に並んでいるのが、シリコン製ガンギ車。富士見事業所(長野県諏訪郡)から届いたシリコンウエハーから切り出す作業も専任技術者が行うのだという。
(技術者)「熟練には時間がかかりました。繊細な部品なので細心の注意を払い作業しています」
実はこのシリコン製ガンギ車は組み立てが必要だ。スイス勢が主に採用するシガテック社製などの場合、ガンギ車の軸の取り付けは中央の穴に差し込み、恐らくは接着剤で固定する手法。だが、F8ムーブメントにセットされるガンギ車はシリコンのしなる特性を利用し、バネ性を持たせた形状を開発。さらに“カナ”と密着させて中心を一致させる工夫も施されている。また、“カナ”のスリットに合わせた回転ずれ防止形状も作り込み、座(ワッシャー)をはめ込むことで接着剤を使うことなく強固な嵌合(かんごう)を実現した。これら特許構造を組み立てる一連の作業も、専任技術者の作業に含まれている。
プリンタヘッドにも使われるMEMS(微小電気機械システム)と、長年培ってきた時計製造技術の融合。これがシリコン製ガンギ車の正体だ。しかし特別なのはこれだけではなかった。
他のキャリバーが人とマシンのベストミックスで作られるのに対して、F8ムーブメントは石入れを含む組み立て製造のほとんどが手作業により作られる。真新しいキャリバーに専任技術者を立てるとしても、そのハイレベルな作りからいきなり増員はできない。よって、秋田エプソン内でも最も生産本数の少ない、希少なムーブメントとなるわけだ。
聞けば、完全に手で組み上げるムーブメントは、2004年に発表された当時の最高峰「ロイヤルオリエント」に搭載されたキャリバー88700以来ではないか、とのこと。まさにオリエントスター誕生70周年の節目に更新されることとなった最高峰の歴史、そして受け継がれる技術を垣間見る機会となった。
オリエントスター「スケルトン」Ref.RK-AZ0001S 31万9000円
46系キャリバーF8B62を搭載した新たな最高峰オリエントスター。自社開発・製造したシリコン製ガンギ車の搭載により、動力伝達効率を大幅に改善し、70時間駆動を実現している。日差+15~-5秒の高精度も特徴。
スペック:手巻き(自社製Cal.F8B62)、70時間以上パワーリザーブ。ステンレススチールケース(シースルーバック)、両球面サファイアクリスタル(SARコーティング)、本ワニ皮革ストラップ。直径38.8mm(厚さ10.6mm)。5気圧防水。
問い合わせ先:オリエントお客様相談室 TEL.042-847-3380 https://www.orient-watch.jp/orientstar/
Text/水藤大輔 Photo/岸田克法
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